125 祈らない聖女と止まらない魔女
私の告げた言葉に、二人が驚きに満ちた目で見つめてくる。
まぁ、端から見れば当然の反応なのだろうし、おかしいのは間違いなく私だろう。
だけど、
「あのね、そんな顔してるけど、私が貴方達と協力する理由が何処にあるの?ああ、勘違いしないで欲しいけど、皇帝の側に着くなんてことは無いわよ。寧ろアイツとフィルニスは私が殺す。でも、それと貴方達と手を組むのとは別の話よ」
「では何故!?」
慌てるカイルを手で制して、ソファに座る様に促す。
「落ち着きなさい。何も敵対するだなんて言ってないでしょ。こちらの現状は知っているわ、この目で見ているんだから。でもね、その事と貴方達に協力する事が結びつく事は無い。何故か分かる?」
私の問いに二人が顔を見合わせる。
困惑と疑念を抱きながらも考え込む二人。
ややあって、ローダンが何かに思い至ったのか顔を上げる。
「もしや、お前は先の事をも見据えているのか、、、」
彼の呟きに頷いてみせ、カイルを見つめる。
それで思い至ったのか、カイルもハッとした顔で顔を上げる。
「つまり、勝利の立役者に部外者が居てはならない、と?」
「こっちの状況はそれこそ貴方達の方が良く分かっているでしょ。そんな中で帝国を打ち倒して、そこに部外者が居たんじゃ纏まる物も纏まらない。私も担ぎ上げられたくなんか無いし、となれば貴方達だけでやるしかないの」
「それは、、、確かにそうかもしれません。ですが!」
「あとね、これはハッキリと言っておきたいんだけど」
尚も食い下がるカイルの言葉を遮り、二人を鋭く見つめる。
何だか毎回この件を繰り返しているみたいだけど、本当にこれだけは声を大にしてでも言い続けないといけないからね。
「私を聖女と呼ばないで。私の何を見て来たか知らないけど、私はそんな高尚な存在じゃない。本当の聖女なら民の為に祈りの一つでもするでしょうけど、私はそんな無駄な事はしない。現時点での私の目的はさっき言った通り、ゼイオスとフィルニスだけ。あの二人を始末したら私はすぐにでもここから離れる。良いわね?」
有無を言わせぬ私の言葉と圧に、流石に二人も沈黙する。
いや、ローダンは納得の行った表情だけど、カイルはまだ受け入れきれないみたい。
まぁ、彼が飲み込むのを待つ必要も無い。
私の立場は明確にした。
なら、後は勝手にするだけ。
「そういう事だから、私はこれで失礼するわ。美味しいお茶をありがとう」
お茶のお礼を告げて立ち上がる。
突如、まるでその瞬間を狙っていたかのように、館が大きく揺れた。
「何事だ!?」
ローダンの声に廊下から執事が駆け込んでくる。
そしてその表情を見ただけで、全員が何が起きたのかを察した。
「失礼いたします、突然現れた魔導人形が街を襲撃しております。既に多数の怪我人が出ておりまして!」
「魔導人形か、帝国軍はどうしている?」
「それが、報告によりますといつの間にか姿を消している様で」
執事から齎された報せにローダンは表向きは冷静に対応を始める。
対するカイルはいつの間にか取り出した魔導具で誰かと連絡を取り合っているようだ。
窓から街の様子を確認しているけど、今にも飛び出しそうでもある。
そうこうしている内に外から激しい破壊音が少しづつ今居る場所にも届き始める。
どうやら最初の揺れは外壁が破壊された音のようだ。
そこから、恐らくは真っ直ぐにここを目指しているのだろう。
そしてその狙いは、、、
『あーあー、聞こえてますか~。えー、あぁもう面倒ですねぇ何で私がこんな事を』
外から聞き覚えのある声が響く。
「クソ、フィルニス直々に指揮だと。どうせ遠くから高みの見物でもしているだろうに、魔女めが!」
その声に反応したのはカイルだ。
怒りに顔を染めつつも、何とか理性でこの場に留まっている。
奥ではローダンと執事、それに恐らくは私兵であろう数人の兵士が対策を練っている。
そんな緊迫した空気を吹き飛ばす様に、間の抜けた声が響く。
『とりあえず、この街は偉大なる皇帝に対する反逆を企てた愚かな、、、何でしたっけ?あーもういいや、聖女様ー、そこに居るのは分かってますので、大人しく出てきてくださいな~。さもないとこの街、無くなっちゃいますよ~』
「はぁ、やっぱりそうか」
あの女がそう簡単に引き下がるとは思っていなかったけど、こうも早く、それもこんな方法で来るとは。
確かに、帝都からこの街へ来る最中、何度か気配を感じてはいた。
今回のお誘いでてっきり代官殿の手の者かと思っていたけど、恐らくあの気配のどれかがフィルニスの手の者だったのかもしれない。
今更考えても仕方ないけど、せめてもう少し探りを入れておけばよかったかもしれない。
などと思い馳せている内に外も、それに屋敷の中も騒がしさが増してくる。
既に私の事は忘れ去られているようだ。
フィルニス直々に呼び出されているのに、その事にも気付いていない。
まぁ私としても都合が良いし、魔法で姿と気配を消して外へ出てしまうとしよう。