216 敗者の末路
私がこれまであらゆる事に対応出来たのは、常に警戒し、魔力による守りを怠らず、そして何よりも聖痕の恩恵があったからだ。
正直、気を緩めようと魔力の供給を止めようと、聖痕さえあればどうにかなるし、そうしてきた。
これは全て、かつて魔王などと呼ばれ、世界と敵対した頃の経験に由来する。
だからだろうか、今この時代に転生し、色々あれどそれも含めてあの頃とは比べ物にならない程に人生を謳歌している。
今程それを後悔し、恨んだ事は無い。
私が座った椅子に仕掛けられたのは魔導具だけではなかった。
フィルニスが残した私の研究資料を解析し、ウルギスで得られた魔導具の技術や、開発途中だった魔導具をも余す事なく利用し、そしてそれ以上に、ラウの執念とでも呼ぶべき魔法の数々が仕掛けられていたのだ。
前にも似た様な事があったけど、私の力を封じるには全ての聖痕に対して個別に干渉する必要がある。
聖痕が体のどの部位にあるかまで把握している方が確実なのだけど、コイツはウルギスで得られた情報から今の私が何処に聖痕を宿しているかを調べ上げたのだ。
それに関してはフィルニスの功績でもあるし、何なら奴自身の事も、当然ゼイオスについても事細かに研究していたが故だし、更に言うなら、その可能性を失念して、念には念を入れた事後処理をしなかった自分の責任でもあるから、本当に感情のやり場が無い。
その結果、このソファは私の聖痕に的確に干渉し、一時的に私から切り離された。
その時点で私が気付かなかったのは、ラウも同じ形のソファに座っていた事、その前のナイレンに対する行動、その他にもこの宿を選んだ事も、この部屋に泊まった事、室内の調度品の配置に至るまでコイツの計算があった、と自慢げに語られた。
紅茶を注いだメイドすらも手駒で、指示通りの行動をさせていたと言うから最早笑うしかない。
服を剥ぎ取られ、聖痕が宿る箇所に魔導具が取り付けられる。
じっくりと舐め回す様に、まずは右足の太腿にアクセサリー型の魔導具が嵌められる。
そのままゆっくりと手を這わせ、曝け出された大事な部分をなぞって臍の下辺りに辿り着く。
そこで取り出したのが、例えるなら夜の酒場で踊り子が、男を誘う為に身に付けるヴェールの様な透けた薄布の垂れ下がる装身具だった。
貴女の為に仕立てたのですよ、などと笑みを浮かべながら、ラウがそれを私に取り付ける。
ちょうど腰の辺りに嵌まり込む形のそれは、しっかりと魔導具の機能もあるようで、だけど薄布は透けているから前はほぼ丸見えだし、お尻側には何も無いからそちらも全て丸出しだ。
そんな私の姿に満足そうに頷き、再び手が体を這い上がる。
次は胸元と背中。
両手で胸を優しく揉み、そのまま魔導具が取り付けられる。
形は腰に付けられた魔導具と似ているけど、前側は薄布の代わりに胸を挟み込む様な形状になって、それによって自分でも形は良いと思っている胸が軽く潰されて押し出される。
背中側で金具が取り付けられ、何やら鍵を閉める様な音が聞こえた。
これで、娼婦ですらしない様な淫らな姿になるけど、まだ終わりじゃない。
次に頭にもサークレット状の魔導具を嵌められ、これで額の聖痕も封じられる。
最後に、少し分厚い目隠しを巻かれ、視界が暗転すると共に両目の聖痕も封じられる。
ラウに両手を引かれてソファから起こされるけど、忌々しい事に、全ての魔導具がしっかりと機能しているせいで聖痕どころか、魔力を操る事さえ出来ない。
今の私は、身も心も裸同然。
隙を付いて逃げ出そうとしてみたけど、瞬く間に組み伏せられてしまう。
「そんな姿になってもまだ諦めませんか。益々楽しみになってきましたよ。では、最後に。これは私からの贈り物です。似合いますよ、必ずね」
床に押し付けられ、見えない視界でラウに一発くれてやろうと頭を振ってみるけど、その隙に首に何かが巻きつけられる。
一瞬、紐か何かかと思ったけど、金属の擦れる音が聞こえてその正体を理解する。
「首輪まで付けるなんて、とんだど変態野郎ね」
「そんな姿で凄まれましてもね。しかし、とても美しい。貴女の様な方を犬の様に従えれば、さぞや羨まれる事でしょう。では、仕上げと参りましょう」
押さえつけられてた体が突然浮き上がる。
ラウの手が背中と両膝に当たってるから、抱き抱えられているのだろう。
そのまま歩き出し、扉が開く音が聞こえた少し後に、何か柔らかい物の上に下ろされる、、、間違いなくベッドの上だろう。
「おい、抑えろ」
ラウの、聞いた事の無い低く冷たい声がすると同時に私の手足が掴まれ、軽く開く形で抑えられる。
その手首足首に何かが嵌められて、そこからも金属の音が聞こえる。
何かを確認するようにそこを撫で回されてようやく開放され、手足を動かしてみる。
「、、、枷まで付けるなんて、そんなに私が怖いわけ?」
嵌められたのは鎖で繋がれた枷だった。
ある程度自由は聞くけど、手と足がそれぞれ繋がれていて、大きく広げる事は出来ない。
そして、そんな踠く私の姿が面白いのか、ラウが声を上げて笑い始める。
「クク、ハハハハハ!最高だ!素晴らしい!やっと、、、やっとこの時が来た!」
手枷の鎖を掴まれ、そのままベッドに押し倒される。
そして、空いている方の手が、私の顎に添えられた。