188 エオローの主達
飛び出てきた使用人らしき人の案内の下、私は館を進んでいる。
とはいえ大きさはそれ程でもなく、更には今現在、島主は誰かしらと会談中との事で、その場に案内されている。
いいのかな、と思いつつも、どうやら島主の指示らしいので大人しく付いていっているのだけど。
目的の部屋に近づくにつれ、何やら賑やかな声が聞こえてくる。
それも、そこそこの人数の声が混ざっているように聞こえるから、一対一の会談では無さそうだけど、本当にそんな所に混ざっても良いのだろうか。
「旦那様、特使様をお連れしました」
「おお、中へお連れしてくれ」
扉が開かれ、中へと促される。
ここまで来た以上、遠慮するのも失礼だろうとそのまま中へと足を踏み入れる。
で、中の様子なのだけど、、、
「ガハハッ!帝国の特使というからどんな厳ついのが来るかと思えばエライ美人さんじゃないか!」
「いやはや、殿下のお気遣いにはいつも痛み入りますなぁ」
「いやいや、聞けばこちらのお嬢さん、殿下にお誘いを受けたそうだぞ」
「むっ、それはいけません。粗相があってはエオローの名折れですよ」
「わー!私と同じ位かなぁ!仲良くなれるといいなぁー」
「、、、」
勿論、最後の沈黙は私だ。
中に居たのは五人の男女。
やはりヤーラーン式なのか、床に敷いた大きな敷物の上、広げられた食べ物や飲み物を囲んだ彼らが私を見て発した最初の言葉だ。
三人の男に二人の女、見た目も年齢もてんでバラバラな彼らだけど、こうして宴会じみた会談とやらをしているという事は、その仲は悪くはないという事だろう。
気になるとすれば、彼らが何者であるかだけども。
彼等に促されるままにその宴席の一角に座らされる。
一応は気を遣ってもらっているのか、二人の女性の間に席が設けられ、よく分からない内に飲み物を渡されていた。
「さ、まずは一杯!エオローは基本、礼儀を気にしねぇからな、特使だろうが何だろうが遠慮はしねぇぜ!」
やたらと声のデカい、そして体もデカい男が晴々しい笑顔で杯を掲げる。
それに合わせて他の四人もそれぞれ手に持つ杯を高々と上げたから、とりあえずはそれに合わせて私も置かれていたそれを持ち上げる。
「では、乾杯!」
大柄な男の音頭に合わせて全員が声を上げ、一気に杯を飲み干す。
左隣に居る、私も同じ位の年の女性すらいい飲みっぷりなものだから思わず感心してしまったのはここだけの話。
流石に一気には飲み干せないから、適当に何口か飲んだ後に、とりあえずリーダー格らしき大男に声を掛ける事にした。
「それで、島主さんはどなたでしょうか?」
「ん、全員そうだぞ?」
「、、、ん?」
さも当たり前かの様に言い放ち、お替りを注いだ杯をまた一息で飲み干す大男。
「ヴァネス、彼女が聞いてるのはそういう事じゃないでしょう。まったく」
右隣の女性が呆れた様に大男の頭を叩く。
「ごめんなさいね、私達全員、エオローの各島の主なのよ。私はフェイネル、西の島の一つを治めているわ。で、この熊みたいなのがヴァネス、いい歳して中身は子供なこの中央島の主」
「おう、よろしくな姉ちゃん!」
大男、ヴァネスがいつの間にか注ぎ直した杯片手に軽い挨拶をする。
それを見た他の面々がまた口々に言いたい放題を始めて一気に賑やかになるのはいつもの事なのだろうか。
そして、その隙に別の男が近付いてきて私の持つ杯に飲み物を注いできた。
「喧しい連中でゴメンね、俺はキネレイ。フェイネルとは幼馴染で、西にあるもう一つの島の主さ」
「キネレイ!まーた女の子に手を出そうとしてる!」
キネレイと名乗った彼をフェイネルがこれまた叩いて引き摺っていく。
「あはは、面白いでしょ?」
それを見ていた、左隣の女の子がずいっと私に近付いて声を掛けてくる。
「あ、アタシはリアメノ!これでも南東島の主なんだよ!」
「主って、失礼ですけど、年齢は?」
「んー?十八だよー」
あっけらかんと答えたリアメノだけど、私も同い年で島主を務めるなんて、どう考えても穏やかな事情ではなさそうだけど。
「あ、なんか勘違いしてる?お父さんもお母さんも生きてるよー。これは私がやりたいからムリヤリ引き継いだんだよ」
「あ、そうなんだ。なんか悪かったわね」
「いいよいいよー。あ、ちなみに、ヴァネスとキネレイに挟まれてるヒョロ眼鏡がドランドって言うの。お金にうるさいんだよー!」
「誰が守銭奴ですか、全く。失礼、ご紹介に預かりました、ドランドと申します。よろしくお願いします」
男連中の中では一番まともそうな男、ドランドが座ったままではあるけど丁寧に頭を下げる。
眼鏡を掛けているからか、勝手に神経質そうだと思っていたけどどうやら違うらしい。
こうして、なし崩しとはいえ目的の人物全員と出会えたのは幸先が良いのか。
そのまま、雰囲気に流されて宴会を楽しんでしまいそうだったけども、彼らが酔い潰れる前に仕事を果たさないといけない。
ただ、、、
「これが本当にエオローの主達なの?」
中身の無い会話と、ひたすら飲み食いしている彼らを見て、思わず呟いてしまったのであった。