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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第一章 フェオール王国逃亡記
12/361

12 襲撃

今回、少々痛々しい展開がございますので、ご注意下さい。

ふと、気が付けば辺りが暗くなっている事に気付いた。

しばらく様子見しようと思っていたら、いつの間にか眠っていたらしい。しかも、

(はぁ、なんかイヤな夢見た気がする、、、)

かつての記憶、そのほとんどはもはや覚えていない。けどあの日、()()の瞬間だけは鮮明に覚えている。

(昨日聖痕を使いすぎたせいかな。ここしばらくは全然見なかったのに)

少しだけ目を閉じて、丸めていた体をほぐす様に伸ばして、すっかり暗くなった町を見回す。昼間の喧騒はすっかりと収まり、でも領主の館の付近だけは賑やかな明かりに包まれていた。

そのまま少しだけ様子を窺い、市街に人の動きが無いのを確認して時計塔を後にする。

町を出ようと入口に足を向け、その前に念のために船着き場へと向かう。既に受け付けは締まっているが、船の出航予定は常に張り出されているから、それに目を通す。

(はぁ、やっぱり)

そこには全便終日休止の文字。王族が来ているからその警備の為、人の往来を止めているとの事だった。盛大に溜め息を吐き出し、気を取り直して町の入口へと駆け出した。


町を出た私はしばらく街道に沿って歩いた。

次の目的地は東の町、そこからさらに東へ向かい隣国へ。当初の予定とキレイに正反対へと向かう事になったけど、今はもう贅沢を言ってられない。不幸中の幸いなのは、あのバカ王子がたくさん護衛を引き連れてきた事かな。今なら街道も警備はそれほど多くは無いだろう。国境に関しても、西のアンスリンテスより東のイングズ共和国の方が比較的警備が緩いと聞いた事がある。今はそれに賭けるしかない。

万が一こちらもダメだとなると、面倒だけど北に向かって断絶山脈を超えるしかなくなる。一番過酷だけど、万全に整えれば私1人なら十分超えられる。加えて追手もほぼ確実に来ない。まぁそれだけあの山は危険なワケだし、私としても超えた後がどうなるか分からないし、本当の本当に最終手段だ。


町から出て1時間ほど進んだ辺りで、私は街道から外れて東に広がる森へと足を踏み入れた。

東の森は西に広がる物とはまた趣の違う木々が生えており、幾分視界が開けていて昼間は薬草集めや動物を狩りに来る人が訪れる長閑な場所である。

さらには夜になると、月の光が木々の隙間から差し込み幻想的な雰囲気を作り出し、知る人ぞ知る逢引の穴場となるのだ。

そんな森の中を進み始めてしばらくした所で、私は足を止めて背後を振り返る。

「そろそろ出てきたら?」

虚空に向けて話しかける。当然、返事は無い、、、何て事は無く。

「気配に気づくとは、それも聖痕の力か」

騎士団の甲冑を纏った人物が影から現れた。それだけ見ればさっきの町から追いかけてきた様に見えるけど、

「貴方達、西の街道を封鎖してた連中でしょ。その身のこなし、騎士団とは明らかに違うもの」

私の問いに返事は無い。

付け加えると、そもそも彼らは気配を消して私を追いかけてきていた。普通の騎士ならそんな事する訳がない。なら、その中身は明らかだ。

「この状況で沈黙は肯定と同じよ。暗殺者さん」

私の言葉にやはり沈黙を返す。けど、さっきとは少しだけ雰囲気が変わる。明らかな警戒だ。

そして当然だけど、私も気を緩めたりはしていない。あの時、街道を封鎖していたのは5人。少なくともあと4人は居るはずなのだから。

「ちなみにだけど、質問したら答えてくれる?」

試しに声を掛ける。この手の仕事を生業とする連中が標的を前に躊躇う理由などない。けど、実際目の前の人物は最初の時にわざわざ返事をして姿まで現した。なら、目的は恐らく。

