220 飴と鞭
ぼんやりと意識が浮かび上がる。
馬車の中での最後の瞬間を思い出して、一気に意識が覚醒する。
同時に、妙な違和感にも気付いて意識を研ぎ澄ませる、、、のだけど。
見えないと分かっているのに首を回してみると、何故か髪が垂れ下がって来て顔を擽る。
そこで、目の前に誰かが立っている気配に気付く。
「お目覚めですか?いやはや、先程は失礼しました。ですが、貴女もいけないんですよ?私の機嫌を損ねるような事を言うから、つい手が出てしまいました」
やけに上の方から聞こえる声に、顔を下に向け、、、
「、、、逆さに吊るされてる?」
ようやく自分に状態に理解がいく。
今、私は足を上に頭を下、逆さの状態で吊るされているようだ。
足は枷の鎖が外されていて、代わりに天井から伸びているのだろう鎖に繋がれていた。
しかも、ご丁寧に真っ直ぐではなく斜め、要は足を大きく開く形で引っ張られている。
同じ様に、手枷も今は床に向かって大きく開く形で伸ばされて固定されている。
「どうです?宙に張り付けられるご気分は?」
ラウの愉悦に満ちた声が近くから聞こえる。
どうやら親切にも屈んで話し掛けている様で、だけどその手は私の胸や股に伸ばされている。
「最低ね。この状況がじゃなくて、アンタっていう男がね」
「フフ、相変わらずですねぇ。しかし、そろそろ立場を理解させなければなりません。本来なら、父上に顔だけでも見せる予定でしたが、今のままではあの人にさえ貴女は食って掛かるでしょう。ですから」
ラウの足音が遠ざかり、今度は背後に回り込んで近付く、、、そして。
「船に中では散々飴を与えました。ですので、暫くは、、、」
言葉が途切れ、同時に何かが空を切る音がし、直後。
「っ!!!!?????」
背中に激痛が走る。
そのあまりの痛みに、声すら出せない。
呼吸が詰まり、無様に大きく口を開けて必死に息を吸おうと藻掻く。
これまでにも色んな傷を負ってきたけど、そのどれもが魔力の守りと魔法の障壁、聖痕のお陰で痛みを抑え、瞬く間に直してきた。
それが無くなっただけで、こうも変わるのか。
頭の中が激しく明滅する最中、再び空を切る音。
「ぉっっっっ!」
何とか吸えた息がまたしても出て行き、苦しくなる。
だけど、そんな私の事などお構いなしに、
「私は、貴女が迎えた絶頂の数を数えています。既に百は超えていますよ?ですので、鞭も百。最後まで耐えられたら、ご褒美をあげましょう」
宣告と同時に、鞭が連続で振るわれる。
声にならない悲鳴が勝手に漏れ、だけど手足を限界まで引き延ばされて宙に固定された体では仰け反ったりして受け流す事も出来ず。
その鞭も、背中だけでは飽き足らず、お尻、足、腕。
最終的にはお腹や胸、股にまで振るわれる様になった。
それでも尚飽き足らず、途中からあの媚薬香が頭の真下で焚かれた。
私を何度も狂わせたあの香がほぼ直接顔に当たり、必死に息をする私は気付く事無くそれを大量に吸い込んだ。
その結果が。
「あああぁぁぁあああ!!!ぃっくううううううあああああああ!!!」
自分でも理解出来ない声、いや、それはもう獣染みた叫び声が延々響く。
鞭は確かに痛い。
だけど、すぐにそこから甘い痺れが全身に広がり、快感に置き換わる。
背中やお腹はまだいい。
胸やお尻、股に当てられた時は最早意味が分からない。
痛みなのか快楽なのか、その両方が混ざり、私の頭を滅茶苦茶に掻き回す。
唯一、絶頂の飛沫が私の惨状を示し、それを見たラウが一頻り笑い、
「これでは結局、躾けなのか褒美なのか分かりませんね」
仕上げとばかりに、苛烈に鞭が振るわれる。
全身余す事無く鞭による赤い筋が刻まれ、その最後に、強烈な一撃が一番敏感な部分に振り下ろされる。
「ぁっ!ぁぁぁぁああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
何も分からないまま、ただ体が裂かれる様な痛みと快楽が脳を焼き焦がし、降り注ぐ自身の雫に顔も体も濡らす。
意識なんてとうに吹き飛んでいたから分からないけれど、後にラウが私の無様な逝き果てた顔を語った。
涙と鼻水、涎に塗れ、口はだらしなく開いたまま、舌も垂れ下がっていた、と。
極め付けに目隠しを外したら、白目を剥いていた、とも付け加えて。
まぁ、それで終わりにならなかったからこそ、嫌でも体にも心にも刻まれたのだけど。
意識は無いのにハッキリと覚えている、なんていう事があるのだと思い知らされた。
満足したラウが去った後、私は宙づりのまま放置された。
そこに、数人の足音が聞こえ、そいつらは私の体を撫で始める。
何かを塗られていたから、恐らくは薬なのだろうけど、傷なら魔法で治せばいいはず。
そしてその疑問は、すぐに別の物に塗り潰される。
確かにそれは傷薬だった、、、ただし、媚薬も含まれた物だったけど。
それが傷に塗られる度に体が熱くなり、自然と息が荒くなる。
必死に体をくねらせて逃げようとするけど、伸びてくる手は吸い付くように体中を撫で回し、薬を塗りたくる。
仕舞いには顔や下半身の穴という穴にまで指を差し込み、敏感な部分にまで塗り込まれた。
そうされている間も何度となく気をやり、それが終わり一人残された後も、私は全身を駆け巡る苦痛なんて生易しい物ではない快楽に延々と責め苛まれ、逝き果て続けた。




