126 魔導人形部隊
街は騒然となっていた。
破壊音は東側から響いているけど、明らかにそれ以外の方角も攻撃を受けているようだ。
あちこちから黒い煙が立ち上り、悲鳴や怒号が聞こえてくる。
そんな状況の中、私は街の南へと足を向ける。
何故かは分からないけれど、そこに何かがあると感じる。
逃げ惑う人達や武装した兵士達と擦れ違いながら歩き続け、やがて瓦礫の山の前に辿り着く。
元は大きな建物だったのだろうそれに、まるで待ち構えるかのようにそいつは居た。
妙な仮面のような兜に、装飾の無い、体の線が浮き出るような鎧。
まるで、いつぞやのゼイオスと同じような姿の人物だった。
「目標視認。外見情報、魔力波長、聖痕波動、全て一致。対象をリターニア・グレイスと認識」
私を視界に居れた直後、そいつは感情を感じさせない平坦な声で呟く。
そして、兜に側面に手を触れる。
すると、
『お、ようやくお出ましですね聖女様!』
その兜から、聞きたくも無い楽し気な女の声が響く。
「へぇ、本当にここに居ないのね。そのお人形越しに私を見ているってワケね?」
『私は研究者ですからね、こうして実験を見るのが仕事なんですぅ。それよりもそれより!どうですか、コレは!イングズでの事を思い出します?あの時も面白かったですけど、今度はどう楽しませてくれますぅ!?』
相も変わらず、ケタケタと何が面白いのか。
そして、その間微動だにしない目の前の人物。
まるで置物のようにそこに佇むコイツも、あの怪物と同じく魔導人形なのだろう。
いや、、、
「それよりも、そこらに隠れてるのもここに呼んだら?ご自慢の魔導人形部隊なんでしょ?」
『アハハ、流石にバレちゃいますかね?』
私の挑発に、フィルニスの声が少しだけ戸惑いを含む。
恐らく、私に気付かれた事ではなく、ここで部隊の姿を晒すか考えているのだろうか。
『うーん、余り勝手しちゃうと陛下に怒られちゃいますし、でもでも、せっかくの機会でもありますし、むむむ』
何度か唸った後、あっけらかんとした声でフィルニスは宣言した。
『ま、いっか。はいはい、総員集結ー!』
まるで飼い犬でも呼びつけるような軽い口調に、だけど、私の周囲は逆に緊張感に包まれた。
目の前の仮面の周囲に、音も無く新たな影が増えていた。
その数、五人。
つまり、最初から居たヤツと併せて今この場に六人の魔導人形が揃っていた。
それも、たった今まで破壊行為に及んでいたはずの、あの怪物までもがである。
(全員が転移魔導具を持ってるのね。それも全く魔力の動きを感じ取れないなんて)
平静を装ってはいるけど、内心では帝国の、フィルニスの技術力の高さに驚きを隠せずにいる。
『如何です?私自慢の魔導人形部隊は!いやぁ、ここまで漕ぎ着けるのはホント大変だったんですから!十年?二十年?忘れちゃったけど、久しぶりに楽しめましたよ!ええ、ええ、こっちに来て初めて心から楽しめましたよぉ!』
聞いても居なことを喋り続けるフィルニスを無視して、目の前の人形達に集中する。
既に知っている怪物は置いておくとして、そいつ意外の五人。
真ん中に立つ仮面の右隣の、同じ様な格好をした人物。
兜から流れる長い金髪や体の線が浮き出る鎧の上からでも分かる胸の膨らみから、そいつは女なのだとだけ判断する。
相対的に、最初から居た方は男だと断定。
仮面女の背後には、背丈も体格も全く同じように見える二人の仮面。
こいつ等も見た目からして男なのだろう。
時折、何かを探る様に周囲に首を巡らせるのだけど、恐ろしい事に、その二人の挙動が寸分違わず同じだった。
それだけで、あの怪物と似た異様さを感じずに居られない。
その時、私の背後から複数の気配が近付いてきているのに気が付いた。
多分、ローダンの私兵部隊やカイル達反乱組織が異変に気付いて向かっているのだろう。
余計な事が起きる前に、さっさと要件を済ませてしまおう。
「それで、わざわざ私を呼び出したのは?まさか、その為だけにこいつ等を差し向けたわけじゃないでしょ?」
『おおっと!そうでしたよぅ、危うく本題を忘れるところでした』
気を取り直したように笑い声を潜めたフィルニス。
『まぁ、さっき告げた通りですけど、そもそも、ここが反乱軍の根城だってのはとっくの昔に知ってるんですよ。で、都合良く貴女が居るのでね、もし貴女が素直に従ってくれるなら今日の所は見逃してあげちゃおうかなぁって。まぁ、何て慈悲深い私!』
自画自賛するフィルニスに目を細めつつも、その言葉の裏を考える。
「つまり、明日になれば潰すって事ね」
『あっ、やっぱ分かります?そりゃあねぇ、虫けらの巣を潰すのにわざわざ全力何て出しませんけど、こうして戦力は揃っちゃってる訳で。なら、ついでに駆除しちゃうのもアリじゃないですか。それに』
もったいぶる様に言葉を切ったフィルニス。
姿が見えないのに、まるでその視線が目の前にある様に私に絡んできたように思えた。
『私はですねぇ、見たいんですよ、、、貴女の本気が』