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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第一章 フェオール王国逃亡記
13/362

13 月夜に嗤う

前回に引き続き、と言いますか、前回以上にエグイ描写が御座います。

御覚悟を。

森に満ちる静寂。

だけど、ついさっきまでとは雰囲気がまるで違う。私の目の前にいる暗殺者、5人の男達は私を見つめて苦しそうな呼吸音を響かせている。その理由を、私は知っている。

「どうしたの?まさか小娘1人が怖いの?さっきまで散々追いつめて、良いようにいたぶってたのに?」

返事は無い。いや、多分出来ないのだろう。生き物としての本能が、彼らを襲っているのだ。そう、どれだけ力があろうと、いや、力を持つからこそ理解できる、理解できてしまうのだろう。


 ・・・今、目の前にいるこの私が()()()()を・・・


私からは動かない。ただ悠然と佇み、彼らがどうするかを笑みを浮かべて待つ。

どれくらい経ったのか、あるいはほんの数秒だけかもしれない。ようやく彼らが我を取り戻したかのように呼吸を整え、私を囲むように距離を縮めてくる。つまりは、それが彼らの答えなのだろう。

「はぁ、残念だわ」

溜息と共に呟き、そして。


ブシャリと、不快な音が響いた。


何が起きたのか正しく理解できた者は、私だけ。他の()()は目の前で起きた事に再び凍り付いた。

なにせ、彼らの仲間の1人が突然握り潰されたかのようにひしゃげて肉塊と化したのだから。

誰も言葉を発せないようだった。だから代わりに私が言葉を紡ぐ。

「光栄に思いなさい。私を追い詰めて、傷まで負わせたのだから」

その言葉に、残りの暗殺者達が後退る。それに気付いた私は、ますます楽しくなってしまう。

「ご褒美をあげるわ、死に物狂いで抗いなさい。最後の1人には、慈悲をあげる」

ゴキメキバリンと、おぞましい音が響く。また1人、今度はタオルを絞るかのように頭から足先まで余さず捻じれあがっていた。

「うおあああああああああああ!」

私の左側に立っていた男が気が狂ったような声をあげながら私へ切り掛かる。脳天へと目掛けて振り下ろされるその剣を、私は左手で軽く受け止める。魔力をそのまま纏わせたその手は掠り傷一つ負う事なく、逆に剣が少しづつひび割れていく。見る見るうちにひびは刀身全体へと広がり、だけど砕ける前にほんの少しだけ魔力を流し込んであげる。途端、まるで飴細工が溶けるかのように鋼で出来た剣がドロリと溶け落ちた。

「ぁ、、、」

それを目の前で見た彼が、小さく悲鳴をあげる。それが可愛く思えてしまい、

「へっ?うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、、、、、、」

うっかり、空高く吹き飛ばしてしまった。残された2人がその彼を追うように空を呆然と見つめていた。そして、数秒後。グシャアという音と共に、彼は空中旅行から帰ってきた。

「ごめんなさいね、あまりにも可愛い声を出すから、つい力が入っちゃったわ。でも、いい経験が出来たでしょ?空を飛んだ人間なんて、きっと貴方が初めてよ?」

ご感想は?と小首を傾げて問い掛けるけど返事は無い。既に彼は物言わぬ何かに成り果てていた。

とうとう残りの2人、そのうちの1人が腰を抜かしたかのように倒れこみ、私を見上げてきた。

その彼にそっと近づいて兜を優しく脱がせる。されるがままの彼の素顔が露わになり、

「あら、思ってたよりずっと若い」

中から現れたその顔は、私と同じ歳か、もしかすると年下かもしれない程の少年だった。どこかあどけなさを残すその顔、それでいてあの身のこなしや立ち回りが出来るなんて、生まれた時からそうなるように鍛え上げられたのだろうか。それがなんだか無性に愛おしく思えて、両手でその顔を包み込んであげる。

「なっ、、、えっ、、、おごっ!?」

その少年が突然呻き、そして瞬く間に痩せ細っていく。顔だけではない、甲冑の下にある全身が枯れ木のように無残な姿へと成り果てて行っているのだ。そして数秒と立たずに少年は干上がり息絶えた。

「まぁ、少し魔力を吸い上げただけなのにこんなになるなんて。最近の若い子はだらしがないわね」

枯れ木になったソレをポイと放り捨てると、私は最後の1人に目を向ける。恐らくこの5人のリーダー格。私と最初に言葉を交わし、砕けた兜から左目だけを覗かせる彼と。

「お前は、一体なんだ」

震える声でようやく口を開く彼の、その左目が恐怖で血走っていた。

「聖痕の力が知りたかったんじゃないの?その為に私を生け捕りにしようとしてたのでは?」

「これが、、、その力だとでも?ならばさっき追いつめられたのは演技か!?」

「いいえ、あの時も間違いなく本気よ。見ての通りただの小娘ですし、まともな戦闘経験なんてそれこそ今日が初めてだから。場数って意味で言えば貴方達には遠く及ばないし」

私の言葉に彼がさらに狼狽する。何かを言おうとして、でも言葉にならないようだ。

「でもね」

それを制するように私は続ける。

「確かに聖痕の力は強力よ。あらゆる面で役立つし。だけど、それは表面的な事でしかないの」

そう告げて、私は聖痕を見せつけるように浮かび上がらせる。


 ・・・()()()()、2つの聖痕を同時に・・・



「聖痕が、2つだと、、、」

その光景に男が絶句する。その衝撃に、私はさらにトドメを刺す。

「そう、2つの聖痕。でもね、それだけじゃない。言ったでしょ?光栄に思えって。フェオールの末裔は未だに聖痕の()()使()()()を知らないみたいだから。今コレを正しく扱えるのは私だけ。だから、見せてあげてるのよ」

