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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
141/362

141 裏切り

屋敷の門の周りには抵抗軍の乗っていた魔導車があった。

だけど、人の気配は全くない。

そう、抵抗軍どころか、帝国軍も、屋敷の門兵や使用人、騒ぎを聞きつけた物好きですらまるで居ない。

ただ、屋敷だけが煌々と灯りを灯し、来るものを飲み込む様に受け入れていた。


開け放たれた門を潜り、屋敷の本館へと続く庭の道を行く。

ここに来て、ようやく戦闘の名残が見えてきた。

庭全体に及ぶ激しい痕跡は、だけど屋敷に近付くほど少なくなっていき、目の前まで来る頃には全く無くなっいる。

だけど、鎮圧されたような感じではない。

破壊の後はあるけれど、それによって流れたはずの流血の痕がまるで無い。

それはつまり、敵側も負傷者が出ていないという事でもあり、より一層不可解な状況となっている。

屋敷の扉はしっかりと閉じられているけれど、

「何も無い、、、これは一体」

そっと触れ、軽く押すと、その重厚な見た目に反して軋む音一つ無く滑らかに開く。

灯りの掲げられた玄関周辺よりもなお明るい灯りが中から漏れ、誘われる様にゆっくりと足を踏み入れる。


広々とした屋敷は、外以上の静寂に包まれていた。

物音一つせず、まるで時間が止まっている様にすら思えた。

その張り詰めた空気を、私の足音が切り裂く。

階段を登り、唯一人の気配がする大広間へと向かう。

(こうもあからさまに誘われてると、逆に安心するわね)

どうやら、厚いお持て成しが期待できそうで、何よりも久々にこうもハッキリとした誘導に安心感すら抱く。

そして、当然の様に妨害すらなく、まぁ案内も無いけれど、間もなく大広間へと辿り着く。

ここまで来て、ようやく微かにだけど多くの人の気配を感じ取れた。

やはりというか、この屋敷にも魔導具が置かれているようだ。

今の所、私に影響のある物は無さそうだけど、だからこそ本丸であるこの大広間に対しては警戒をしておく。

「さて、何が出るやら」

小さく呟いて、扉を勢い良く開く。


扉の先では想像とはまるで違う光景が広がっていた。

そこかしこに抵抗軍の兵士達が囚われており、それを取り囲むように別の兵士が立っている。

不可解なのは、帝国軍の姿もあれば、見慣れない姿の者も居て、さらには抵抗軍の者までそこに混ざっている。

顔は動かさず、目だけでそれを見やり、赤い絨毯の敷かれた中央の道の上、蹲るクィレルシュカと、その横に跪いているオーダストに気付く。

そしてその先、最奥に設えられた豪勢な椅子に、一人の女が優雅に腰掛けていた。

足を組み、ひじ掛けに右手を付いて見下す様に顎を乗せているのは、かつて私が海で見掛け、この作戦の目標でもあるフェデルシュカであった。

「ようこそ、聖痕の聖女様。大したお持て成しも出来ずに申し訳ありませんわ」

その見た目通りの優雅な声が広間に響く。

言葉とは裏腹に、その態度は崩れておらず、不遜なまま。

それだけでも十分に警戒に値するけど、それ以上に危険なのが、

「気にしないで、押し入った様な物だし。それよりも、どうして貴女の傍に()()が居るワケ?」

彼女の傍に控えるのは、例の双子魔導人形の片割れ。

つまり、私がさっきまで相手をしていた筈の奴であり、そもそも敵である存在。

それが、フェデルシュカの傍に佇んでいるのだ。

「あら、コレは私が陛下より賜った物でしてよ?なら、ここに置いてあっても不思議でも何でもありませんこと?」

その言葉に、私よりも蹲っていたクィレルシュカの方が体を震わせる。

それで、この状況がようやく理解出来た。

「貴女、裏切ったのね?」

「裏切る?何を馬鹿な事を。疾うに沈んだ船に誰が戻るのです?見なさいな、この豪勢な屋敷を、優雅な暮らしを。私は陛下に選ばれたのです。己の有用性を示し、それが認められたからこそ魔導人形を下賜され、この都市の管理を任されたのです」

ゆっくりと、威厳に満ちた動作で立ち上がると、蹲り体を震わすクィレルシュカを目だけで見下ろす。

そして、徐に右足を上げると、躊躇なく妹の頭を踏みつける。

「いだぁああい!」

「フフ、無様ね。これが私の妹だなんて恥ずかしくて早く殺してしまいたい。でも、旧レーベインの残党共は陛下へ献上しなければならないわ。()()と一緒にね」

クィレルシュカの頭を踏みつけたまま、顎をしゃくる。

すると、その光景をただ見つめていたオーダストが立ち上がる。

その手には、一つの包みが握られていた。

一体いつからそれを持っていたのか分からないけれど、包みは半分近くが赤に染まっていた。

いや、今もそこから雫が零れ、床にも赤い染みを広げていた。

「、、、」

「さぁ、クィレルシュカ。()()()()()よ」

フェデルシュカの言葉と共に包みが解かれ、中から何かが転げ落ちる。

それは狙ったようにクィレルシュカの目の前にまで転がり、

「いやあああああああああああ!()()()あああああああああああ!!!」

彼女の悲鳴が響く。

それを聞いたフェデルシュカは満足そうに頷くと、ベルベイン王の頭部を掴み上げ、私へと突き出す。

「これがレーベインの末路。そして、、、貴女の辿る結末よ!」

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