「私を殺すのが目的じゃないでしょ。雇い主の所に連れて行くのが依頼かしら」

「聡いな。加えてこの状況でその冷静さ。式典から堂々と逃げ果せるだけはある」

やっぱり、と心の中で思いつつ隙を窺う。答えはしたものの相変わらず相手は警戒を緩めない。そんな中、なんと相手から話しかけてきた。

「見逃せ、とは言わないのか。それとも何か策があると」

こちらを探る様な、でもどこか楽しげにも聞こえるその言葉に私は笑みを浮かべて、

「まあ、何とかなるかなって程度には考えてるわ。今はそれなりに魔力も回復してるしね」

余裕の態度を示してさらにはこちらの体調面の情報まで出して見せる。果たしてどう出るか。

「それは何より。小娘1人に全力を出すのは如何かと思ったが、その心配は不要だったか」

途端、警戒が殺意に切り替わる。どうやら生きてさえいれば多少の傷は許容されているらしい。

私も相手ももはや語る言葉は無い。互いに出方を窺い、微動だにしない。

「っ!」

先に動いたのは相手だった。最小の動作で懐からナイフを投げつける。体を捻ってそれを躱し、直後に身体強化を掛けて一気に森の奥へと駆け出す。

追ってくる気配はない、だけどそのまま速度を緩めずに走り続け、

「ひゃあ!?」

思わず間抜けた声が漏れる。目の前に突然刃が飛び出してきたのだ。辛うじてそれを潜り抜けて背後を振り返ると、茂みから人影が飛び出してくる所だった。

(クソ、やっぱり先回りして潜んでたわね!)

顔を正面に戻しながら声に出さずに悪態をついて、より周囲の気配を探る。だけど、

(あれ!?後ろの奴の気配がない!)

たった今飛び出してきたはずの暗殺者の気配がもう既に無い。思わずまた振り返ってしまい、

「えっ!?」

突然、足元が掬われる。背後を振り返った瞬間の一番態勢が崩れている所を見事に突かれてしまい、身体強化で加速していたのも相まって派手に転げてしまう。体中を地面に打ち付けながらそれでもムリヤリ立ち上がり走る。このまま地上に居てはあいつ等の思う壺だと考えて一気に跳躍し、手近な木の枝に飛び移る。瞬間、バキィッと音がして私の乗っていた枝が折れる。空中で態勢を整えながら見上げると、剣を構えた人影が木に張り付いているのが見えた。ここに至って、ようやく私は気付いた。

(魔導具!あいつ等何かしら魔力を感知する魔導具を持ってるのね!)

今私は身体強化の魔法を掛け続けて逃げていた、それが仇となっているのかもしれない。だけど、これを解除すればそもそも勝負にならない。しかもこちらから反撃しようにも気配すらないから当てようがない。おそらくそれも魔導具を使って闇の中を動いているのだろう。街道ではわざと私に気付かせたのかもしれない。

森の中を駆け抜けながらどうするか考えていると不意に、

「幾ら聖痕を持っていようと所詮はこの程度か」

すぐ傍で声が聞こえてきた。釣られて横を見ると私と話していたであろう甲冑の人物が目の前に迫っていた。相手の挑発にムッとして瞬間的に身体強化を解除し、

「言ってくれるわ、ね!」

反撃の魔法を放ってソイツを吹き飛ばしてやる。直後、

「うぐぅっ!?」

右足のふくらはぎに熱が走る。次いで激痛が走り右足から力が抜けて崩れるように転げる。

何が起きたのか目をやると、熱が走ったと感じた場所がパックリと裂けて大量の血が流れ出ていた。

(マズッ、傷を塞がないと!)

咄嗟に右手を伸ばして回復魔法を掛けようとして、

「なにっ!?」

突然、横から手が伸びてきてそのまま地面に押さえつけられる。左手で追い払おうとした瞬間、別方向から手が伸びてきて左手も抑え込まれる。さらには両足もそれぞれ抑え込まれて地面に縫い付けられてしまう。そこに、

