102 首都動乱
門を潜り町へと足を踏み入れると、眼前に広がった光景は筆舌し難い有様だった。
立ち並ぶ建物はまだ無事な物も見えはするけど、それでも見て分かる程度に崩れていたり、或いは火の手が回ってしまっている物も見受けられる。
「ほんの数日で何が起きてるのよ」
思わず独り言ちてしまうけど、足だけは前へと踏み出し続ける。
とにかく状況を把握しなければ何もしようがない。
それに付け加えて、そこかしこに見え隠れする人影。
「あいつ等、多分だけど居なくなってたハンターよね、、、」
見た目や身のこなしからして間違いなくそうだろう、その彼らが消火作業や逃げ遅れた人達の救助に駆け回っていた。
それだけでも訳が分からないのに、また別の所では何処からか侵入したのであろう魔物と戦う集団も見受けられるのだ。
そんな光景を横目に、私はとにかく中心部へと駆ける。
先へと進むほどに喧騒は大きくなり、議会のある建物周辺は特に人も魔物も入り乱れている状況だった。
そしてその中に。
「ハルヴィル!」
「リターニアさん!何故こちらに!?」
数人のハンターと共に指揮を執っているだろうハルヴィルの姿。
普段の整った服装は良く見ると所々が破けていたり、それ以外にも細かな傷なども見受けられた。
その彼は隣に居た女性と一言二言やり取りをすると私へと駆け寄ってくる。
「いつこちらに?いえ、そもそもどうやってお戻りに?」
「秘策ってヤツよ。それより、この騒ぎはなんなの?」
「それがですね、、、」
「それは私からご説明しましょう」
何故か言い淀んだハルヴィルに続けて、先ほどの女性がこちらに来ながら声を掛けてきた。
「失礼。私はメイルと申します。魔獣討伐協会の副会長、と言えば聞こえは良いですが要はアグルの秘書みたいなものですね」
美人ではあるのに何処か草臥れた雰囲気も纏わせており、何事かとも思ったけどあのアグルに付いて仕事をしているとなると、まぁ色々と察して頷いてしまう。
「リターニアよ。それでつまり、この状況はアグルと関係が?」
「はい。少々複雑な状況なので要点だけお話しします」
そう前置いて話始めた内容は、まぁ予想通りというか、やっぱり面倒な事この上なかった。
まずはハンター達が居なくなった辺りまで時は遡る。
あの日、メイルさんを始め協会の職員達、そして首都に居たハンター達に対してアグルからある通達が入ったらしい。
その内容が、議会に対する魔物誘因に対する武力行使。
予想外の内容、そしてあまりにも唐突なその報せに多くの人が困惑する中、私も前に見掛けた若手連中が行動を開始。
それを諫めようと中堅から上のハンター達も動いたのだけど間が悪く、と言うか明らかに何者かの扇動により議会側も協会に対して、前にあった議員襲撃やハンターを勝手に引き上げさせた事、北部に於ける魔物への対応などを糾弾する書状が届けられてしまった。
事態が複雑化する中、一向に姿を見せないアグルを不審に思ったメイルさんは丁度私の頼みで同じくアグルを探していたハルヴィルと連絡を取り合い、双方でそれぞれの陣営を押し留めるべく動き出す。
ところが、それを察知した若手ハンター達は事前に仕込んでいたのか、或いはやはり帝国の手の者だったのか、どちらにしろ各地で魔物を呼び出したり、或いは自らが破壊活動を開始。
メイルさん指示の下、ハンター達がその対処の為に首都から出払った、というのが事の真相だそうだ。
何とか事態を水面下で解決するべく大事にならないようにしていたらしいのだけど、そこでまたしても厄介な事が起きたのだとか。
「私が議会側を何とか説得して、まぁお歴々も何者かに乗せられたと理解してやっと落ち着いてはくれたんですがね」
そう言ってハルヴィルが見た事を話し始める。
協会側がそうこうしている間に何とか議会側を抑える事に成功したハルヴィルだったのだけど、まるでそれを狙ったかのようにその場にアグルが乱入。
どこから連れて来たのか、明らかに怪しい連中を引き連れて議員達を捕縛してしまったのだという。
メイルへと連絡をするべく偶然その場を離れていたハルヴィルや、自身の領地が魔物に襲われていると報告を受けた一部議員達が即座に国民達に避難を指示し、メイルと連絡を取り合ったハルヴィルがアグルと話をするべく動いていた所に、首都周辺に大量の魔物が現れたとの報せ。
ますます混迷を極める中、自領へと戻ろうとしていた議員にメイルが直々に頭を下げに行き、ハンター達をお急ぎで呼び戻したのだとか。
その間、国の守備隊や議員の護衛隊が何とか籠城戦で魔物を押し留め、そこに魔物を掃討しながら戻ってきたハンター達が合流。
一気に形勢逆転、かと思われた矢先に。
「それは突然現れました。たった一人なのに、嵐の様な力と速さで門を破壊し魔物を引き入れたのです」
そう、私が森で対峙したあの仮面の人物。
やはり奴は首都へと移動し、この惨状を作り上げた。
「そう。つまり、全部奴の手の上だったって事ね」
私達はそいつが立て篭もる議場のある建物を睨む。