131 魔導人形・憐憫のディオ1
地中深くへと落下する最中、私は足を掴んだまま諸共落ちていく魔導人形、確かディオなどと呼ばれていた相手を睨む。
「いつまで掴んでるのよ!」
体を捻って掴まれた左足を大きく振り回す。
同時に、右手に黒炎を纏い、そこから槍を生み出してディオ目掛けて突き出す。
ここまで離さずにいたディオも流石に躱しきれないと判断したのか、掴んでいた手を離して体を捩り私と距離を取る。
徐々に地面が近付き、着地に備えて身体強化を掛ける。
そこに、落下する破片を足場にしたのか、跳び離れたはずのディオが再び飛び掛かってきた。
組み付かれる直前に槍を剣に変え、迎撃。
私の一振りを強化したのであろう左手で弾き、握り締めた右手を胴目掛けて突き出してくる。
私も左手の強化をさらに強めて受け止めようとして、
「ぐぅっ!」
その考えを読んでいたかのように、ディオの右手が不自然に早くなり、砲弾のような勢いで私のお腹にめり込む。
そのまま吹き飛ばされ、背後の土の塊に叩きつけられる。
そこに、周囲の土の塊や岩を手当たり次第に投げつけてくるディオ。
胃がひっくり返りそうになるのを無理矢理堪えて飛び出し、迫る地面へと飛ぶように降りていく。
長いようで短い落下の末、ようやく降り立った地面。
だけど一息吐く間もなく走り出し、同時に次の攻撃に備えて殴られた腹部を回復させる。
降り立った場所は何かの遺跡のようで、土をそのまま抉り出したような横穴があり、私は迷わずそこに飛び込む。
少しして、後ろから咆哮のような声と、何かが駆けてくる足音が響いてきた。
まるで追い立てられている様な錯覚を抱きつつ、それでも少しでも戦いやすい場所を探してひた走る。
少しして、だいぶ開けた場所へと辿り着いた。
いや、正確には神殿のような建物の中に入っていた、というのが正しいかもしれない。
広い空間に等間隔に並ぶ柱のような物に、辛うじて見える壁面には何かの模様か、壁画の様な物が描かれている。
ゆっくりと観察したい所だけど、残念ながらそんな暢気な事を言ってられる状況じゃない。
背後から迫る獣の様な気配に意識を向けつつ、周囲の状況も把握していく。
そこで、ふと気が付いた。
(待って、、、そういえばあのディオってヤツ、聖痕の力を感じない、、、?)
駆ける足を止め、後ろに振り返る。
左目の聖痕を使ってディオの魔力の流れを探る。
まだ姿は見えてないけど、魔力を追うだけなら例え壁越しであろうと私の目からは逃れられない。
この左目が捉えたのは、普通の人とは異なる滅茶苦茶な流れの魔力。
そして、予想通り聖痕特有の魔力は見えない。
それはいいけれど、別の疑問も出てくる。
(ディオが魔導人形なのは間違いない。でも、疑似聖痕が無い、、、)
軽く混乱しつつ、それでも油断はしない。
既に良い一撃を貰ってる上に、あのフィルニスが送り込んできたのだから、何があっても不思議じゃない。
そうこうしている内にディオが追いついてくる。
私が待ち構えているのを見て警戒しているのか、距離を取って様子を窺っている。
私も注意深くディオの様子を観察して、次に備える。
右手の剣は鎌に変え、肩に担ぐ形にしている。
ゆっくりと歩いていき、向かい合うディオの左へと回り込んでいく。
それに合わせてディオも左へと歩き出し、円を描くように互いに動く。
上手い事誘いに乗ってきた事に内心笑みを浮かべつつ、それでも気を抜かずに冷静を保つ。
奴は無防備に動いているけど、私は当然ながら考えて動いている。
ここに辿り着いた時に目に入った柱。
私はそこの影に入り、奴の視界から消える。
一度目はそのまま通り抜け、二度目も同じに。
そして三度目。
奴の視界から隠れる、時間にすればほんの数秒。
立ち止まり、小さく息を吐き出し、そして。
鎌を両手で構え、その刀身に黒炎を纏わせる。
大きく体を捩り、鎌を振り被り、柱目掛けて切り払う。
瞬間、黒炎が巨大な刃と化し、柱を溶かす様に切り裂き、さらにそのまま斬撃が生み出され、その先に居るディオ目掛けて飛んでいく。
瓦礫となって崩れ落ちる柱の向こう、同じく機を窺っていたディオもまた右手を翳し、魔法を放とうとしていた。
そこに、問答無用に黒炎の刃が襲い掛かる。
無表情な顔のまま驚愕に目を見開き、迫りくる刃を躱そうと身を翻す。
直後、ディオのすぐ傍を通り過ぎた斬撃が奥の壁を切り裂き、爆発を起こす。
そして、当然その間に私は次なる行動を起こしている。
体勢を崩したディオへと駆け寄り、鎌を振り下ろす。
その刃は空を切り、
「甘い!」
その回避も予測していた私は背後へと回り込んでいたディオへと鎌の石突を突き出す。
先端の刃が魔法を放とうと突き出していた右手に突き刺さり、そのまま肘まで切り裂く。
使い物にならなくなったと判断したディオが自ら腕を魔法で切り落とし、強引に距離を取る。
二人の距離が再び離れる。
だけど、今度は大きな違いがあった。
「、、、」
「、、、ギヒヒィ」
ここまで終始無表情だったディオが、獣のような獰猛な笑みを浮かべていた。