221 混沌の主
全身の疼きで目が覚める。
いつの間にかベッドに寝かされていた様だけど、布団の中の私の姿は相変わらずだ。
ただ、自分で体を撫で回して分かったのだけど、あれだけ体中に刻まれた鞭の痕が綺麗に無くなっていた。
鞭打ちの後に塗られた媚薬入りの薬、あれに何かしらの魔法効果が含まれていたのだろうけど、一晩でこうも効果が出るとなると、媚薬以外にも怪しい何かが含まれている気がする。
少なくとも、今は何も変化は感じられないけれど、気を付けておくに越した事はない。
そのまま暫く自身の状態を把握し、ゆっくりとベッドから立ち上がる。
視界が塞がれているから、自分が何処に居るのかは分からないけれど、少なくとも今は一人きりのようだ。
情けない姿ではあるけど、手を突き出して周囲を探りながらゆっくりと歩き、辺りを調べる。
覚束無い足取りで部屋を彷徨ってみたけど、結局得るものは無かった。
何とかベッドに戻り、縁に腰掛けて、今度は身に付けている魔導具を調べる。
これまではそんな時間も余裕も無かったから、今のうちにどんな物かは把握しておきたい。
まずは足の魔導具に触れてみると、簡単に外せそうではあるけど、幾ら力を込めても肌に吸い付いている様に微動だにしない。
腰や胸、頭も同じだし、目元を覆う魔導具でさえも同じだ。
恐らく、あのラウの性格からして、ヤツの魔力でも流さない限り外れないようになっているのだろう。
なら、敢えて従順になったフリをして外させる様に仕向けるか、、、いや、それは恐らく無理だろう。
ラウもそうだけど、それ以上に私がどうなるか分からない。
ここ数日の間に、私の体は相当マズイ状態になりつつある。
ラウの巧みな指使いだけでなく、媚薬まで用いられ、その上で何度も気絶するまで責められているせいで、もう既に私の体は簡単に果ててしまう様にされている。
それに加え、昨日の様な拷問まで繰り返されたら、恐らく先に心が壊れるだろう。
体の方は、或いは慣れてしまえば耐えられる様になるかもしれないけど、それでも限度はある。
、、、いや、もう既に限界に達しているかもしれない。
鞭に打たれるなんて事を思い返せば、普通は恐怖が勝るはず。
なのに、それを思い返した私の体は寧ろ発情している、、、足を伝う雫が如実にそれを物語っていた。
何とか気を落ち着かせ、これからの事を考える。
ラウの最終的な目的は、私を完全に屈服させる事だろう。
そして、ヤツの傀儡と化した私、その身に宿る聖痕を自らのものとして操る。
ただ、それで何を成そうとしているのかまでは分からない。
かつて志した祖国の改革なのか、或いは己の欲望を満たす為なのか、、、どちらにしても、私の末路は同じだけど。
「おや、起きてましたか。おはようございます、愛しのリターニア」
気配を殺して近付いてきていたラウが、私の手を取りながら声を掛けてくる。
流石に少し驚いたけど、それを表には出さない様に取り繕う。
「、、、何か用?」
「フフ。ええ、父が貴女との面会を希望しまして。参りましょう」
分かってはいたけど、返事などする間も無く立ち上がらされ、首輪に鎖が繋がれる。
ただ、これはある意味好機でもある。
この国の主、ヤーラーン帝国皇帝と言葉を交わせるなんて、恐らくこの時以外に機会は得られないだろう。
多少の危険は承知で、出来る限り情報を聞き出す。
その為にも、今は大人しくラウに従う。
屈辱塗れではあるけど、このお返しは必ずする。
静寂に満ちた帝城を、鎖に引かれながら歩く。
今がどの時間なのかは分からないけれど、人の声も、足音も、何なら気配すらも感じないのはあまりにも不気味だ。
絨毯の敷かれた廊下は、素足の私の足音も、ラウの靴の音も響かせないから、尚更だ。
「さ、着きましたよ」
扉の開く音が微かに聞こえ、ラウと共に中へと進んでいく。
「連れて参りました、父上」
僅かに緊張感を馴染ませるラウの声が聞こえ、暫し沈黙が続く。
何だか落ち着かない感じがするから、恐らくは観察されているのだろうけど、今はまたローブを着ている。
顔こそ出しているけど、あの恥ずかしい姿は見られていない、、、はずなのだけど。
「面白い。既に躾けたのか」
低く唸る声に、体が本能的に身構えそうになる。
いや、これは、、、疼いている?
「はい。流石は聖痕の聖女、これまでのどんな女よりも強く、気高く、そして美しいですよ」
自慢げに語るラウの声も、何処か遠くに感じる。
足が僅かに震え、私の意思に反して太腿を擦り合わせてしまう。
「確かに。魔導具越しですら上等と思わせたのだ、実物はさぞ良かろうな」
まただ、、、この男の声に、手が勝手に動きそうになる。
今この場でローブを脱ぎ去り、全てを曝け出したくなる衝動に駆られる。
それを必死に抑え付け、ジッと耐える。
「ほう、我の言葉に耐えるか。これを手懐けるのは骨が折れるぞ」
「ええ、だからこそ、我が妻に相応しい。故に、父上」
立ち上がり、歩み出す音がする。
それは私の目の前に立ち、そして。
「良かろう。ヤーラーン帝国皇帝、ヘル・ゼス・オ・ヤーラーンの名に於いて、この者をお前の妻とする事を赦そう」
その言葉が放たれた瞬間、、、前触れもなく、私は絶頂を迎え、気を失った。