218 プロローグ・陰謀渦巻くヤーラーンへ
船旅というのはどんな時でも楽しいもの、そう思っていた。
「はっ、、、あぁっ!っく、うっぐううぅぅ!」
薄暗く、香に満たされた船室の中、私はひたすら呻き声を上げ続けている。
ベッドに上に縛り付けられた私。
その足を大きく開き、股に顔を埋めていた男、ヤーラーン帝国第一王子のラウ・ベル・オ・ヤーラーンが糸引く舌を見せつける様に垂らしながら、必死に堪える私を見つめて笑みを浮かべる。
エオローでコイツの罠に嵌り、聖痕を封じられた私は今、ヤーラーン帝国へと向かっている。
ラウ専用のものだという大型の船、ここはその一室で、エオローを出発してからほんの僅かな時間を除いて、私はただひたすらラウによって快楽漬けにされていた。
常に媚薬香が焚かれ、まともな思考が出来ない頭が、奴から与えられる暴力的な快楽で瞬く間に真っ白になり、ただただ嬌声を上げる事しか出来なくなる。
エオローの西の端から、ヤーラーンの帝都にある港までは約十日だそうだけど、今が出発してから何日経ったのかさえ、今の私には分からない。
「フフ、美しい。あの強く気高く、どんな窮地すら物ともしない貴女が、今や淫らに喘ぎ声を上げるだけ。腕を磨いた甲斐がありますよ。貴女の為に、どれだけの女を壊してきた事か」
奴が何かを呟いているけど、直後に再開された責めによってすぐさま私は気をやってしまい、何も考えられなくなる。
「あっ、ああああぁぁぁっ!もっ、やめっ!っぐうううぅぅぅ!」
抵抗の声すら上げる事を許されず、それでも何とか抗おうと、半ば本能的に体を大きく反らせて受け流そうとしてみるけど、もはやそれも徒労にすらならず、今日もまた意識を失うまで奴に弄ばれる。
そんな事が何度繰り返されたか、未だヤーラーンに着かない船の中で私は窓から海を眺めていた、、、いや、目を覆われているから何も見えはしないのだけど、今はそうしていたい気分なだけだ。
幸いと言うべきか、ベッドからは解放されている。
とはいえ、相変わらず身に纏うのはエオローで身に着けさせられた魔導具だけで、ほぼ裸。
汗やら何やらに塗れた体も、水浴びは許されているから今も一応はスッキリとしている。
ただし、媚薬香だけは絶えず部屋を満たしているから頭は靄が掛かったままで、気を抜くと自然と自身で慰めようとしてしまうから気が休まる事は無い。
ここはラウ専用の部屋だから人の出入りは無く、彼も魔力の守りで香が効いていないから出来る事だ。
ただ、ほぼ毎日毎時間入り浸って私で遊んでいる彼が、今日は珍しくまだ来ていない。
厳重な造りの部屋は内外の音を漏らさない様になっているらしく、外の様子は全く分からない。
ただ、何となく常とは異なるのだろう、とは感じている。
そして、それを証明する様に、奴が現れた。
「おはようございます、リターニア。我が愛しき人よ」
「、、、」
奴の声に見向きも、返事も返さない。
散々好き勝手にされている、これが私に出来る唯一の抵抗だ。
それを楽し気に笑い流し、彼が私へと近付いてくる。
そのまま私の向かいに椅子を動かし、優雅に腰掛ける音がした。
「残念ながら、暫く貴女と愛を育む事は出来なくなりそうです」
微塵も残念さを感じない声音で語る彼の方に顔を向け、その真意を窺う。
微かに笑みの零れる声が聞こえたから、恐らく楽し気に目を細めるラウが私を見つめているのだろうか。
「先ほど報せが届きました。エオローの島主三名を捕縛、ヤーラーンに対する反逆罪で本国へ移送を開始した、と」
「、、、どういう事?」
「フフ、一言で言えば、私の計画通り、という奴です。エオローを我が国に戻す為、邪魔になる者を排除したまで。無論全てではありませんが、件の組織、双血の楔も早々に消え去る事になりましょう、、、エオローの民諸共ね」
その最後の言葉に、私はラウに掴み掛かり、当然の様にあしらわれる。
ベッドに押し倒され、枷に繋がれた手を頭の上で抑え込まれる。
「当然でしょう?彼等もまた、島主に与した下手人だ。事実、西の島では我が配下に暴行を加えた」
「それは私がやった事よ!彼等は!」
「キネレイ、でしたっけ?ああも堂々と名を告げて、しかも直前には直訴状を出していたのでしょう?言い逃れなど出来ませんよ」
コイツは何処まで先を見据えていたのか。
最善とは言えないけれど、あの時はそうするしかなかった手が、全て裏目に出てしまった。
いえ、恐らくはそうする以外の道をコイツによって閉ざされていた、全てが思うがままだったという事だ。
「お前の目的は何?」
務めて平静に、奴の思う壺に嵌まらない様に、慎重に問う。
それすらも奴にとっては心地良いのだろうけど、今は情報を得る事が先決だ。
「貴女の事は言うまでもありません。が、勿論それだけではありません」
ベッドから引き起こされ、顔が奴の手に挟まれる。
「エオローの観光資源はご存じでしょう?ですが、不思議に思いませんでしたか?ヤーラーンとて似た様な風土のはずなのに、まるで他国では話題にならない、と」
それについては、確かに常々思っていた。
評判自体は耳にすれど、実態が如何なるものなのか、確かに不自然ではあったけど、、、
「、、、全て嘘?」
私の呟きに、ラウが哄笑する。
そして、唐突に私の手を取り、ダンスを踊り始める。
振り回されながらも手を振り解こうとするけど、それも容易く抑え込まれる。
「アハハハハハ!素晴らしい素晴らしい素晴らしい!貴女はほんっとうに!素晴らしい!」
一頻り笑い、踊り、そして最後に、私の顔を愛おし気に両手で包み。
「ヤーラーン、陰謀と欺瞞、そして愛欲に塗れた醜悪な国!貴女に御覧に入れましょう、その全てを!」
これが、私にとって最大の窮地であり、苦痛と快楽に塗れた新たな物語の幕開けだった。