195 何が真実か
結論から言うと。
「アンタ達、やる気あるの?」
一斉に襲い掛かってきた連中は私の周りで倒れ伏して呻いている状態で。
唯一、言葉を交わしていた男だけが片膝を突いて苦しげに私を睨んでいる。
どうしてこうなったかと言うと、凄く単純な事で、コイツらはあまりにも弱かった。
身体強化こそ掛けたけど、それだけであっさりと返り討ちに出来てしまったものだから拍子抜けもいい所。
お陰でこっちのやる気が削がれてしまい、腕を組んで目の前の男を見つめているのだ。
「つ、強過ぎるっ」
「だから、アンタらが弱過ぎるの。そんなんでよく襲い掛かろうなんて考えたわね。そんなんじゃ、私どころかあの王子にだって届かないわよ」
悔しげに歯を食いしばる男を見下ろし、溜め息と共に全身に魔力を流す。
辺りが重圧に包まれ、最後の男も耐えられず地面に突っ伏す。
「ぐっ、な、んだ、、、コレっ」
呻きを無視して、聞きたい事を口にする。
「さっきの続きよ。かつてあった王位継承の問題、エオローはどう巻き込まれたの」
「当時の島主が半々に別れたんだ、第一王子派と第二王子派に!」
「まぁそんな所でしょうね。大方、この辺りで大きな戦いになって、その時にあの木を隠れ蓑にでもしたって所ね」
「当時はこの辺りも森だったんだ!焼き払われたのに、あの木だけ残って、だから護りの力が宿ってるって!クソ、体が潰れるっ!」
おっと、話に夢中になって力加減が適当になってたみたいだ。
魔力を抑え、男を重圧から解放する。
「続きよ。勝ったのがどちらかはどうでもいいけど、負けた方に付いた島主はどうなったワケ?」
「っ、はぁはぁ、、、許されたそうだよ。当時の皇帝直々に、厄介事に巻き込んだって、頭を下げてな」
コイツの話が本当だとしたら、ヴァネスが言っていた話にも納得がいく。
どうあれ、エオローはヤーラーンの意に従った者と従わなかった者になってしまった。
時の皇帝はそうならないよう、自ら恥を晒して納めようとしたのだろうけど、結局その禍根は今も残っている。
そして、今再び双子の王子による王位継承問題が巻き起こっている。
ヴァネス達が例の壁問題を積極的に解決したがらないのは、表向きどちらに対しても支持をしないという事を示す為なのだろう。
それはまぁいいとして、問題は、、、
「最後の質問よ。アンタは何者?血塗られた歴史とやらを良く知っているみたいだけど、それでどうして私や王子の命を狙う事になるワケ?」
途端、あれだけ饒舌だった男が口を固く結び、俯いてしまった。
つまり、何があってもそれは明かせないという事か。
まぁ、無理矢理口を開かせる事も出来るけど、多分今はまだ早い。
「ならいいわ。さっさと失せなさい」
「なっ!?アンタ、本気か!?」
「二度は言わないわよ」
語気を強め、鋭く睨み付ける。
それで理解出来たのか、男は私の後ろで転がる連中を叩き起こして足早にここから去っていった。
その後ろ姿を見届けて、
「面白くなってきたわね。果たしてここからどう転がる事やら」
南東の方角、騒動の渦中であろう地に思いを馳せる。
戻ってきたリアメノ達と草原を後にする。
その移動の最中、はしゃぎ疲れたリアメノがまたしても私に寄りかかって眠りこける馬車の中で。
「それで、貴女も彼の仲間なワケ?」
軽い世間話でもするようにもう一人の同行者に話し掛ける。
予想外だったのか、目を見開いて全身を強張らせる彼女が何どか口をパクパクとさせ、絞り出すように声を発する。
「わ、私は、リアメノ様を、その、引き離す役目で、あの、、、」
「落ち着きなさい。別に何かするつもりは無いから。それよりも、何か教えてくれる事はある?」
リアメノの頭を軽く撫でながら問い掛けてみると、少し落ち着きを取り戻した女が項垂れながら首を横に振る。
「ごめんなさい、、、私は、その、末端なので詳しい事は何も。今回の事に選ばれたのもたまたまなので、、、」
「そう、ありがと」
彼女は無意識だったのだろうけど、なかなかに重要な事が分かった。
コイツらが属するのはそれなりな規模の組織だ。
情報統制も取れているし、人の使い方も分かっている。
つまり、それだけの人望と統率力、あとおそらくは資金力もある者が上に立っている。
目的はともかく、そいつが壁の建設をした奴で、ヤーラーンの王位継承問題にも絡んでいる。
となると、ある程度までは容疑者を絞り込める。
なら後は、のんびりエオローを観光しつつ向こうが仕掛けるのを待ち、出来る事なら何かしらの証拠を掴みたい。
証人程度じゃ簡単に揉み消されるだろうし、証人自体が消される事も大いにあり得る。
権力者相手には、確たる証拠を、確実に言い逃れ出来ない状況で突き付けないといけない。
どう転ぼうと、最後はヤーラーンに乗り込む事になるだろう。
果たして、その時王子様は敵か味方か。
少なくとも、多くを語らなかった彼が何かしら暗躍しているのは事実だろう。
それがどんな真実に繋がるのか。
窓の外を眺めながら、この後に何が待ち受けるのかをぼんやりと考えたいた。