223 沈黙する聖痕
帝城から脱出する事が出来た私は、双血の楔のリーダーらしき男によって帝都から離れている。
そいつの仲間、つまり双血の楔のメンバーが用意していた馬車に乗せられ、怪しまれない程度に急いでの移動だ。
馬車の車内には私と男の二人だけ。
私の惨状を理解しているのか、待っていたメンバーは全員女性で、かなり気を遣って貰ったのは素直に嬉しかった。
ただ、この男と二人きりになるのを希望したのは私からで、勿論女性陣からは止められたけど、今この時じゃないと出来ない話をする必要があった。
「、、、その様子だと、オレの正体にも察しが付いてるんだろ?」
「あんな場所に、ただの反乱組織の人間が入り込める訳が無い。そして、私を助けようなんてする奴も居ない。なら、答えは想像が付くわ」
「ったく、アンタが敵に回らなくて良かった。ああ、オレはゼム・レヴ・オ・ヤーラーン。ラウの双子の弟さ」
やっぱり、思った通りだ。
彼の話は何度か耳にしてはいるけど、そのどれもがよろしくない物ばかり。
ヴァネス達エオローの島主ですらそれを疑わずに受け入れていたけど、私は違和感を感じていた。
それを確かめる事が出来たのは、あの時だ。
「いつオレの正体に気付いたんだ?」
「正直、あの洞窟で話した時によ。簡単にボロを出してちゃすぐにバレるわよ」
「やっぱそうかー!下手な芝居なんてするもんじゃねぇな!でもよ、それを言うなら今のアンタもだろ?」
中々に痛い所を突いてくる辺り、流石はあの男の双子だけの事はある。
とは言え、私にとっては幸運な状況だ。
二人きりになった理由、それをサッサと済ませてしまおう。
「全くね。なら、手を貸しなさい」
返事を待たずにローブを脱ぎ去る。
「お、おい!何してんだ!」
「良いから、私の言う通りにして。私が身に付けてる魔導具は恐らくラウの魔力に反応して外せる。つまり」
「、、、オレの魔力でも外せる可能性があるって事か?」
飲み込みが早くて助かる。
手を差し出し、触れる様に促す。
ゆっくりとその手にゼムの手が重ねられる。
「まずはそれを確かめる。予想通りなら、アンタの魔力が流れ込んきたら私は発情する。だから、軽くやりなさい」
「お、おう。覚悟決まってんなアンタ、、、なら」
ゼムの手に軽く力が入る。
直後、体の芯が熱くなり始める。
「もういいわ。多分、上手くいく」
彼の手を目隠しに誘導し、魔力を流させる。
あれだけ外れることの無かったそれが、自然と緩み足元に落ちる。
「おいおい、本当に外れやがった」
久しぶりの光に目を細め、目を慣らす。
そして、視界を取り戻した私は目の前に居る男の顔を見る。
「、、、なんかムカついてきたから殴っていい?」
「それは兄貴に直接やってくれ。それより、さっさと残りも外しちまおうぜ」
それもそうだ、いい加減この格好にも飽きた所だし、早い所自由になるとしよう。
一体何時ぶりか、それすらも思い出せない程色々あったけれど、ようやく魔導具による拘束から解き放たれた。
肩慣らしに身体強化を掛けて、首輪と手足の枷を破壊する。
ご丁寧に、ラウの奴は私の着ていた服や身に付けていた腕輪型の魔導具なんかも回収していて、しかも私が囚われていた部屋に置いていたらしい。
私を助けに来たゼムが気を利かせてそれを持ってきてくれたお陰で、裸で過ごす事にならずに済んだ、、、ただ、ラウに囚われた時に着ていた服は捨てたけれど。
まぁそれはどうでも良くて、代わりに取り出した服を着て、ようやく落ち着く事が出来た。
それはゼムも同じの様で、私が着替えている間ずっと窓の外を眺めていたのは少し笑ってしまったし、何ならその顔が少し赤くなっているのも気付いてしまった。
「ふぅ、やっと一息付けた。改めてだけど、ありがとう。色々とね」
「気にすんな、身内の不始末だ。それに、まぁそのなんだ、良いもんを見ちまったからな」
「はいはい、お礼代わりって事にしてあげる。それより、この後は?」
話題を変えると、顔を赤らめていたゼムも真剣な表情になって私に向き直る。
「まずはエオローの島主達を助ける。まだ未確認だが、奴ら処刑されるらしい。詳細は」
「リーダー!追手が来てる!」
御者席から顔を覗かせた女が怒鳴り、直後に馬車が大きく揺れる。
「クソ、流石に気付かれたか!」
ゼムが御者席に続く小さな窓から器用に出ていく。
その後を追おうと立ち上がった瞬間。
「なっ、これ、は、、、」
体が疼き始め、膝が震える。
試しで受けたゼムの魔力で、体が発情しているのだろう。
魔導具は聖痕を封じる為の物で、これまで受けた調教はまた別物だ。
すっかり失念していたけど、この程度、聖痕の力で消し去れる。
胸の聖痕に魔力を送り、ラウから受けた痕跡を全て押し流して、、、押し、流せない、、、?
「どうして、、、」
何度試しても体の疼きは消えない。
体の内側を探り、皇帝の聖痕の力も消そうと干渉してみるけど、、、
「消せない、、、いえ、これは、、、」
ラウと皇帝から与えられた事に対してだけ、私の聖痕が反応しない。
他の事は出来るのに、あの快楽の部分にだけは私の聖痕が言う事を聞かない。
そこで、ようやく思い出す。
「まさか、これがウルギスで私の身に起きてた事なの、、、」
両手を見つめ、ゼイオスやフィルニスの言葉を思い出す。
私が私じゃない、聖痕が言う事を聞かない、違いはあれど、その本質は同じなのでは、、、
一度高まった疼きは、治る気配なんてまるで無かった。