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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
166/363

166 世界の姿

少し飲み過ぎただろうか。

どうにも、頭が靄でも掛かったかのように重いし、意識が保てない。

だけど、私の目はしっかりとゼイオスを捉え、私の口は何かを話している。

それは、まるで夢でも見ているかのようで、、、






勢いよく立ち上がったゼイオスが地図に刺さったナイフを抜き取り、今度は西大陸の中央に突き立てる。

「そも、俺は常々不思議に思っていたのだ。何故この世界はこうも狭いのか。そして、何故愚民共はそれを疑問と思わないのか。その疑問はフィルニスを拾って、ヤツの話を聞いてより加速した。ヤツは話したか?何でも、あれはこことは異なる世界からやってきたらしいぞ。それも、遥かに発達した文明の世からな。その知識を活かして魔道具の開発は加速したし、こうして街一つ飛ばすまでに至った。俺が世界の果てに至ったのもその技術と、他ならぬ俺自身の不屈の意志があったからだ」

やはり、この男は面白い。

だけど、

「それで?世界の果てを見た感想は?」

「無だ。果ての切れ目、海が空へと落ちる様は壮観でこそあれ、それだけだ。その先は果てしなく雲が広がり、何も無かった」

ナイフを南に、そして東、北と突き立てながら、その声に少しづつ怒りが込められていく。

「あらゆる文献を漁り、時には他の国へと足を運んでみたりもした。だが、答えなぞ何処にも無かった。俺は大いに失望した。世界がこのようなものなのかと。そして、それを受け入れている愚民共に。お前は、どうなのだ?」

改めて問われる。

それに答える代わりに立ち上がり、さっき脱ぎ捨てたシーツを拾うとまた体に巻き付ける。

「残念。ご褒美はお預けよ。せっかく私を抱けるところだったのにね」

「どういう意味だ!」

自身を否定されたとでも思ったのか、珍しくゼイオスが声を荒げる。

それが何だか可笑しく思えて、思わず口元を覆って笑いを堪えて彼の側へと歩み寄る。

そして、地図を指差す。

何処を、ではなく、地図全てを。

「お前の疑問自体は悪く無かったんだけどね。残念ながら、その先がお粗末なのよ」

「どういう意味だ?」

「分からない?何故この世界には果てがあるのか。じゃあヒント。例え何処を探しても、貴方の求める物は存在しないわ、、、()()()()ね」

私の言葉に、ゼイオスが暫し考え込み、やがて、目を見開く。

「、、、まさか、そういう事なのか?ここは、、、この世界は鳥籠だとでも言うのか!?」

答える代わりにシーツを脱ぐ。

間近で見る今の私に、ゼイオスは己の正解と、そして失敗を悟った。

「、、、いや、何故貴様がそれを知る?」

僅かに後退りながら、腰に掲げた剣の柄を握る。

その手を、()()()()()()抑える。

「なに!?」

「ねぇ、フィルニスから聞いた話にもっと気にするべき事がなかった?」

ゆっくりと彼の前へと回り込み、その首に腕を回して体を密着させる。

この服なら、私の体の起伏を思う存分感じることが出来るだろうに、彼はそれどころでは無いようだ。

「気にするべき事、、、だと?それは、、、」

「例えば、彼女はどうやってコチラに来たのかしらねぇ?」

「、、、確かに、一つある。思えば、それこそが俺の問いの始まりである」

「言ってみなさい?正解なら、()()()()()()わよ?」

腕に力を込めて、それが何かを言外に伝える。

それでいよいよ状況が理解できたのか、ゼイオスが私の顎に手を添えて、目線を合わせる。

「、、、今はもう誰も使わぬ言い回しがある。この世界を指し示す言葉だ。曰く、、、()()()()()、と」

パサリと、何かが床に落ちる音がする。

「続けて?」

「俺は思った。神が失せた世界ならばそう書かれるはず。だが、古い文献の何処にも神の存在を示唆する物は無かった。分かるか?もしも、もしもだ。神が初めから存在していないのだとしたら、神と言う言葉はどうして生まれた?何故、この世はかつて神無き世界と呼ばれていた?元より存在しないのなら、そもそも()()()()()()()()()()()()()()はず」

窓の外、何かを探るようにその目を彷徨わせながら、ゼイオスがもう片方の手で私の髪を撫でる。

「フィルニスは確かに言った。自分は()()()()()()と。ならば、、、今日までの疑問に答えが出る」

唐突に、彼が私を突き飛ばし、抜き放った剣の切先を突き付ける。

「貴様は何者だ。前にも一度、言葉を交わしたな」

私の裸体になど目もくれず、真っ直ぐにこの瞳を睨み付けてくる。






「、、、フフ、私が、その答えだ、と言ったら?」






ゆっくりと、ゼイオスに歩み寄る。

剣の切先が私の胸元に触れ、薄く血が流れる。

それを指で掬い、挑発する様に口に咥える。

「怖い顔しないで。冗談よ。でも、そうね、、、私が誰かと問われたなら、今はまだこう答えておきましょうか、、、」

その胸元から聖痕が浮き上がり、触れていた剣が溶け落る。

「これは、、、」

大きく距離を取るゼイオスを見つめながら、誘う様に両手を彼へと差し出し、妖しく微笑んで見せる。

「怖がらなくていいのよ?私は魔王。そう、()()()()()()()()()と名乗っておくわ」

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