165 晩餐
その後、色々と抵抗してみたりしたけど、途中で着ている服を剥ぎ取られてしまい、更には色々と汚れているからとお風呂にまで入れられてしまい、アレを着るか裸で行くかの二択を強いられてしまい。
「せっかくのお召し物が隠れていますが、、、」
「良いのよ。アイツに見せてやるものなんて無いんだから」
結局、肝心な場所だけは隠れているからと自分を納得させて、例のドレスを着て。
しかも、その時になって気付いたのだけど、下着が無かった!
それでいよいよ我慢の限界が来たので、ベッドのシーツを剥ぎ取って肩から下を覆っているのだ。
今現在、メイドに案内されて移動中なのだけど、残念ながら彼女達は丸っ切り普通の人間なもんだから手が出せない。
というか、移動中も結構な人とすれ違ったのだけど、その誰もが魔導人形ですらない普通の人間なのだ。
お陰で、暴れて逃げ出す、という選択肢が取れない。
或いは、それを見越してヤツは彼らをここに置いているのかもしれない。
ともあれ、この後の事を考えつつも大人しく付いて行き。
「此方です」
ようやく辿り着いた扉の前、メイド達が私の後ろに下がって深く頭を下げる。
どうやら、扉を開ける事を許可されていないらしく、自分で開けないといけないらしい。
では、遠慮無く。
「なっ!?お待ちを!」
私の行動に気付いたメイドが声を上げると同時に、右手を翳して扉を粉々に吹き飛ばす。
突然の暴挙に、メイド達も、偶々側に居た人達も目を丸くしていて。
「クハハハハ!相変わらず面白いヤツだ!」
その部屋の奥、飛び散る破片を意に解することもなく堂々と立つ影が一つ。
唖然とする面々を無視して私も堂々と部屋へと入る。
「ようやくこの時が来たな」
「そうね。いよいよ本当に死ぬ覚悟が出来たってワケね?」
食事の並べられらテーブルを挟んだ先、悠然と立つゼイオスと、ついに対面した。
「しかしなんだ、その無粋な格好は。俺の用意したドレスは気に入らんか?」
「当たり前でしょ。間違ってもアンタに見せるてやる裸なんてないわよ」
肩から掛けたシーツを更に巻き付けて、ゼイオスを睨む。
そんな私の全てを楽しむように目を細めた後、促すように右手を椅子へと向ける。
「まぁまずは座れ。安心しろ、俺は毒など使わんし、お前とは一度純粋に話をしてみたかったのだ」
警戒する私に、肩を竦めながら先に座り、置かれていたワインを二人分のグラスに注ぐ。
驚いた事に、ヤツは嘘は言っていないようで、注いだワインを一息で飲み干してみせた。
勿論、それで気を緩める程私も馬鹿ではない。
けれど、話をしてみたいというのは私もどこか思っていた。
ゆっくりと椅子に座ると、さっきのグラスを私に差し出す。
それを受け取ると、ゼイオスは空になった自分のグラスにもう一度ワインを注ぐ。
「では、記念すべきこの日を祝して」
「全然嬉しくないけどね」
軽くグラスを当てて、口を付ける。
それから、本当に意外な事にゼイオスは他愛も無い話ばかりをしてきた。
大して中身のない世間話や、西大陸に来てからの私の動向を聞いてきたり。
用意されていた食事も、丁寧に仕上げられていて久々にまともな食事を摂れたと思わず満足してしまった程だ。
そうして、食後の酒だけがテーブルに残され。
「お前に聞きたい事がある」
グラスを片手に、ゼイオスが改まるように口を開く。
「、、、何?」
ワインを軽く呷り、目だけ向ける。
それすらにも気を良くして、口の端を上げる始末なのはもう無視する。
だけど、奴の口から出た言葉は、無視できる物じゃ無かった。
「お前はこの世界をどう思う」
グラスを置き、真剣な眼差しで私を見つめるゼイオス。
その質問の意味を、私は理解する。
「見ての通りでしょ。その問いをする資格が貴方にはあるの?」
私の返事に、ヤツは我が意を得たりと目を見開き、
「無論あるとも。何せ、世界の果てを見たのだからな」
壁に架けられた世界地図を指差し、そう言い放つ。
だけど、正直言って驚きなど無い。
「海路を封鎖して手柄を独り占めした?或いは、、、、」
「これは俺の意思だ。聖痕なぞ関係無い。コレが俺を利用するんじゃない、俺が聖痕を悉く利用するのだ」
確かな意思を宿したその言葉に、、、
私は思わず笑みを浮かべてしまう。
そして、ゆっくりと立ち上がると、体を覆っていたシーツを脱ぎ捨てる。
「どういうつもりだ」
「ご褒美よ。聖痕の意思をねじ伏せた、ね。この先が欲しいならもう少しお喋りしなさい」
椅子に座り直し、わざとらしく大きな動作で足を組む。
グラスを片手に、顎で続きを促す。
暫し目を細めて何かを見定めていたゼイオスだけど、ややあって、
「まあいい。貴様も知っていよう。かつて、南の果てを目指した男を。それに続いて多くの者が挑み、挫折し、或いは死んでいった。だが」
唇をワインで潤し、何処か熱の籠もった目で私を見つめ。
「俺は見たぞ。世界の果て、海の終わりをな!」
懐からナイフを取り出し、それを壁の地図へと投げる。
それは寸分の狂いもなく、地図の西の端に突き刺さった。