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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第五章 エオロー連合国漫遊記
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190 平和の代償

深々、を超えて床に頭を付けて頼み込んできたヴァネス。

それに追従するように他の四人も頭を下げ、私の返事を待っている。

その姿に、正直呆れを感じつつも何か事情があるのだろうと察してしまい、少し困ってしまう。

先を急ぐ必要はないけれど、私もまたこの身に隠された何かを調べなければいけない。

いつ、また謎の言動を取ってしまうか分からない以上、悠長にはしてられないのだけれども。

「はぁ、分かったから頭を上げて。そんな風にされちゃ私が悪者みたいじゃないの、まったく」

とはいえ、ここで本当に断ってしまったら私としても夢見が悪くなりそうで、結局話を聞く事にしてしまったのだった。


ようやく頭を上げたヴァネス達。

男三人は私と向かい合う形に座り直し、フェイネルはお茶を淹れて来てくれ。

そして、何故かリアメノはまたしても私の腕にしがみ付いている。

「正直、現状の俺達にゃ何かを解決する術ってもんがねぇんだ」

そう言って、ヴァネスが四人の顔を見回す。

「知っての通り、この国は観光が経済の中心だ。お陰で、今じゃどの国からも手を出されねぇ緩衝国として立ち回ってる。だが、勿論丸腰って訳じゃあねぇ。こう見えても軍はあるし、何なら俺も魔獣討伐協会の一員としてエオローを管轄地に治安維持をしている。だが」

一度言葉を切り、お茶を一息で飲み干す。

いや、かなり熱いと思うのだけど大丈夫何だろうか。

見当違いな私の心配を他所に、ヴァネスが頭を掻きながら困った様な表情を浮かべる。

「正直、表に出ねぇいざこざは何度もあった。例の壁みてぇのは流石に無かったがな。んで、だ。結局、そういうのは全部ヤーラーンが割って入って解決してきた。それは有難ぇんだがよ、結局俺達が直接解決してきたわけじゃあねぇんだ」

「つまり、すっかり平和ボケして自分達で事を解決するやり方を忘れてしまったってワケね?」

私の一言にヴァネスが項垂れる。

両隣のドランドとキネレイも何処かバツが悪そうに視線を逸らす。

ただ一人、フェイネルだけが少しムッとした表情で私を見つめ、

「その言い方は少し酷いんじゃない?私達だって全く何もして来なかった訳じゃないのよ?」

少し早口で私に言い返す。

私とて、彼らが怠惰に過ごしていたなんて思ってはいない。

だけど、こうして無関係の一般人を頼っている時点でその言い分は通らない。

「なら、さっき言った通り貴方達だけで解決すればい。出来る出来ないじゃなくて、そういう姿勢を見せる事も必要なんじゃないの?それこそ言い方は悪いけど、この国だけで全部が解決するなんて誰も思ってはないわよ」

「アナタねぇ!」

「フェイネル!」

立ち上がって詰め寄ろうとしたフェイネルを側に居たキネレイが抑える。

「私達だって出来ればやってるのよ!でもそんな簡単な話じゃ無いのよ!エオローとヤーラーンはそんな簡単な関係じゃないのよ!私達はっ!」

「やめろフェイネル。それ以上言うな」

何かを口走ろうとした彼女を、ヴァネスの静かだけど威圧の込められた一言が遮る。

それでようやく落ち着きを取り戻したのか、彼女はキネレイに項垂れる様にして座り直す。

それを少しだけ見つめ、ヴァネスがこちらへと向き直る。

「すまねぇな。アンタの言う事はご最もだ。だが、こっちにも表に出せねぇ事情がある。それこそ、爺さんのそのまた爺さんの代から続くモンがな」

疲れた様に静かに言い、そのまま沈黙が満ちる。


エオローとヤーラーンを取り巻く情勢。

無関係な者からすれば全く見えないそれは、どうやら長い年月の間に複雑に絡み付いてしまったらしい。

王子が別れ際に言った言葉。

もしかすると、この騒ぎはエオロー側だけで無く、ヤーラーン側にも大きな変化を齎そうとしているのかもしれない。

王子も、そして目の前の彼らもその大きな唸りに飲み込まれているのだろうか。

だとすれば、あと一つだけ確認しないといけない事がある。

「とりあえずそっちの事情は後でいいわ。代わりに一つ教えて」

敢えて姿勢を正し、目を細める。

この質問だけは言い逃れさせない為に。

「、、、俺達に答えられる事ならな」

逃げ腰な返事のヴァネスをさらに鋭く見つめ、少しだけ魔力を発する。

途端、わたし以外の連中が縛り付けられたかのように息を潜め、身動ぎすらしなくなる。


「ヤーラーンの王位継承について、よ」


その一言で、真正面に居る四人の顔色が明らかに変わる。

おそらく、私の横に居るリアメノも同じだろう。

そして、その表情の変化で私も何となく察する。

今回の騒動と王位継承は無関係では無いのだ、と。

そうでなければ、ヤーラーンの第一王子なんて立場の人間がわざわざ動く理由が無い。

あの時、彼が黙したのはそれを認める事自体が不利となるからか、或いはより厄介な何かが裏に潜んでいるのか。

そして、それは彼ら五人にとっても同様であるのだろう。

それが何かは分からないし、正直どうでもいいとさえ思ってしまうけど、果たして、、、

「、、、殿下の慧眼には感服するしかねぇな、こりゃ」

やがて、諦めた様にそう呟いたヴァネスが体を前のめりにして、口を開いた。


「殿下には双子の弟が居るんだ」


そして、彼は更に声を潜めて話を続けるのだった。

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