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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
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104 皇帝ゼイオス・ゲルン・ウルギス

聖痕の発現する場所には意味がある。

私で言うと左目の聖痕が分かりやすいだろう。

目に宿る聖痕はあらゆる物事を見通す。

それは物理的にも、魔導的にも、である。

勿論、全てが見たままの通りであるとは限らない。

時には概念的な意味合いに於いて発現する場所が定まる物もあると言う。

とは言え、聖痕のある場所はその能力を推察する起点足り得る。

では、目の前に居る男、ゼイオス・ゲルン・ウルギスの場合はどうだろう。

それは最早言うまでもない。

額、見たままに捉える場所ではない。

それが指し示すのが何かと問われればその奥にある人の根幹足る存在、脳である。

あの聖痕は、その脳機能に対して多大な効果を与える物だ。

そしてそれが何を意味するか、これまで見てきた帝国の尋常ならざる技術力がその答えだ。

これまで見てきた物も、そして恐らく今着ている謎の装備も全て、聖痕の力を用いて生み出した未知の技術による産物だろう。

その力は侮れない。

聖痕同士の単純な戦いなら、私が全ての聖痕を解放すれば容易く覆せる。

だけど、そこから生み出された物は厄介な事にその限りではない。

既に私はそれを目にしている。

そう、聖痕に干渉する魔導具。

あれがまさか、皇帝自身がその力を調べ尽くして作られたなんて想像だにしなかった。

そしてそれが意味するところが何か、最も最悪の結論しか出せない状況になってしまった。

間違いなく、あの魔導具は聖痕の力を封じ込める事が出来る。

抗えるのは私だけ、などと自惚れる事も出来ない。

一つだけならまだ何とか跳ね返せるだろう、けどもしも相手に私の秘密が露見したら。

私が持つ五つの聖痕に対して対抗するにはどうするか、答えは実は単純。

聖痕が五つあるなら、魔導具を五つ取り付ければいい。

効果の違う魔導具なら干渉してしまい効果が発揮されないけれど、同じ効果を持つ魔導具ならその限りでなはい。

いや、本来なら同じ効果の魔導具を複数付けても意味は無いのだけれど、聖痕を封じる魔導具に限れば、そしてその対象が私となれば話は変わる。

一つの聖痕に対し一つの魔導具。

聖痕はあくまで独立した存在だ。

例え複数宿したところで、意識して同調させない限りそれぞれが干渉しない。

つまり、魔導具により聖痕を封じられたらその時点で魔導具と聖痕で繋がりが完結してしまう。

つまり、聖痕も干渉できなくなるし、魔導具も他に干渉しなくなる。

即ち、幾つ聖痕を持とうとその全てを個別に封じる事が可能となってしまう。

繰り返すけど、あくまでそれは相手が私の秘密を把握している事が前提ではある。

そして、

「さぁ、もう一度問おう、リターニア・グレイス。俺としては、お前の意志で俺に協力する事を望んではいる。だが、尚も否と答えるならば仕方がない。()()()()()を一度封じてでも連れて行く。お前が俺の物になる事は既に決定事項なのだからな」

ゼイオスの言葉には反応しない。

全ての聖痕と言った、でもそれが幾つであるか奴は敢えて言わなかった。

私が複数の聖痕を持っているのは既に調べが付いているのだろう。

事実、何度か同時に力を使った事はある。

でも、全てを同時に使った事は無い。

唯一、フェオールの城で自身の正体を明かした時ぐらいだし、そこに部外者は居なかった。

もしもあの場に居た誰かが帝国の間諜だったならどうしようもないけれど、それは恐らくない。

だからこそ、ゼイオスは数の明言を避けたのだろう。

奴は私が秘密を漏らすのを誘っているのだ。

そしてもちろん、それに乗る様な真似はしない。

この男はこれまで出会ってきた誰よりも危険だ。

迂闊な言動一つで奴の頭脳は十も二十、下手すれば無限に解を導き出すだろう。

「何度聞かれてもお断りよ。アンタのせいで私の旅は滅茶苦茶なんだから。いい加減ウンザリしてるのよ、ここで終わりにするわ」

「ああ、いいぞ。俺の誘いを断った女などお前が初めてだ。実に愉快だ、是が非でも我が物にしたくなってきた。だがまぁ待て、まず先に済ませねばならぬ事があるのでな」

飛び出そうとした私を手で制した後、その視線を私の後ろへと向ける。

瞬間、さっきまでの緩んだ雰囲気が研ぎ澄まされた刃の様になる。

その視線に射抜かれたのはハルヴィルだった。

後ろから息を呑む呻きが聞こえ、私は彼をかばう様に一歩前に出る。

「落ち着け、その男に危害は加えん。寧ろ、宜しくしてやろうとさえ思っている程だぞ?」

「、、、彼が聖痕を持っているから?」

「ある意味ではな。だが事の本質はそこではない。その辺については、そこで蹲ってる老いぼれ共の方が良く分かっているのではないか?」

視線を向けられた議員達、そのうちの何人かが何故かさっきまでとは違う様子で体を震わせている。

「なんだ、まさか隠し通せるとでも?はっ、耄碌ジジイ共が保身に走るからこんな事になる。覚えておけ、ハルヴィルよ」

ゼイオスがハルヴィルを指差し、勝ち誇る様に笑みを浮かべた。

「ハルヴィル・ディートリオン、いや、本来の名は」

「待て、皇帝よ!」

誰かが叫び、しかしその声は、

「ハルヴィル・トール・イングズ。かつてのイングズ王国の王子よ」

ゼイオスの声に搔き消された。

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