「よくもやってくれたな」

さっき私が吹き飛ばした暗殺者が姿を見せる。魔法が直撃したのか、頭を覆う兜が一部砕けて、暗い色をした左目が私を睨みつけていた。

「あの程度も避けられないの?まだまだじゃないのかしら、うぐっ!?」

私の言葉を遮るようにソイツが私の髪を鷲掴みにして頭を持ち上げる。

「減らず口だけは立派だな。だがこれで終わりだ」

そう言って懐から何かを取り出す。リング状のそれはペットや家畜に付けるような首輪に見える。さらには、中央には何かの宝石らしき石が埋め込まれている。それを、

「お前()人形となるがいい」

私の首にムリヤリ取り付ける。カチンと音がして、私の髪を投げるように放して立ち上がる。それに合わせて私の手足を抑えていた連中も手を放して立ち上がる。

「思ったより手こずらせてくれた。だが、これでようやく閣下も喜ばれるだろう」

まるで肩の荷が下りたかのように吐き出す。

「とりあえず右足の止血をしておけ。死にはしないがそのままでは」

「女の体に傷を付けるとか信じられないんですけど」

その声を遮って私が怒りを露わに暗殺者たちを睨みつける。

「っ!?」

それを見た5人が全員息を吞んで絶句している。それに構わず私は右手を傷に添えて癒やす。見る見るうちに傷が塞がり、流れ出た血だけが残される。

「しかも地面に押し倒してこんな物まで付けて」

そう言って私は首に手を添えると、

「変な感じねコレ。真っ当な魔導具じゃないのは確かだけど、コレは、、、」

魔力を流してその役割を分析する。その間に暗殺者たちは気を取り直したのか、それぞれが武器を構えて私を睨む。

「あー、なるほど。人形ね、確かに。随分悪趣味ね、貴方達の雇い主は。女の自意識を奪って何がしたかったのかしら」

そう、この首輪は下種な事に自意識を封じ込める作用を持っているのだ。おそらくは首輪に付いてる石に一種の催眠効果のある魔法を封じているのだろう。それをムリヤリ脳へと流し込み、起きてはいるけど意識は無い状態にするのだ。そんな状態になったら、相手の言いなりになって好きに操られてしまうのは明白だ。つまり、

「これを使うような奴はクズ以下のクソ野郎ね。ましてや女相手になんて、下劣もいいところね」

これを付けられた者は相手の思うがままにされるのだ。それが男なら、何をされるかなど想像もしたくない。さっさとそれを外すと、ゆっくりと立ち上がり外した首輪をクルクルと指に引っ掛けて彼らに見せつけてやる。

「で、こんなゴミみたいな物まで用意して貴方達の雇い主は何がしたかったワケ?そこまでして聖痕の力が欲しかった、なんて下らない理由じゃないでしょ」

その問いに、彼らは動揺を隠して質問を返す。

「何故それが効かぬ。貴様、何をした」

「別に。そもそも魔導具って、基本的には身に着けた人の魔法を補助したりする物でしょ。魔法が使えない人の為だったり、特別な用途の為に専用の魔法が込められてるのも確かにあるけど、コレは明らかに違う。付けられた人に干渉して効果を発揮するなんて」

首輪に埋め込まれた石を指でつつく。

「そんなの、より強い魔力で洗い流せば打ち消せるのは当然でしょ?」

私の言葉に、今度こそ彼らは動揺を露にする。唯一目が見える男が、ついに声を荒げる。

「あり得ん!これまでの実験でそれが不可能だと証明されている!例え聖痕であろうと十分に御せると閣下は!」

「ようやくボロを出したわね。その閣下という人の側には聖痕を持つ者がいるのね」

謎の閣下という人物はとりあえずどうでもいい。だが、聖痕を持つ者については是非とも聞いておきたい情報だ。

「残念だけど、私ってば他人にあまり興味がないから、私と王子様以外に誰が聖痕を持っているのか知らないのよ。だから、ね?」

私は微笑み、一つ、息を吐く。

スゥッと目を細め、今まで掛けていた魔法を解除していく。髪の色が白銀に戻り、同じく誤魔化していた黒い瞳が鮮血のような深紅へと戻る。()へ回していた魔力が戻るのを感じて、ゆっくりと右手を胸に添え、自身へ向けて手向けの言葉を紡ぐ。

「目醒めなさい」

ドクンと、心臓が高鳴るのを確かに感じ、段々と胸の内から言い知れぬ高揚感が込み上げてくる。

そして、それがどういう変化をもたらしたのかを感じ取ったのか、目の前の彼らが金縛りにでもあったかのように凍り付くのが見えた。それが、なんだかとても愉快だった。だから、

「どうか、素直に話してくれる事を願うわ」

歌う様に、問いかける。


 ・・・死んでしまう、その前にね?・・・

次回、それはもうすごい事になりますので、お楽しみに!

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