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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
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180 エピローグ・揺籠

ふと、意識が浮かび上がる。

そんな訳が無い、と半ば不貞腐れて目を閉じようとして、そもそも自身がそんな状態ではないと思い出す。

仕方無く、といった風情で動き、己を思い出す。

すると、それは少しずつ輪郭を取り戻していき、最後には人の形になる。


燃えるような真紅の髪。

野心を秘めた赤熱の瞳。

「ふむ、やはり解せんな」

ぼんやりとした影でありながら、しっかりと言葉を放つのは、ゼイオスだった。


ゼイオスは敗れた。

リターニアとの最後の戦いに於いて、彼女の策に嵌り失態を演じた。

その結果、魂諸共聖痕を奪われたのだ。

では、それでもなお彼がこうして存在しているのは何故か。

彼自身、その答えを何処となく理解しながらも、それでも尚納得はしていなかった。

何故なら、

「これが答えか?あまりにも下らんではないか」

彼の目の前にあるもの。

それが何を意味するのかを、嫌でも理解してしまったから。

ここに来て、初めてソレを見た時、彼は怒り狂った。

先の敗北でも、最後は己の不覚を内心で笑い飛ばしたにも拘らず、目の前のものを見た瞬間、彼は激怒した。

それ程に、それは人智を超える光景だったのだ。


その時、目の前のものが淡く輝き、彼と同じ様に何かを象り始めた。

そして、

「貴方は、、、ゼイオス皇帝ですね?」

その光の中から、柔らかな問いが聞こえてきた。

思わず、ゼイオスは足を踏み出し、しかし全霊を以って踏み留まる。

「貴様は何者だ」

「、、、貴方と同じ敗者です」

「ハッ!確かに俺は敗者だ、最後の最後に無様を晒した愚か者よ。だがな、貴様は違うだろう?なぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()よ!」

ゼイオスの言葉に、光は輪郭を取り戻し、人の形を取る。


腰まで届く長い白銀の髪。

かつて存在したとある何かを祀る組織の礼服。

儚げで、だけど凛とした芯を持つ眼差し。

「人に名を呼ばれたのは久しぶりです。ですが、それを理解しているという事は、ここが何処かもまた、理解しているのですよね?」

グレイスの言葉に、ゼイオスは鷹揚に頷いてみせる。

「無論よ。だからこそ解せぬ。いや、貴様が此処に居る事が、ではないぞ」

今やハッキリと姿を取り戻したゼイオスが真っ直ぐに指差す。

「貴様が抱える()()は何だ」

「、、、既に分かっているのでしょう?それでも敢えて問うのですか?」

「問わねばなるまいよ。ましてや、ソレと貴様がどう見ても()()()()()()()()とあれば尚の事、な」


グレイスが愛おしそうに、慈しむ様に、そして、決して譲れぬ何かを秘めて抱えるモノ。

グレイスやゼイオスはこの場において魂のみの存在。

そして、それを証明するように彼らは光を宿している。

勿論、その光には差がある。

グレイスは弱々しくも、それでも尚失われない白に。

ゼイオスは何処となく闇を纏った、それでも己を貫く白に。

だが、、、


ゼイオスの言った通り、グレイスはその胸に抱くモノと溶け合うように一つになっていた。

より正確には下半身、足の付け根近くまでがソレと完全に融合している。

だからこそ、ソレの異様な有様が目に付くのだ。

「私は揺籠となったのです、この子を救う為に。ですが、此度の戦いでそれも破られ始めました。こうして、より直接護らねばならない程に」

「むぅ、そう言われると流石に反論出来ぬな。だが、俺の気にする所はそこでは無い」

ゼイオスがその眼をグレイスに、そして彼女に抱かれるモノに向ける。

その視線に、彼女はゆっくりと頷いた後、右手を差し出す。

「言葉よりも、この方が早いでしょう。全てを知る覚悟があるなら、手を取って下さい」


その一言は、ゼイオスにとってはまさに天啓だった。

生きていた時に求め、ついに得られなかったもの。

他人から与えられる事に多少思う所はあるが、それでも、彼は迷わずその手に触れた。

そして。


時間にしてほんの数秒。

だが、それで十分だった。

触れていた手が離れ、その手を見つめたままゼイオスが呟く。

「、、、俄かには信じられんな。だが、他ならぬ貴様の記憶だ。つまり、そういう事なのだな?」

彼の問いに、グレイスは頷く。

そのまま顔を下に向け、抱えるソレを優しく撫でる。

「貴方をここに導いたのは、この子を護ってもらう為です。貴方、この子に本気で惚れていたのでしょう?」

「正面から言うな、俺にも恥じらいはあるのだぞ」

クスリと笑みを溢すグレイス。

だか、すぐにそれも翳りに沈む。

「、、、まだ、私にも力は残されている。ですが、それも直に食い尽くされます。そうなった時は、、、」

「ハッ!聞けぬ話だな、それは!」

彼女の言葉を鼻で笑い、遠慮の無い足取りでその側へと歩み寄る。

「何を、、、」

「他ならぬ、貴様が百年もの間護り抜いてきたのだろう、ならば最後まで貫くが良い。ククク、裏切りの聖女の真実を知れば歴史家共が腰を抜かすぞ。最早、それを伝える術はないがな」

ゆっくりとグレイスの隣に腰を下ろすと、ゼイオスは再び光の塊へと戻っていく。

「俺を使え。なぁに、惚れた女を死んだ後にこそ護れるのだ。これ程の名誉、ついぞ生きていた時には得られなかったからな。迷惑を掛けた詫びとでも思って受け取るがいい」

答えを待たず、ゼイオスの魂はグレイスの中に飛び込む。

そのまま溶けていき、それきり、彼の意識は消失した。


自らの胸に手を当て、静かに祈りを捧げる。

そして、強さを取り戻した光で胸に抱くモノを包み込む。


グレイス・ユールーンが抱くもの。

光を放つ彼らとは対象的なまでに、それは暗黒だった。

一片の光も見えない、なのに確かにそこにある。

だが、それ以上に異様だったのが、その有様。


暗黒に染まったソレには、夥しい程の亀裂が存在していた。

そのせいなのか、形も歪で、今にも崩れ去りそうだった。

それを、グレイスの光が優しく包み込み、何とか押し留めていた。


「お願い、、、この子を助けてあげて下さい」


祈る様に、グレイスは唱え続ける。











それを嘲笑うかのように、新たな亀裂が走った。

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