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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
174/362

174 人形

ソレはゆっくりと階段を降りてくる。

まるで、初めての感触を確かめる様に一歩づつ。

自分の姿をこうして客観的に見てみると、まぁ確かに我ながらなかなかな美人ではある。

とは言え、絶世のとか、傾国のとか、その位まで行くのかと言われると流石にそれはない、と思う。

いや、ここ最近の私を取り巻く情勢だけを見ると、どうにも全ての中心に立っている様な気がして何だか訳が分からなくなってきたのだ。

しかもと言うべきなのか、帝国が特に変なのは最早言うまでも無いのだけれど、、、


「だから!なんで!裸なのよ!」


階段を降りる私の魔導人形、その姿がとうとう生まれたままの姿なのはどういう事なのだろうか。

問い糺そうにも、元凶はついさっき勝手に満足して勝手に死んでいったばかり。

自分の体なんて鏡で何度も見た事はあるけど、こうして実体のある形で、しかもこんな場所で見せつけられると流石に居たたまれない。

しかも、当の本人がそれをまるで意に介していないような、ボンヤリとした表情を浮かべているなら尚更だ。

一人悶々とする中、その魔導人形が階段を下り切り、私と真正面から向き合う。

何とか心を落ち着けてその姿を観察してみると、そこでようやくある事に気付く。

「、、、アンタ、生まれたばかりね?」

「、、、そう。博士の死に連動する様、培養槽にあらかじめ設定されていた」

つまり、これもまた奴の置き土産であり、目論見通りという事なのだろう。

自身の内に問うてみても、もはや答えは返ってこない。

深く溜め息を吐き出して、私の分身を睨み付ける。

「それで?アンタの存在意義は?」

その問いに、彼女は目を閉じ、ゆっくりと開いていく。

両手を閉じては開きを繰り返し、私を見つめ返す。

「私はデカテーセリス。魔導人形十四号。聖痕の聖女、リターニア・グレイスの再現体。つまりは、、、」

その体から膨大な魔力が溢れ出す。

同時に、右目と額に疑似聖痕が浮かび上がる。

それも、そのどちらもさっきのフィルニスと同様に多重化している。

右目は三つ、額は二つ、つまり、、、

「それで私に並んだつもり?」

そう、ついさっきまでの私と同じ数。

フィルニスが私の聖痕を基に生み出した、一つの聖痕を重ねて現出させる謎の技術。

人の領域を飛び越えるそれを、彼女は意地で再現してみせた。

その最高傑作が目の前の姿なのだろう。

だけど、皮肉にもそれはフィルニスによって更に上の存在を生み出した。

即ち、

「人形如きが私に届くと思うな!」

右の内腿、下腹、胸、背中、左目、そして、右目。

六つの聖痕が浮かび上がり、これまで感じた事の無い力が溢れ出てくるのを全身で味わう。

魔導人形、デカテーセリスの放つ魔力を遥かに凌駕するそれが城をの中に吹き荒れ、窓が割れ、床に壁に天井に亀裂を走らせる。

ぼんやりしていたデカテーセリスも、流石にそれには目を見開く。

だけど、それが切っ掛けとなったのか、その顔が一気に鋭くなり、対抗する様に更に魔力を解き放つ。

二つの魔力がぶつかり合い、うねり、猛り、城の崩壊が進んでいく。

そんな中、二つの渦の中心に居る私達だけが静かにその光景を余所に睨み合う。


このまま力比べをしても埒が明かない。

私がそう思っているなら、多分向こうもそう感じているだろう。

そんな中で、先に口を開いたのはデカテーセリスだった。

「、、、私を人形と呼んだわね」

「事実でしょ」

「そうね、、、別に、私はリターニアとしての記憶も意識も無い。でも、だからこそ、こうして向かい合って分かった事がある」

真っ直ぐに、私が私を見つめる。


「、、、()()()()()()()()()


どうして、その一言に動揺しているのだろうか。

私は私だ。

数奇な運命を辿ったとはいえ、私は私の意志でかつてを生き、今を生きている。

そこに嘘なんてない。






   ・・・・・・本当に、そうだろうか・・・・・・





ほんの一瞬の隙。

私の思考がズレたその隙間を狙うかのように、デカテーセリスは間合いを詰めて来ていた。

「しまっ!」

「はぁ!」

胴に触れた右手から強烈な烈風が放たれ、私の体は木の葉の様に吹き飛び城から飛び出す。

そこに追撃を仕掛けてくるデカテーセリスの姿。

「まるで私みたいね!」

「その通りでしょ!」

反撃の魔法を放ちつつ、態勢を整える。

それを躱しながら一気に詰めてくるデカテーセリスとぶつかる直前に体を捻り、交錯する。

そこから、互いに魔法を放ち、時に近付き時に離れてを繰り返しながら城下へと落ちていく。

外れた魔法が近くの家を破壊し、遠くの建物を吹き飛ばす。

そんな事も目に入らない位、私とコイツの戦いは熾烈だった。

それも当然の事、私は六個、向こうは五個の聖痕を遠慮無く全開にしているのだ。

それだけでも余波が発生しているし、その状態で魔法を放っている。

最早、これは人の領域を超えた戦い。

既に、当然の如く空を舞い、天も地も意味の無い物となっている。

それを見上げる人々が、私達の事を指差しているのが時々見えるけど、それもすぐに視界から遠ざかる。

帝都よりも尚高く、私達は飛び上がる。

雲を突き抜け、星の輝く夜空だけが広がり、遠くが薄っすらと明るくなり始めている。

この日の出が何を照らすのか、まだ分からない。

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