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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
178/362

178 覚醒

膝を突きこそしたものの、ゼイオスの目は相変わらず真っ直ぐ私に向けられている。

隙を見せたならそのまま首を落としに行ったけど、あの状態でなお奴の戦意は微塵も失われてはいない。

だけど、正直なところを言うと、


「やっぱりその程度ね。失望したわ」


全てを込めた一言。

寧ろ私の方がやる気を失ってしまい、聖痕も引っ込めたし鎌も消した。

何の興味も無くなったようにゼイオスを一瞥し、踵を返す。

「待て!何処へ行く気だ!俺はまだっ!」

「その様で何が出来るの?せっかくあと少しだったのに、もう駄目じゃない。分かってる?アンタの脳、もう焼き切れる寸前よ。聖痕の多重化なんて事を成したのに、その先に届かないんじゃ用はないわ。百年後にでも出直してきなさい」

顔だけを奴に向けて、それだけ吐き捨てる。

そのまま去ろうと足を踏み出し、


「聞き捨てならんな、、、俺はまだ、、、やれるぞ!」


怒号と共に魔力の高まりを感じる。

背後から急速に迫るそれを察知して、だけど、

「弱いわ」

見向きもしないまま、障壁を展開してそれを弾く。

無様に弾き返されたゼイオスが、それでも尚立ち上がり突っ込んでくる。

明らかに、さっきまでとは比べ物にならない程その力は弱々しい。

膝を突いた時点で既に限界に来ていたのだろう、聖痕の多重化は解けているし、本来のそれも光が失われつつある。

多重化の反動で奴の体は急速に壊れ始めている。

いや、服とかに隠れているだけで、多分末端とかは壊死し始めているだろう。

それでも、奴は止まらない。

皇帝としての意地なのか、或いは一人の男としてそうまでして私を犯したいのか。

残念ながら、もう私は彼に一切の興味は無い。

放っておいても勝手に死ぬ奴に何をしようなどとも思わない。


もしも、それを覆す事が出来るとすれば、、、


ゼイオスの荒い息遣いが止まる。

同時に、あれだけ荒れ狂っていた魔力も霧散する。

足を止め、次に何が起こるかを待つ。

奴の倒れ伏す音か、或いは。


「俺は、、、俺の望みを、、、必ず果たす!」


急速に消え去ったゼイオスの魔力が、巻き戻るかの様に膨れ上がる。

いや、寧ろさっきまでよりも強大になってさえいる。

振り返ると、相変わらず膝を突きそうな程に体を丸め、それでも失われない輝きを宿した瞳が私を睨んでいた。

その上、額に輝く聖痕がより一層強い光を放ちながら、何かを訴える様に瞬く。

それを振り払う様に額を抑え付け、

「成程、これがフィルニスの言っていた『声』か、、、」

その呟きに、私は知らず笑みを浮かべる。

あと少し、と思って挑発してはみたけど、正直届くかは分からなかった。

だけど、

「俺は世の全てを統べ、真実を明かす者!聖痕風情が出しゃばるなぁ!」

床を殴り付け、その勢いで立ち上がる。

瞬間、聖痕の瞬きが収まり、ハッキリとした鮮烈な輝きを放つ。






「乗り越えたか、やはり期待通りだ」






誰かの呟きが聞こえた気がするけど、多分気のせいだろう。

それよりも、満身創痍だったゼイオスが今や元通り、いや、寧ろより覇気を纏って真っ直ぐ立つ。

それに相対し、私も静かに魔力を高める。

「理屈は解らんが、あれが聖痕の試練とやらだった訳か」

「そうよ、おめでとう。貴方はこの場でようやく聖痕を真に従えたわ」

「ハッ、情け無い話だ。これまでが児戯では無いか。これだけの力が溢れれば、とうに世界を手中にしていただろうに」

自惚れなどでは無い、奴は本気でそう思っているし、事実、アレならそれも容易いだろう。

但し、

「それは無理よ。まずは目の前の高みを超えないといけないのだから」

魔力を両手に集め、ゆっくりと前へと掲げる。

「これで五分であろう。なら、あとは己が意地を突き通すのみよ!」

獰猛な笑みを浮かべたゼイオスが吠え、聖痕を輝かせると同時に床を踏み砕きながら飛び出す。

瞬く間に距離が縮まり、

「残念でした」

私の一言で、それは終わりを迎えた。


目を見開いたゼイオスがそのまま私の横を通り過ぎ、無様に床を転がる。

当のゼイオスは、何が起きたのか理解出来ないまま床を這い、こちらを振り返る。

私が見せた魔力はただの誘導、奴がああやって突っ込んで来るのを誘うだけの物だ。

じゃあ、私が何をしたのか。

大した事じゃない、ただ、私の目の前で聖痕の試練を乗り越えた事こそが最大の失策。


つい最近、私の目の前で聖痕の試練を乗り越えたのは二人居る。

そう、レオーネとミレイユ。

前者はともかくとして、後者については特に印象深いだろう。

あの時、彼女に対して行った事を思い出せば話は早い。

複雑な経緯で聖痕が歪んでいた彼女に対して、私はその聖痕に干渉した。


移痕の儀という特殊な儀式魔法。


これによって彼女は聖痕を正しく受け継いだ。

だけど、その前の時点で彼女は聖痕の試練を乗り越えていた。

実を言うと、あれは嬉しい誤算だったのだ。

もしも、あの子が心まで弱く聖痕に負けていたらあの結果は得られなかった。


それがこの状況とどう関係するのか。

聖痕の試練とは即ち、

「聖痕と魂が完全に結び付く、それこそが聖痕の試練。そして、それを乗り越えるという事は」

苦しげに胸を抑えながらも何とか立ちあがろうとするゼイオスに、私は告げる。


「言ったでしょう?魂に触れていいのはただ一人だ、と」



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