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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
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137 小さな姫様の意地

最初に思ったのは、またしても面倒事に巻き込まれた、である。

いや、この大陸の来てからもう本当にそればかりだし、元を糺せば西大陸に飛ばされた事自体が元凶とも呼ぶべき最初の面倒事じゃないだろうか。

既に両手で抱えられない位には面倒事が舞い込んできているし、何なら今も進行中の物が殆どだったりする。

その上、どこぞのお姫様を助ける手助けをして欲しい、と来た。

呆れて溜め息が出てしまうけど、別に遠慮をする必要は無い。

こんな森に追いやられた亡国を慮る理由など私にはないのだから。

「カイルやローダンと話したんでしょ?なら、私の答えも分かるでしょ?」

下手に出る事無く、腕を組んでいつも通りに問い返す。

そんな私の態度に周囲、特に後ろのお姫様からの殺気が膨れる。

「落ち着かんか、お前達」

それを、静かだが威厳のある声が諫める。

「無論、聞き及んでおる。だが、これは其方の目的にも沿う物である、と言えばどうだろうか」

「、、、新興都市絡みって事ね?」

私の答えにベルベイン王が頷き、側に控えていたあのリーダー格の男に手で指示を出す。

「詳細はこのオーダストから伝えるが、我が国は帝国との戦いに敗北した。我は国を失い、領土を蹂躙され、民を奪われた。我が娘、フェデルシュカはその際に民の身の安全と引き換えに自ら帝国の、皇帝の下へと身を捧げたのだ」


天幕を出る。

ベルベイン王の最後の話に、私は先日海で見掛けたあの御姫様を思い出していた。

「まさかこう繋がるとはね」

「何か仰いましたか?」

すぐ傍に控えていたリーダー、正確には国王直属の近衛騎士隊の隊長だというオーダストが、寧ろ執事の様な丁寧な態度で私の呟きに反応した。

それに首を軽く振って答え、

「で、この後は?」

代わりに今後の予定を確認する。

王様の口車に乗る訳ではないけれど、目指す場所が同じなら少しは目が逸らせるだろう、といういつもの思惑在りきで同行する事にした。

「まずは隊と合流いたします。生き残りの各部隊員に加え、有志を募り何とか数を確保しました」

真っ直ぐ前を見据えるオーダストの目が微かに揺れる。

横目でそれに気付き、敢えて見て見ぬふりをする。

どう足掻いても、彼らが向かうのは死地であり、しかもその戦力差は絶望的だ。

何せ、数で攻めた所でそれを覆す力があちらにはある。

だからこそ、私を頼りたいのだろう。

まぁ、言うまでも無くそこまで付き合う義理はないけれど。


集落から少し離れた場所にはもう一つ広場があり、そこで多くの兵士達が各々訓練に励んでいた。

いつの間にか私達を追い越したのか、やんちゃお姫様、ではなくクィレルシュカもその輪に混ざって槍を振るっていた。

私よりも頭一つ分くらいは小さい体で、大の大人相手に対等に渡り合っている。

勝気な笑みを浮かべ、爽やかに汗を流している、といった所で私に気が付き、

「あらま、すっかり嫌われたわね」

一転、眉間に皺を寄せてあからさまに不機嫌になってしまった。

それでも、側にオーダストが居るのに気付くと渋々と言った感じながらもこちらへと歩いてくる。

「姫様、改めまして」

「いい、オーダスト。父上が決められた事だ」

腕を組んで私を睨む姫様に、何故か微笑ましさを感じてしまうけど、ここで笑みでも浮かべようものなら余計怒らせるだけだろう。

ところが、まぁやはり出会った時の事を未だに根に持っているのか、

「お前が聖女だろうが何だろうが知った事じゃない。だが」

短く構えた槍の切っ先を私に向ける。

「姉様を助けるのに余所者の力など必要ない。それでも付いてくるなら」

「ま、その方が分かりやすいわね。おこちゃまには、特にね?」

お返しの挑発に、声にならない怒りを浮かべるクィレルシュカ。

いい加減、鬱陶しい、というのもあるけど、いつまでもこんな有様だといざという時に使い物にならないだろう。

「いいだろう、今度は手加減なんかしてやらないからな!」

肩を怒らせながら準備を始める彼女の背を見つめ、

「何と言うか、私も無駄にお人好しなのかしら」

「申し訳ございません」

自嘲する私に、オーダストが苦笑いを浮かべながら頭を下げる。

「クィレルシュカ様は母と姉を護れなかったご自身を今も許せずに居られるのです。そのせいか、自身にも他人にも厳しい御方となられてしまいまして、、、」

「アンタも苦労してるのね」

立場的にも役回り的にも色々と面倒事を引き受けてそうな彼に妙な親近感を抱いてしまい、肩を竦めながら返事をする。

「おい!さっさとしろ!」

遠くから準備を終えたのか、クィレルシュカが怒鳴り声を上げる。

周りがはしたないと諫めようとしているけど、効果はなさそうだ。

「すみませんが、姫様の気が済むまでお付き合い頂けますか?」

「まぁ、その方が早く済むだろうしね。程々に相手してあげるわ」

手を振りながら歩き出し、さてどう手加減したものかと考える。

それなりに腕に自信はあるのだろうけど、実戦経験は恐らくないだろう。

ともあれ、まずは御手並み拝見と行くしかなさそうかな。

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