159 最後の抵抗の為に
会議室となっている部屋は元は食堂だったようで、かなりの広さだった。
そこに、溢れんばかりに集まる人の群れ。
「ごめん、やっぱ帰っていい?」
「っ!し、失礼します!」
ゲンナリする私を見て、慌ててその群れの中を掻き分けていくカイルの背を見送り、廊下で待つ事にする。
そのまま窓から空を見上げて待つ事数分。
騒ついていた会議室がいつの間にか静かになっていて、
「お待たせしました、どうぞこちらへ」
爽やかに額の汗を拭うカイルが、いつの間にか入り口まで戻ってきていた。
その後に続いて再び中に入ると、狭苦しかった状態から一変、人の数は半分どころじゃない位にまで減り、残っている人達も用意されていた席に着いている。
そこでようやく、一番奥に見知った顔があるのに気付いた。
「あら、久しぶりね、ローダン」
「ご無沙汰しております。残念ながら、前回のようにゆっくりとお茶など嗜む余裕はありませんが」
「構わないわ。いい加減、私も終わらせたいしね」
軽く挨拶を交わしていると、周りの連中が少し騒つく。
何だろうかと見回してみるとその騒つきはすぐに収まったけど、何だか視線を感じる気はする。
改めて、案内された席に着く。
それはいいんだけど、
「なんで私もこっちなのよ」
「貴女は今回の作戦の要ですからな。皆に顔を見せておかねばなるまい」
何故かローダンの隣、つまりは会議室の最前列で、他の参加者と向かい合う形の位置に座らされている。
隣のローダンが手元の資料か何かに視線を落としながら、さも当然のように言ってくる。
「すみません、そこしか空いている席が無かったものですから」
その隣、ローダンを挟んだ方にはカイルが座っている。
まぁ確かに、私がここに居るのは正直気紛れだ。
それは仕方がないけれど、ならなんでコイツの椅子は木箱なのだろうか?
いや、そもそも私が座るこの椅子、明らかに他とは造りが違う。
ローダンですら、恐らくは元々ここに置かれていた椅子で他の面々の物と同じなのに、私のはどう見ても館の主が座る様な豪勢な椅子なのだ。
案内されたから普通に座ったけれど、どう考えても待遇がおかしいのではないだろうか。
私がそんな事を考えている内に、ローダンが立ち上がって議事を始める。
「では始めよう。皆も知っての通り、先日帝都が飛行を始めた。凡そ信じられない光景ではあるが、問題はそこではない」
「現状、あの高さまで我々が辿り着く術はありません」
カイルが続いて、彼らが直面する状況を簡潔に伝える。
これは確認であると同時に、私にも聞かせているという事なのだろう、、、
(この流れはマズい気がするわね、、、)
何故かは分からないけれど、また面倒事を押し付けられそうな気がしてきた。
そんな私の懸念は、
「ですが、それを解決出来る方に心当たりがあります」
「嫌よ」
即答で拒否する。
ローダンとカイルは予想していたのだろうか、あまり大きな反応はしていないけれど、その他の面々は勿論そうじゃない。
誰もが驚きと、あとは怒りの感情もありそうかな。
「ローダン様、カイル様。お二人が案内してきたので気にしてはいなかったのですが」
その中の一人が、意を決して口を開く。
口調こそ気を使ってはいるけれど、私に向けられる視線はあまり良いものではない。
「彼女は何者ですか?カイル様の提案をにべも無く断るなど。しかも、今の状況を打破できる可能性の策を!」
まぁ、彼の言う事は最もである。
だけど、そもそもの話として前提が違っている。
「それはだな」
「いいわ、ローダン。自分で話す」
立ったままのローダンを一度座らせると、私を睨む男を目を向ける。
「まずそもそも、私が誰かはどうでもいい。次に、私がアンタらに協力するんじゃない。お前達が私の為の動くのよ、分かった?」
「なっ、お前!何様のつもりだ!」
「ふざけんなよ!」
最初の男だけでなく、他の連中も立ち上がって私の言葉に異を唱える。
隣の二人はその様子に目元を手で覆ったり、天井を見つめたりと静観の構え。
まぁ、私の事を良く理解していらっしゃる。
「あのね。なら聞くけど、この中で魔導人形部隊と戦った事のある奴は?ああ、勿論一人でね」
私の問いに、怒号を上げていた連中が一斉に黙り込む。
「私はあるわよ。で、五体倒したわ。どう?他に理由がいる?」
「五体だとっ!?」
いや、ローダンが一番驚いてどうするのよ。
で、その隣でまるで自分の事の様に誇らしげな顔をしているカイルは一体何なのだろうか。
まぁそれは無視して、
「分かる?アンタ達が束になっても敵わない奴を私は一人で倒せるの。それにね、あの空飛ぶ帝都に行く術も私にはあるけど、あくまでも私一人しか行けない。なら、役割はもう決まっているでしょ?」
「お待ち下さい!それでは貴女が一番危険な地に赴く事になります!」
「今回は異議は無しよ」
案の定反対してきたカイルを黙らせて、ゆっくりと立ち上がる。
「アンタらには囮になってもらう。用意が整い次第、ここで私は聖痕の力を解放する」