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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第四章 ウルギス帝国狂乱譚
128/362

128 希望は潰えず

魔導人形部隊の襲撃から一夜明け。

瓦礫すら残らない街の跡地をローダンと並んで歩く。

彼の表情こそ初めて会った時と変わらず。

だけど、硬く握り締められた両の手は力が入り過ぎて薄っすらと血が滲んでいた。

「お前が気にする事ではない。結局、私も皇帝の手の上で踊らされていた愚か者だっただけの事だ」

私の視線に気付いたのか、ローダンが自嘲するように呟く。


長年、従順な代官を演じつつ、密かに反乱軍の支援をしていたローダン。

それが、ほんの僅かな時間で代償を支払う結果となったのだ。

それも、、、

「旦那様」

「報告しろ」

「はっ。残念ながら、正確な死者の数は把握できませんでした。生き残った民は現時点で確認出来ているだけで三千人程です」

「三千、、、十分の一以下か、、、」

執事からの報告に、それでも崩れる事無く受け答えする。

そんな二人のやり取りの最中、視界の端に忙しなく動き回るカイルの姿が見えた。


カイル率いる抵抗軍は生存者の捜索をしていた。

先程執事が挙げた報告も、彼らによって齎されたものなのだろう。

私が近付くと、それに気付いたカイルが強張らせていた表情を少しだけ和らげた。

「やぁ、リターニアさん。どうしたんですか?」

「大丈夫?夜通しで動き続けてるんでしょ」

「交代で仮眠を取っていますからね、ご心配ありがとうございます。ああ、それと」

彼は私に向き直ると、深く頭を下げた。

「有難う御座いました。貴女のお陰で、我々は生き残る事が出来ました」

「、、、そもそもは、私が奴らを呼び寄せたのよ。寧ろ、責められるべきは」

「それは違います!」

私の言葉を遮り、カイルが真っ直ぐな瞳で私を見つめる。

「帝国の、あの魔女のやり口は何時もこうです。適当な理由を挙げて気分で街を攻め、罪無き民の命を奪う。例え貴女がここに居なかろうと、奴は何時でも同じ事をしていたでしょう。ですからどうか、ご自分を責めないで下さい。寧ろ、少なくない人を救えた事を、どうか誇って下さい」

彼の真摯な言葉に、余計に居心地が悪くなる。

打算だらけの私には、彼の真っすぐで純粋な言葉は眩しすぎる。

「、、、そう、ありがとう、、、」

何とかそれだけ返すと、私は逃げる様に踵を返した。


不幸中の幸いだったのは、ローダンの屋敷が無事だった事だろうか。

今現在、その建物は全てが解放され家を失った人達を受け入れている。

不自然になり過ぎない様に距離を取りつつ彼らの様子を見てみると、その表情こそ疲労の色が濃く見えるけれど、それ以上にはっきりと見て取れるのが、怒りだった。


「帝国め、とうとうやりやがった!」

「カイル殿下が来た所を狙うなんて、言語道断にも程がある」

「殿下はここが狙われているのを伝えに来て下さったんでしょう?」

「どうやら、いよいよ反抗作戦に打って出ようとしていたそうだぞ。これが最後の好機だとか」

「ああ、やってやるさ!大人しくしていようがお構いなしに奴らは来るんだ!」

「そうだ!これ以上他の国が滅ぼされるのを黙って見ている訳にはいかねぇんだ!」


やはりと言うか、この街は全体が反乱組織に与しているみたい。

今回の件も、彼らの心を折るどころか寧ろ火を付けたようだ。

現に、今も動ける人は総出で無事だった物資や装備を搔き集めている。

「彼等は強いでしょう?この程度で折れるほど、私達は弱くありませんよ」

いつの間にか隣に来ていたカイルが気遣う様に優しく語る。

「そうね、これは意外だったわ」

私が正直に呟くと、彼がフッと微笑む。

だけど、すぐにその表情を真剣な物に切り替えて私に向き直った。

「リターニア様。この様な事になりましたが、昨日の話は本気です。貴女が手を貸して下されば我々は」

「駄目よ」

昨日と同じく、それを遮って断る。

勿論、私の考えは昨日と変わらないし、こんな状況だからこそなおさら頷く訳にはいかない。

そして、カイルもそれを理解しているのだろう。

今度は、私の言葉に驚く事も狼狽える事も無かった。

「、、、すみません、今のは私の我が儘です。貴女が見せたあの守りの光。私は、勝手ながらそれに貴女の心を感じました。何があっても守り抜くという、とても強い優しさを」

「、、、」

「いえ、白状しますと、貴女の事を初めて知り、向こうに送り込んだ仲間から貴女の姿や行動に関する詳細が届いた時、恥ずかしながら貴女に心を奪われてしまったのです」

突然始まった告白に、私は思わず彼の事を見てしまった。


淡い翠をした真っ直ぐな瞳。

整った顔立ちに、少し短めに切り揃えられた金の髪。

私よりも頭一つ高い背に、細身ながらも鍛えられた体。

暫く洗う事すら出来ていないであろう草臥れた、それでも仕立ての良い服。

その全てが、彼がやんごとなき身分の者だと示していて、、、


ローダンや街の人々が彼を殿下と呼び、敬いの眼差しを向けている。

それを受けて尚、真っすぐ立つ、その彼の、その全てが、、、



今、こんな状況にあるにも関わらず、それら全てを彼方に追いやり、、、




彼が、カイルが、彼の全てを、真っすぐに、私に向けていた。

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