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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第五章 エオロー連合国漫遊記
183/365

183 ロマンスは突然に

ヤーラーン帝国。

帝国、と付くとどうしてもあの国を思い出してしまうけど、ヤーラーンはあそことは真逆の国である。

古い血筋を保つ一族が皇帝として代々納めているけど、とにかく国民を大事にする政策を取り続けている事で知られている。

何せ、その皇帝が毎日の様に市井に降りては民に混ざって言葉を交わしているというのだ。

それだけでもヤーラーンがどんな場所なのか想像が付く。


加えて、このエオロー連合国の成り立ちにも深く関わっている。

元々、この辺り一帯も含めてヤーラーンが納めていたのだけど、今から二百年程前に唯一の大きな内乱が起こった。

その際、大きな武功を上げた五人の兵士に褒賞として、比較的大きな島をそれぞれに与えたという。

しかも、後にその子孫があれこれ揉めた際にも介入してそれを解決したばかりか、その原因が本国にあると判断して独立を認めて、今現在の観光名所とする方針まで示してみせたという。

あまりの懐の深さにその子孫達もすっかり改心、以降、全く揉める事もなく今日に至るまでエオローを観光大国として育て上げてきた、という。

以上、これもまたフェオールでのお勉強の賜物である。


で、その帝国の第一王子が何故か私をお誘いだという。

「殿下は現在、お忍びで漫遊に来ております。そこで偶然貴女様を見掛けて、それ以来気になっている、との事でございます」

謎の女、察するに王子のお付きの侍女か何かなのだろう、彼女が淡々と話を続ける。

確かに、王族お付きの侍女ともなれば護衛も兼ねるだろうし、気配の消し方や身のこなしも納得はいく。

「王子に見染められたのは光栄だけど、ならなんで初めからそう言わなかったワケ?お付きとして私を品定めしていたって事かしら?」

「否定はしません。ですが、それ以上に確かめたかった事がございます」

そこで初めて、女の目付きが変わる。

まさに、獲物を狙う狩人の如き鋭い視線に。


「貴女が件の聖女であるか否か、でございます」


即座に魔力を右手に集め、魔法を放てるようにする。

対する女は、全く気付かないうちにその両手に小振りなナイフを逆手に持っていた。

「どういうつもり?王子の客人を襲うの?それと、私はその聖女とやらでは無いわよ」

当然だけど、ここでも私は変装をしている。

リサ・ユールーン、聖女の責務から逃げ出した際に名乗っていた偽名を使い、髪も黒に近い紫に変えている。

当然、聖痕の力なんて使ってもいない。

どう考えても、今の私を聖痕の聖女と繋げられる要素は無いはず。

一瞬、鎌を掛けられたかとも考えたけど、そもそもそんな事をする理由も無い。

何処か不気味な雰囲気を纏う女を睨みながら、どうするかを考える。

逃げるか、戦うか。

あまり大きな騒ぎにはしたくないし、恐らく向こうもそのつもりだとは思うけれど、、、


唐突に始まった睨み合い。

目の前の女は相当な手練れのようで、鋭い殺気を放ちながら、それでもなお姿勢が最初の時と同じまま。

側から見ればただ立っているだけに見えるけど、こうして向かい合っているとその隙の無さに目を見張る。

ところが、その殺気が不意に消える。

手品のように、持っていたナイフを袖の中に引っ込めると、まるで測ったかのような角度のお辞儀をし、

「お付き合い頂きありがとうございます。では、どうぞこちらへ」

「はぁ?」

思わずそんな声が出てしまったのも仕方が無いだろう。

いきなり出てきた挙句、危うく殺し合いになり掛けたと思ったら、今度はこれ。

何かを試されていたのだろうけど、あれで何が分かったのだろうか。

あと、さり気なく王子の下に連れて行こうとしないでもらいたい。

「行かないわよ。お誘いは大変ありがたいけど、王族だろうが何だろうが自分で言いに来なさいって伝えておいて」

言いたい事だけ言って、邪魔される前に早足でその場から逃げる。

これには流石にあの女も呆気に取られたのか、横を通り過ぎる私に対して何も反応出来なかったらしい。

ならばと私もさっさと宿に戻る。

いくら気に入られたとはいえ、こんな返答をした奴をいつまでも相手にはしなくなるだろう。

ようやく面倒事から逃げられた私は、宿に帰るとそのままベッドに飛び込んで眠りに就いたのだった。


まぁ、面倒事というのはそう簡単に終わらないからこそ面倒事な訳で。

次の日の朝。

やけに騒がしいな、と目を覚まして宿の外に出てみると。

「、、、わーお」

一面に広がる花束の山。

まさかと思って振り返ると、夜中の内にやったのだろう、私の泊まっているコテージにだけ花やら幕やらが飾り付けらていて。

極め付けが、その花の山を背に一人の男が満面の笑みを浮かべて立っていたのだ。

手には真っ赤なバラの花束を持ち、その周りに何人もの従者やら侍女やらを侍らせ。

その中に例の女も居ていよいよ呆れ返り。

「ああ、おはようございます!お初にお目に掛かります、私はラウ・ベル・オ・ヤーラーンと申す者。どうか、貴女と共に過ごす事をお許し願いましょう」


、、、いや、まさか本当に、しかも昨日の今日で本人が来るなんて誰も思わないでしょうに。

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