表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
106/362

106 彼らの決断

ハルヴィルの養父から語られた真実はあまりにも衝撃的かつややこしい内容だった。

まずそもそも、イングズ王国が共和国として生まれ変わったのが百年ほど前。

まぁ、当時魔王として暴れていた私に対抗する為にバラバラだった複数の国々が同盟を結び、それがそのまま一つの国に変化したのだけれど。

だけでも、勿論全てが恙無く穏便に収まったかと問われると案の定そうではなかったらしい。

特に同盟の中心となり、共和国となった時にその名を受け継ぐ事となった当時のイングズ王国は相当荒れたらしい。

特に、共和国制への移行を推し進めた当時の王家はかなり糾弾されたらしく最終的には暴動が発生、王族達は散り散りに逃げる他なかったそうだ。

ディートリオン家はその際に当時の王子と共に市井に下り、以降影に日向にその血を護ってきたのだとか。

ところが、何十年と過ぎ王家の事など誰もが忘れ去ったと思った矢先に唐突に襲撃を受けた。

相手の正体も目的も分からぬまま応戦、その混乱で王家とディートリオン家は離れ離れになってしまい、以後長きに渡り行方が掴めなくなっていた。

そして今から二十年ほど前にようやく。

「あの日襲い掛かってきた賊共はこの魔導具で我らを、いや、イングズ王家を探り当てたそうだ」

それはかなり古い物だけど、間違いなく聖痕探知魔導具だった。

それはつまり、その頃から既にウルギス帝国は暗躍、聖痕所有者を探し求めていた事になる。

少し話が逸れたけど、そのせいで王家と護家は分断されてしまった。

だけど、幸か不幸か帝国も王家を見失い、そして彼等は姿を隠し続けた。

「この魔導具を用いて各地を探し回ったが、まさかすぐ傍に居られたなど愚にも付かぬ蒙昧。しかも、そうしてようやく見つけたのは御子一人、孤児として過ごしていた。これが如何な我が一族の大罪か。それでも、果たすべき使命の為にその子供を養子として引き取り、真実は告げずに育ててきた。いつか、再び王家の名を表舞台に送り出す為に」

全てを語り終えた養父上がハルヴィルの向き直り、片膝をつく。

「養父上!?」

「願わくば、いつまでも親子として暮らしていたかった。だが、最早状況は一変した。あの場で皇帝が言い放ってしまった以上、例え否定したとてうねりは止まらぬであろう」

「、、、私の意志はどうであれ、かつての王家の血は利用価値がある。それを望む物にとっては、でしょうけど、、、ですが!」

跪き、首を垂れる養父の肩にて置いて顔を上げさせる。

「私は幼い頃の記憶が曖昧です。父と母の事もほとんど、、、ですが、今こうして私が存在しているのは貴方のお陰です。過去がどうであれ、それは偽りなき事です。そしてまだその恩を返せていない。この先何が起きようと、私はハルヴィル・ディートリオン。貴方の息子であり続けます」

そうして手を取り合う親子を眺めながら、私はどうしたものかと考える。

いや、確かに感動的な光景だし、この国の今後を左右する話でもある。

私も何度か合いの手を入れているし、結局背後に帝国が居る事も分かって色々と解決策が見えてきたのは確かなのだけど。

まぁいつもの如く、そもそも私は無関係なのである。

既にかなり巻き込まれているけれど、この国の事情など知った事ではない。

ましてやお家騒動などその最たる物だ。

という訳で、私は早々に二人を意識の外に追いやり思考に耽っていたワケである。


それから少しだけ時間が経ち、ようやく落ち着いたディートリオン親子を前に私はこの後の事を話していた。

「奴の意図がどうあれ、少なくとも今は私に興味が向いている。だから皇帝の相手は私がする。ハルヴィルと養父上はその隙に人質を救出して欲しい」

「それについては異論有りませんが、しかし問題はアグルです。もし皇帝の言が事実だとしたら、彼はもう、、、」

一番の厄介事はまさしくそこだ。

完全に傀儡と化してしまったアグル、彼にどう対処をするか。

私が対応できれば、或いは聖痕の力で彼を元に戻す事も出来なくはないかもしれない。

だけど、今回ばかりはそうはいかないだろうし、それにそもそも今この場に聖痕を持つ者はもう一人居る。

私はニコリと笑みを浮かべてハルヴィルをちょんと指差す。

「貴方がどうにかしなさい。もしかしたらっていう話だけれど、聖痕を使えば彼を戻せる可能性がある。だから」

「、、、リターニアさん、まさか?」

「ええ、そのまさかよ」

ソファから立ち上がり、窓から見える庭に目を向ける。

「付け焼刃でも無いよりはマシ。今から貴方に聖痕の使い方を教える。アグルを助けたいなら死ぬ気で身につけなさい」

苦笑いを浮かべるハルヴィルと養父上。

あの皇帝はいつまでに戻って来いとは言わなかったし、その気になれば私の気配を追ってくるかもしれないけれど、既に時間は夜。

皇帝の性格的に夜中にコソコソなんてのはまず有り得ないだろう。

その隙にハルヴィルを鍛えて、最低限聖痕の力を引き出せるようにする。

友人を助ける為だ、彼には気合で乗り越えて貰おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