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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第五章 エオロー連合国漫遊記
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187 穏やかな旅立ち

結局、こうして面倒事に巻き込まれてしまうのは、やはり聖痕も持つが故なのだろうか。

王子直々のお見送りの最中、馬車の中で私は窓の外を遠い目で眺めていたのだった。

「この件が片付いたら改めてお食事でも。どの道、依頼料をお渡ししないといけませんしね」

「それで、前金代わりに殿下のお墨付きの身元証明というわけですか」

「いやぁ、貴女なら仕事が終わった瞬間にでも飛んで逃げていきそうですからね」

まるでその通りなのが大変腹立たしいけど、気ままな旅を続ける以上先立つ物は必要な訳で。

あと、そう距離を詰めないで欲しい。

対面に居る人からの尋常じゃない殺気が全身に突き刺さってるんですが。

「殿下、お戯れはその辺に」

「本気なら構わんだろう?彼女は我が皇室に相応しいぞ」

「いや、勝手に嫁入りさせないで下さい。そんな気はありませんので」

何が面白いのか、お腹を抱えて笑う王子と、最早視線だけで人を殺せそうになっているナイレン。

その板挟みに私は堪らず頭を抱えてしまうのだった。


悪夢の様な馬車の道中がようやく終わり、私の泊まっていたコテージの前に降り立つ。

王子も馬車を降り、私に手を差し出す。

「では、お手間を取らせますが、よろしくお願いします」

「受けたからにはしっかりと果たします。どうぞご安心を」

その手を握り返しながら答え、互いの距離が少しだけ近づく。

その僅かな間に、

「始めにお伝えしたエオローの存亡の危機。そして動かない帝国。何が起こるかは誰も予想出来ません。くれぐれも道中お気を付けて」

早口でそう告げ、彼は馬車に飛び乗って去っていった。


そう、もし例の壁が二国間に良からぬ変化を促す物だとすれば、この親書はそれを食い止める為の一手となるだろう。

そして、少なくとも王子が私を相引きに誘った事も既に広く伝わっているはず。

ただ、それで王子に手を出せばそれは即ちヤーラーン帝国に敵対する事となる。

なら、どうするか。

「まぁ、それも含めて私を信頼しているって事なのかな」

どう足掻いても楽な道のりにはならないだろうけど、少なくとも今回は今までみたいに力を隠す必要も無い。

あまり派手にやるつもりもないけれど、それも状況次第。

ともあれ、最初くらいは穏やかに始めたい所ではある。


幸い、旅立つ準備はしてあったから、その日のうちに宿を引き払い、最初の目的を果たすとしよう。

「っと、その前に」

馬車の中で王子から渡された魔導具。

それは魔力を流す事で所持者の視覚を共有して、その光景を記録する事の出来る魔導具だ。

そして、私が受け取ったのは例の壁とやらが記録された物で。

「うーん、これは想像以上ね」

そこに残されていたのは、船の上からの視点で壁を見た物だった。

ただし、その高さは3回建ての建物並に高く、横の長さは、少なくともこの視点からでは切れ目が見えない。

その光景は、何処となく断絶山脈を彷彿とさせて不気味さすら覚えてしまう。

こんな物を誰が、いつ、どうやって作ったのか。

少なくとも年単位の月日を費やさなければ不可能だろう。


そう、普通なら。


この尋常ならざる壁、恐らくは聖痕が絡んでいる。

恐らくは、王子もそう睨んでいるか、或いは、、、

「私をご指名する訳ね」

どちらにせよ、予想通りならそう簡単には解決しないだろう。

早くも波乱の予感がするけど、引き受けてしまった以上最低限の仕事は果たさないと。

それに、提示された報酬は、正直魅力的が過ぎる。

現金な己の本心を仕舞い込んで最初の目的地へと足を進める。


最初に訪れるのは、勿論今滞在している中央島の主だ。

連合国と名乗りはしているけど、この国に国主の様な存在は居ない。

各島の主と呼ばれる人達が定期的に話し合いをして、どういう方針を取るかを決めている。

また、観光が主産業となっている上に、各国と結んだ条約によりエオローは、所謂政治的な活動をほぼしていない。

中でも、最たる理由が言うまでもなくヤーラーンの存在だ。

独立したとはいえ、それも済し崩し的な面が強く、それ以降もヤーラーンはエオローを庇護する名目で度々出てきている。

勿論、強引な手口や強硬手段は用いていない、けれども。

あくまで、この話は外から見ただけに過ぎない。

事実として、こうして問題は起きているのだから。


島の中央に位置する島主の館。

いつでも民を受け入れられる様にと、その門扉は常に開け放たれている。

警護の人こそ立ってはいるけれど、出入りする人にはほぼ何もせず素通りさせている。

せいぜい、

「失礼、観光の方ですか?」

私の様な、明らかに違う目的を持つ人を呼び止める位か。

「ええ、これを島主へ届けに」

預かっている親書と共に身分証明を渡す。

それを検めている警護人の顔が見る見る青くなっていくのは、まぁ運が悪かったと諦めてもらおう。

「ヤ、ヤーラーンの特使様でしたか!失礼致しました!」

ビシッと姿勢を正して直立不動。

向かいに立っていたもう一人まで即座に同じ姿勢になるのは素晴らしいけれど、あまり大声で言わないで欲しい。

行き交う人々が何事かと私達を見てくるのが、かなり居た堪れないのだけれども、、、

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