225 島主を救い出せ
朝陽を受けながら走り続けた馬車がようやく止まる。
あの後、追撃は一切なく、私にも異変は起こらなかった。
飛び降りたゼムが体を伸ばしながら、同じく馬車から降りた私に声を掛ける。
「いきなり面倒事になったが、疲れてるか?」
「あの程度、何にもならないわよ」
追手そのものは大した事は無い、、、その最中のアレにはかなり消耗したけれど。
それについては対策を考えるとして、今は先にやらないといけない事がある。
「それより、ここは?」
「細かい場所は、、、念の為黙っておく。オレ達の隠れ家の一つで、エオローの島主達を助ける為にそこそこの仲間が集まってる」
見た所、小さな町のようだけど、やけに女の数が多い気がする。
勿論、男も居るし、子供も老人も居る。
ただ、子供はともかくとして、大人達はその比率がかなり偏っている様に見える。
「気付いたか?」
「ええ、、、どう足掻いても苦難の道よ?」
問い掛ける私に、ゼムは町行く人々を見つめながら頷く。
「ああ。アンタもアニキに好き勝手されただろ?あんな事が、この国じゃ当たり前なんだ。イカれてるだろ?双血の楔ってのはな、古くからそれと戦い続けてきたんだ。だから、オレも手を貸してる」
だから、女の方がより多く加わっているのか。
そう聞くと、寧ろこれだけの男が組織に加わっている方が驚くべき事なのだろう。
ただ、帝国の影響はエオローにも及んでいた。
だからこそ、島主もこの組織とは関わりが無かったのだろう。
でも、だとすると一つ疑問、というか謎が出てくる。
「あの海の壁は?私はてっきり、アンタ達が造ったと思ってたんだけど」
「あれはアニキの仕業だよ。アニキの目的は聞いてるか?」
確か、何か言っていた気はするけど、あの時は余裕が無かったし、その後も色々あったせいで覚えていない。
ただ、そういえば、、、
「エオローを取り戻す、とか言ってたわね」
「そうだ。アイツはエオローをもう一度ヤーラーンの物にしようとしてる。表向き、観光資源を狙ってって抜かしてるが、、、」
ラウの性格を考えれば、それは嘘では無いけど本質では無いだろう。
その先、島主をも排除して、行く行くはヤーラーンの皇帝となる、そこにどんな意味があるのだろうか。
「まぁ、今ここで考えても仕方ねぇ。それを阻止する為にも、まずは島主を助け出す」
チラリとこちらを見て合図を送る彼に付いて、町の中を歩いていく。
幾つか道を曲がり、奥まった所に建つ建物に入る。
屋敷か何かだったのか、中は広々としていて、既に多くの人が集まっていた。
「待たせたな!助っ人を連れてきたぜ!」
いや、勝手に助っ人なんて押し付けるな。
ゼムの足を蹴って文句代わりにするけど、飄々と笑って流される。
とにかく、ここが双血の楔の隠れ家で、彼らはそのメンバーなのだろう。
ゼムに連れられて彼らの間を抜け、向かい合う。
「細かい話は後だ。状況は?」
ゼムが声を掛けると、一人の女が前に出てくる。
「確認出来ました。エオローの島主達は現在、帝都から移送されて西方の要塞に囚われているようです」
「あそこだと?ここから近いじゃねぇか」
「罠ね。ラウも恐らくそこに居るわ」
ゼムも同じ事を考えていたのだろう、私の言葉に頷く。
「ああ、オレ達を潰す為の餌だろう。だが、行かねぇと島主達は殺されちまう、、、どうしたものか」
腕を組んで宙を見つめるゼムの横顔を見て、一つだけ作戦を思い付く。
ただ、私としてはやりたくない手段だし、今日の事を思うと恐らく、、、
「、、、手はあるわ」
「何!?本当か!?」
「ええ、、、」
こちらを見つめるゼムから少しだけ目を逸らす。
あまり面と向かって言いたくはない、、、恥ずかしいから。
「ラウはまだ私が逃げた事を知らないはず。そんな奴の前に私のが現れたら、、、」
「、、、確かに、あれだけの拘束を掛けてた奴が逃げてたら、アニキでも焦る、か?」
「ええ、、、だから、まず私が一人でそこに行く。本気の私とぶつかれば、アイツも他の事に気を回す余裕は無くなるわ」
「その隙にオレ達が忍び込んで島主を助け出すってか。任せていいのか?」
気遣う様に顔を覗き込むゼムの肩を叩き、頷いてみせる。
心配事はあるけど、ならその元凶をさっさと排除すればいいだけの事。
対策も一応は考えているし、念には念を入れて準備をするまでだ。
作戦が決まり、ゼムを筆頭に双血の楔が準備を始める。
そして、私はというと、彼が居る建物から少し離れた空き家に来ている。
表向き、一人で潜入する為の準備をする為になっているけど、、、
「はっ、、、ぁあっ!な、んで、、、」
全裸になり、埃を被ったベッドの上で一人体を慰めている。
あの時、ゼムに作戦を告げた時にラウの顔が脳裏を過ぎった瞬間、火が付いた。
散々ゼムの顔を見ているにも関わらず、全く同じ顔を思い浮かべただけで私は無様に発情した。
目元に涙が浮かぶけど、それが悔しさからなのか、快楽からなのか最早分からない。
ただ、止められない手がひたすらに快感を齎し、何度も絶頂に至らし、私を染め上げていった。