ブワリと、風が舞い上がる。それは私から発せられる膨大な魔力の奔流。それが風のように私の体に纏い、髪を波立たせる。

「1つだけならまだ常人。それも意図して抑えればまだ逸脱はしなかった。だけど、貴方達は私の想像を超えた。追いつめ、傷つけ、一度は勝利した。その栄光に褒美を与えなくてはね」

静かな怒りに声が自然と低くなる。

「故に、2つ。宣言通り、最後の1人である貴方に慈悲をあげる。私からすればまだ片鱗だけど、喜びなさい?その身に、魂に、存分に刻み込んであげるわ」

カランと、剣が地面に落ちる。

その音に、何が起きたのか分からない男が地面に転がる剣を見つめる。そして、その視線が己の右手へと向けられ、

「なっ、、、」

その光景に言葉を失っていた。それもそのはず、ほんの少し前まで剣を握っていた彼の右腕、その肘から先が綺麗さっぱり()()()()()のだから。

「痛みは無いでしょ?安心して、血も出ないから」

攻撃と回復、2種類の魔法を()()に操り、呆然とする男に優しく語り掛ける。

「2つの聖痕、2つの魔法。どう?お望みの力を味わったご感想は?」

その声に、彼は理解が出来ないといった感じに緩々と頭を振りながら後退ろうとして、

「ぐぅっ!?」

転げるように尻餅をつく。何が起きたのか分からないといった感じで今度は足へと視線を向け、

「何なんだ、、、これはぁ!」

膝から下が消えた左足に絶叫する。そうしてる内に、突然地面へ上半身を打ち付ける。ハッとするように左手を見ると、その肘から先も虚空へと消えていた。体を起こす事すら出来ずに、残された右足だけで必死に後退る様はまるで芋虫のようだった。

「知ってるでしょ?魔法は普通、1つしか放てない。中には火と水みたいに違う属性の攻撃を同時に操れる人も居るけど、攻撃と回復みたいに違う系統の魔法を同時に操る事は出来ない。あら不思議、じゃあ貴方のその状態は一体どういう事かしら?」

「バカな、、、ありえん、、、」

私の演技掛かった声に男が上ずった声で漏らす。

「あらあら、私を追い詰めてた時の威勢はどこへ行ったの?そんな無様を晒して恥ずかしくないの?」

その光景を嘲笑うかの様に私が近付いていく。

「やめろ、、、来るな、、、!」

「なら話しなさい。知ってる事、全部をね」

可愛らしく首を傾げて問い掛ける。それに対して男が必死に首を縦に振りながら声を張り上げた。

「し、知らない!俺達は雇われただけだ!閣下とも会ってはいるが常に仮面を付けていたし、直接話してもいない!侍従らしき人物が全て対応していた!」

へぇ、と思いながら頭の中で誰がそうなのかを思い浮かべようとして、ほとんど記憶にない事を思い出して思わず乾いた笑いが零れてしまう。聞いといてこれでは、まぁ後で何かしらには役立つかなと思い直して続きを促す。

「魔導具もその閣下とやらから渡されたの?」

「そうだ!詳しくは知らないが、数年に渡って実験を重ねてきたから効果は保証すると!それで逃げた聖女を生け捕りにして来いと大金を積まれた!しかもこの騎士団の装備まで揃えてな!」

「なぜ私を生け捕れと?普通、邪魔なら始末するのが目的なんじゃないの?」

「そこまでは知らない!俺達は捕まえる事だけ命じられた!だから!」

だから?と聞き返すと、彼が言葉に詰まる。まぁ何を言おうとしたかは想像がつく、どうせ命乞いなのだろう。

「ホント、都合がいいわよね、人って。いつの時代でも」

「何を言っている、、、?」

思わず零した独り言に男が困惑する。その様子にフフッ、と小さく笑ってしまい、真っ直ぐ彼を見つめる。

「ねぇ、ホントに助かりたい?そんな、まともに生きる事さえ出来ない姿でも?」

気紛れに、そんな事を言ってみる。それを聞いた男が目を見開きながらまたしても必死に首を縦に振る。

「た、頼む!そうだ、お前は聖女なんだろう!聖女なら俺を救え!見逃せ!」

さっきまでの静かな怒りが、明確な憎悪へと変化して私を飲み込む。

「私が聖女?また聖女と呼んだ?ねぇ?誰が、聖女ですって?」

「ヒィッ!?」

「この惨状を見なさい。こんな事をする奴が聖女に見える?ねぇ?答えなさい」

怒りの余り、男の残された右足も消し飛ばす。今度はさっきまでとは違い、純粋に力だけで捥ぎ取ってやった。

「うぎゃああああああ!!!!」

男の悲鳴と共に右足の膝辺りから鮮血が噴き出す。その足をがむしゃらに振り回すものだから、私はすっかり返り血を浴びてしまった。だけど、そんな事は気にしない。ただ目の前で悶え苦しむ男を冷酷に見下す。

「化け物め!くそったれ!何が聖女だ!こんな、、、こんなのは、まるで、、、まッ」

言葉は、唐突に途切れた。当然だろう、何せ、既に彼の頭はこの世に存在していない。壊れた玩具の様になった彼だったモノを見つめて、告げる。


「私ね、聖女って呼ばれるのは嫌いだけど、、、」


 ・・・()()()で呼ばれるのは、もっと嫌いなのよ・・・

今回、この世界の魔法や魔導具等の設定に触れましたが、詳細は第2章に入れられると思いますので、とりあえずはそういう物と思って頂ければ(笑)

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