217 エピローグ・暗雲を行く
既に、窓の外は陽が落ちて暗くなっている。
ベッドの上、気怠さで満たされた体はそのままに、魔導具に覆われた暗闇を見つめる。
全身が汗と、それ以外の様々な体液に塗れて気持ち悪いけど、それ以上にようやくあの時間から開放された事に安堵してしまっている私が居る。
あの後、ベッドに手足を拘束されて、ラウに体を好き放題弄ばれた。
真っ先に、奴は私の股を開いて純潔を確認していた。
そして、その証があるのを知ると狂った様に笑い、こう告げた。
「貴女の純潔はまだ奪いません。面倒ですが、我が国において、王族の妻となるには婚姻を結んだ後に儀式を受けねばならない。その時、純潔が確認出来ないと資格が無いとして許可がされないのです。ですので、その分今日は私の愛を存分に堪能してください」
その言葉が、全くの嘘でない事を身を以て味わった。
純潔を奪わないからといって、大事な部分に手を出さない、なんて事はまるでなかった。
ラウは指や舌で好き勝手弄り、抵抗する事すら出来ない私は何度も絶頂に至らされた。
生まれてこの方、いや、前世の時もだけど、私はそういう経験は皆無だ。
知識はあったけど、結局自分自身でそういう事をする暇も無かったから、何もかもが初めてで抗い方を知らなかった。
しかも、極め付けにと、リビングで焚いていた媚薬香を間近で嗅がされてしまったから、その後の事は殆ど記憶が無い。
ただ、ひたすらにヤツに好き放題され、何度も快楽に気を失い、快楽で叩き起こされる。
それを、陽が沈むまで延々繰り返された。
強制的に発情させられた体はまるで言う事を聞かず、最後の方は自ら求める様になっていた、、、気がする。
そうして、言葉で言い表せない時間、ラウにとっては至福の時だったようだけど、とにかく、ようやく満足したヤツが体を清めに行ったお陰で私は一時の休息を得られた。
ただ、拘束はされたままだし、眠ろうにも体は疲れ果てているのに頭は火花が散るほどの快楽のせいで冴えてしまっている。
ただ静かに頭を空っぽにしていると、誰かが部屋に入ってきた。
気配からしてラウではなさそうだけど、今の私にはそれ以上を考える事も出来ない。
ゆっくりと、小さな足音が近づいてきて、ベッドな側で立ち止まる。
目隠しをされたままの顔をそちらに向け、薄暗い部屋の中でその気配を感じ取る。
「、、、私を笑いに来たの?ナイレン」
「、、、体をお拭きします」
殺気塗れだった昼間とは打って変わって、言葉少なに告げる。
何処か喋り難そうだから、ラウに殴られた頬が腫れているのだろうか。
そんな事をぼんやり考えていると、突然体に冷たい水が垂らされる。
次いで、布か何かで水と共に私の体が拭かれていく。
されるがままにしていると、ようやくナイレンが口を開いた。
「今日はもう終わりです。明日、殿下と共に船に乗り、ヤーラーンへと向かって頂きます」
それはつまり、私を妻として持ち帰る、という事だろうか。
問いかけようと開いた口を指で抑えられ、彼女の吐息混じりの言葉が投げ掛けられる。
「思い知ったでしょう?彼は女を物にする為ならあらゆる手段を問いません。本国に戻ったら、今日がまだまだ序の口ですら無いと、体に教え込まれます、、、あれは拷問です」
まるで実体験でもあるかのように語る彼女の声音に、感情は無い。
いえ、彼女が殴られた時のヤツの口振りからすると、ナイレンもこんな事をされたのだろう。
僅かに震える体を誤魔化す様に、再び私を拭き始める彼女に、私は己の今後を考える。
結局、良い案は何も浮かばなかった。
体を拭かれ、ようやく眠りに就き、翌日。
ベッドから開放され、代わりに首輪に鎖が繋がれてその先はラウが握る。
「貴女を披露するのは婚姻後です。顔くらいは見せる必要はありますが、その素晴らしい体は私が余さず味わい尽くした後、愚かな民の慰みに捧げて頂きますからね」
何を言っているの理解出来ないけど、まあ碌な事ではないだろう。
その後、無駄に肌触りの良いローブを被せられ、頭もフードで覆われる。
余程覗き込まない限り私の顔も見えないだろうし、この下が裸同然だなんで気づかれる事はない。
ただ、首元から出る鎖だけが、今の私の有り様を物語っている。
「さあ、参りましょう。楽しい船旅になりますよ」
笑みを浮かべ、鎖を引くラウ。
それを合図に、周りに控えていたらしい侍従達やメイド達が動き出す音がする。
そして私もまた、鎖に引かれる形で歩き出す。
きっと、船の中でもコイツに好き勝手されるのだろう。
諦めた訳ではないけど、取り付けられた魔導具はラウ以外には外せない仕掛けになっている。
ヤーラーン、彼の地に到着したら、私はどうなるのか。
かつてない窮地に、それでも私は前を見る。
昨日の青空が嘘の様に、空は私の心を写したかの如く暗雲が立ち込めて重苦しい。
けれど、全てを投げ出すにはまだ早い。
私にはやるべき事が残っているのだから。
だから、私は気付かなかった。
ウルギスではあれ程あった謎の感覚、あれがエオローでは一度も無かった事に。
そして、こんな状況に追いやられても尚、私は私のままだった事に。
何処かで、誰かが笑っている気がした。
その笑い声は、私であり、だけど、、、