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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第五章 エオロー連合国漫遊記
194/362

194 不穏

翌日。

昨日の事などすっかり何処かへ行ったのか、気合を入れ直したリアメノが先頭を切って歩いていく。

今日は中央島の西側を案内するとの事で、朝早くに馬車に乗り、今はその馬車を降りて草原を歩いている最中だ。

島の西側は全体的に少しだけ小高い丘になっていて、木々が少ない代わりに広々とした草原が広がっていた。

放牧されている動物達がのんびりと草を食んでいたり、寝転がっていたりと長閑な景色だ。

その中を慣れた足取りで、跳ねる様に進むリアメノと、その後をゆっくりと歩く私。

それに加えて、今日は他にも何人か同行者がいる。

二人ほどは昨日から付いている護衛の人達だけど、他にもう二人、見知らぬ男女が居るのだ。

彼らとは馬車を降りた先、この草原の手前にあった小さな集落で合流、そこからここまで共に歩いてきた。

リアメノとは親しげに話していたし、その彼女から簡単に紹介を受けた時もそれなりに和やかな感じではあったのだけど、そのリアメノが一人はしゃいで先行し始めた辺りから、少し変化が現れた。

具体的には、私に対する僅かながらの敵意。

特に何かをして来るわけでも、嫌味を言ってくるわけでも無いけれど、私から距離を取って二人並んで歩いている。

一応、今の私はヤーラーンの特使扱いだから、手を出すのはよろしく無いと自制しているのだろうけど。

「果たしてどうなる事やら」

「どうかしましたか?」

「あ、ゴメンゴメン。ただの独り言よ」

うっかり呟いてしまったから、近くにいた警護の人が反応してしまった。

今はまだ、あまり目立つ事はしたくないから、抑えておかないと。


元気に走り回っていたリアメノがようやく足を止め、前を指差す。

「あれだよ!今日の目的地!」

その先にあったのは、一本の大木。

幹の太さは大人が五、六人で囲っても手が届くがどうかと言う程に太く、その高さは点を貫かんばかり。

そこから伸びる枝は何本もあり、深緑の葉を大量に、まるで誇るかのように広げていた。

「随分と大きな木ね。それもこんな場所に一本だけなんて、何か特別な物なの?」

「これはこの地を守る神聖な木です」

私の問いに答えたのは例の同行者の男だった。

彼は少しだけ私と離れた場所に立ってその木を見上げる。

「エオローの成り立ちはご存知で?」

「ええ」

「では、その後に起きた戦いについては?」

何処か棘を感じさせる彼の言葉。

ただ、それよりも。

「戦い?独立した後に?」

そんな話はこれまで誰も話していない。

それどころか、独立後の両国は仲良くやってきたとしか聞いていない。

そんな私の疑問に気付いたのか、男はゆっくりとこちらに振り返り、口を開いた。

「誰もが語りたがらない歴史です。だからこそ、ヤーラーンの特使である貴女には知って貰わないといけない」

断固とした何かを秘めた彼の瞳。

連れの女はリアメノを連れて木の方へと離れていった。

警護の人もそちらに付いて行ったから、最初からこうするつもりだったのだろう。

「聞かせて」

私の返事に、彼は頷きもせず続きを話し始めた。


「独立までの流れはご存知の通り。ですが、その数年後にとある問題が起こりました。ヤーラーンの王位継承に関してです」

「、、、国が二つに割れた?」

「いいえ、そんな生優しいものではなかったそうです。当時、後継者候補は二人。ただし、彼らは双子でした」

王位継承、そして双子。

何処かで聞いたような内容に、興味が沸くと同時にその結末に何となく察しが付いてしまった。

「当初こそ、二人はどちらが選ばれても共に歩もうと約束していたそうですが、後に彼らは対立。それぞれを支持する者達をも巻き込んで激しい応酬が繰り広げられたとか」

「ヤーラーンは荒れた、と。それで?それがエオローにどう影響したの?」

「、、、エオローは独立してからもずっとヤーラーンの傘下にあります。ヤーラーンの国勢がそのままエオローの国勢と言っても過言でない程に。表向きはそうでは無いという事は、ご存知でしょうが」

私の問いには答えず、代わりにそう話す男。

だけど、そのお陰でようやく彼が何を言いたいのか分かった。

つまり、エオローは独立など果たしておらず、今もなおヤーラーンのままなのだ、と。

それが何を意味するのか、気になる所ではあるけれど、それよりまずはっきりさせないといけない事がある。

「まぁ、話は分かったわ。それで、それを語って聞かせる貴方は何者なのかしら?」

遠くに居るリアメノ達がこちらに手を振る。

それに応えて手を振り、そのまま目の前の男を指差す。

「答えは簡単。貴方が王子の探してる参考人で、あの壁についても事情を知る者。つまり、私の尋ね人でもあるって事よ」

途端、彼の目付きが鋭くなり、更に背後に複数の気配。

「あの王子が選んだだけはあるか。だがな、血塗られた歴史を繰り返す訳にはいかない。古臭い言い伝えに縋った所でどうにもならない」

大木に背を向け、真正面から私も向き合う男が懐から短剣を取り出し、私に切先を向ける。

そして、

「エオローを真に独立させる。その為に、王子にも、そしてアンタにも死んでもらう!」

男が駆け出し、同時に背後の気配も一斉に私へ目掛けて動き出す。

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