205 動き出す闇
次の日も朝から町に繰り出しての食べ歩きに始まり、その後は昨日回り切れなかった観光名所巡り。
勿論、合間合間で情報収集もしたけれど、そっちの方はあまり収穫は無かった。
確かに、ヤーラーンの事は色々と聞けたけれど、リアメノが言った通り流行の服やら化粧品やらの情報が大半で、後は商人達の仕入れ状況、お貴族様の乳繰り合い等々。
期待していた、後継者争いについては不自然なまでに話は出ず。
エオローの国民がそれ程気にしていないのか、それとも、、、
翌日、南東島を後にし、一度中央島へ立ち寄る。
リアメノは何やら準備があるとかで一足先に次の目的地である西の島へと向かった。
西にある二つの島は他の三島と比べて非常に距離が近く、北と南に分かれてはいるけれどその間に幾つかの橋が掛けられていて、もはや二つで一つの島と言っても過言ではないらしい。
事前に受け取っていた資料を捲りながら、馬車でヴァネスの下に向かう。
東から西へと向かう道すがら、経過報告をする為だ。
加えて、流石に他と比べて狭い国とはいえ、端から端の移動には時間が掛かる。
途中休憩の為にも中央島には寄港する必要があるし、それならついでで報告をしようという事にしたのだ。
ヴァネスの館に着くと、すぐに使用人が出てきて中へと案内してくれた。
一応、事前に連絡はしてあるし、報告もそれに記してはいるけど、それだけでは到底伝えきれない部分もあるし、何よりも詳細を書いてしまうと見られたくない相手にも見られる可能性がある。
それを防ぐ手段は、こうして直接会って話をするのが一番だ。
「いよう、久しぶりって程でもないが、元気そうだな!」
部屋に入って最初がこれだ。
相変わらず見た目にそぐわない笑顔で話すヴァネスだけど、私が小さく頷くと、すぐに人払いをして部屋も閉め切る。
執務机を挟んで向かい合って座り、その机の上に私が送っておいた手紙を広げる。
「こいつにゃ目を通した。だがまぁ、当然これだけじゃあないんだろう?」
「勿論よ。長くなるから掻い摘んで説明するわ」
まぁ、そうは言ってもどう足掻いてもそれなりに長くはなる。
何せ、初日から既に裏で動いていた連中が居て、それも含めて説明しないといけないのだから。
結局、粗方の話が終わるまで二時間近く掛かってしまった。
途中、喉を潤す為にお茶を淹れたり、流石に少し口寂しくなってお菓子を用意してもらったりとしたけど、それでもほとんどずっと喋りっぱなしだった。
お陰で何だか顎が疲れた気がするし、向かいのヴァネスは違う意味で疲れている様子だ。
「、、、おいおい、なんたってこんな濃い出来事ばかり起きてるんだ?」
「そんなの私が知りたいわよ。ただのお使いだと思ったら、いつの間にか渦中に居たんだから」
私の言葉にヴァネスが頭を抱えて机に突っ伏す。
正直、私も同じ事をしたい気分だけど、流石にはしたないから何とか堪える。
代わりにすっかり冷めたお茶を一気に飲み干して、思考を切り替える。
「とにかく、今後は何が起きても不思議じゃないわ。私一人ならどうとでもなるけど、周りに人が居ると嫌でも巻き込む事になるわよ」
「だがな、だからと言ってアンタを一人にする訳にもいかんだろ?護衛は増やすし、予定も少し早める。ここで切り上げたらそれこそ黒幕の思い通りかもしれん、何とか壁を造った奴の尻尾くらいは掴みてぇ」
顔を上げたヴァネスが渋い顔でそう話す。
確かに、彼の言う事は私としても同感だ。
ここまで好き勝手されて黙っていられる程私も大人しくは無い。
多少の危険はどうとでもなるけど、それ以上の事が起こるなら力尽くの解決も考えるしかない。
それに、一応とは言え相手がどういう連中かも少しは分かったから、対策もしようがある。
その後は、夕方になって西島から戻ってきたリアメノと合流し、夕食を食べて宿へ。
翌日の朝には中央島を後にして西島へ向かう。
まずは北側、フェイネルが島主をしている島へ行く。
「昨日ね、フェイネルとあったけどすっごい楽しみにしてたよ!色々見せたい所があるってさ!」
いつでも元気なリアメノが徐々に近づく島影を指差しながら自分の事のように嬉しそうに話す。
ただ、空模様は残念ながら雲が出てきていて、まだ雨は降ってこそはいないけど少し肌寒さを感じる。
リアメノも時々空を見上げていて、天気を気にしているようだ。
そして、私もまた何とも言えない感覚を抱いている。
「、、、嫌な感じがするわね」
誰にともなく呟き、空から島へと視線を戻す。
もう間もなく、船は港へと到着する。
海も荒れる事無く船は入港したのだけど、その港の雰囲気がどうもおかしい。
人影はまばらで、その彼等も妙に慌ただしくあちらこちら走り回っている。
「なんだろう、、、」
不思議そうにしているリアメノの隣で私もその光景を見ていると、こちらに気付いた誰かが駆け寄ってくる。
「あれは、、、キネレイ?」
彼は南側の島主で、ここには居ないはず。
だけど、駆けてくる姿は間違いなく彼で、そのまま船へと飛び乗ってくると息も整えずに私の肩を掴んできた。
そして、
「ちょっ!?」
「助けてくれ!フェイネルが行方不明になった!」