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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
100/362

100 敗北

瞬間的に本能が警戒の声を上げる。

聖痕に魔力を流し身構えた直後、謎の人物の姿がブレた。

「っ!?」

咄嗟に右手に魔力障壁を展開して前に突き出し、ほぼ同時に衝撃音が響く。

十分に距離を取っていたはずが、全く姿を捉える事も出来ずに目の前まで接近されていた。

仮面の人物はいつの間にか剣を持っていて、それが展開した障壁と鬩ぎ合う。

(これなら!)

間髪入れず、左手に魔力を集めてそれを雷へと変換、ガラ空きの胴体目掛けてそれを放つ。

目にも留まらぬ雷光は、しかしそれをも上回る速さで障壁を蹴って距離を離した相手には触れる事無く宙を奔っていった。

「コイツっ!」

ヤツが体勢を整える前に、今度はこちらから一気に距離を詰める。

右手に炎を纏わせ、勢いに任せて振り抜く。

だけど、相手はこちらを見もせずに体を捻り躱し、その反動そのままに回し蹴りを放ってくる。

正確に頭を狙って来たそれを左腕で受け止め、お返しとばかりに私も右足を腹部に向けて突き出す。

それを左手で掴んで受け止めた相手の姿にまたしても嫌な予感を感じ取り、咄嗟に飛び上がって左足で今度こそ腹を蹴り飛ばし反動を使って距離を取り直す。

飛び退りながら相手を睨むと、やはり私が居た辺りに剣が振り下ろされていた。

立ち上がって態勢を整え直し、相手もゆっくりと剣を引き戻して半身で構える。

「素晴らしいな。女と侮る気も無いが、俺をここまで楽しませるとは思わなかったぞ」

無機質な仮面の下から愉快そうな声が響く。

「そう。生憎、私は微塵も楽しくないわ」

「それは失礼した。では、少し趣向を変えるとしよう」

徐に腰の辺りから何かを取り出し、それを宙に放る。

それは光を放つと砕け散り、周囲に何かを拡散していった。

「今のは、、、魔導具?」

「そうだ。さぁ、時間はまだある。楽しもう」

くつくつと低く笑うその声に呼応するかのように、遠くから幾つもの遠吠えが響き渡る。

「リターニア!」

「行って!」

ランデルの声に振り返らずに応え、彼らが走り去る音だけを聞き届ける。

「素早い判断だ。愚図共にしては悪くない」

随分上からの物言いを気にしつつも、私も寧ろ好機と口の端を持ち上げる。

「む?雰囲気が変わったか。ふ、つくづく面白い」

「余裕ぶってられるのも今の内よ」

すぅっと右腕を頭上に掲げる。

今から呼び出すのはリターニアとして生まれてから一度も使っていない奥の手。

私は目の前の相手にその切り札を切る。

天へと翳す右手に黒い炎が生み出され、それが瞬間的に広がってある形を象る。

私の背を超える程の長い柄、その先端に黒い炎が鋭利な刃を生み出していく。

炎が消え、刃が月明かりを反射して鈍い輝きを放ち、それを振り下ろして構える。

「鎌か。ククク、それが貴様の得物か!」

「悪いけど、これを出した以上確実に殺すわ」

両手で柄を握り、地面を蹴る。

身体強化された足が地面を爆ぜさせ、弾かれた様に飛び出した私が一瞬で相手に肉薄する。

その勢いのままに鎌を左肩目掛けて袈裟に振り下ろし、流石に危険と判断したのか相手が大きく身を引いてそれを躱す。

と、そのまま右手の剣を予備動作すら感じさせずに突き出してくる。

体を捻ってそれを躱し、お返しとばかりに鎌の柄の石突を顔目掛けて突き出す。

ここまで相手に見せない様に振るっていたけど、実は石突にも短い刃が付いている。

取り回しこそ難しいが、不意打ちで使うと小さくない傷を負わせられる、ちょっとした暗器のような物だ。

残念ながらコイツは肌が一切見えず、繰り出した突きも仮面に弾かれて滑ってしまったけど、それでも初めてまともに一撃を喰らわせてやった。

「フハハハハ!この俺に一撃を入れるか!」

なのに、目の前の人物は寧ろそれを嬉しそうに受け入れ高らかに嗤う。

その隙だらけな胴を薙ぐように鎌を揮い、いつの間にか左手に持ち替えていた剣で受け止められる。

力任せに押し切ろうとそのまま力をさらに込め、

「さすがに聖痕持ち同士では埒が明かんな」

「ならさっさと死んで」

身体強化を重ね掛けして剣ごと体を断ち切ってやろうと、、、

「なっ!?」

した瞬間、相手の姿が幻の様に掻き消える。

さっきまで確かにあった手応えが霧散し、気配すら無くなっていた。

「消えた?転移魔導具、、、じゃない。魔法を使った気配も無いし、聖痕の力?」

周囲の気配を探るけど、やはりもう欠片もアイツの存在を感じられない。

「、、、ランデル達は」

彼等の方に気を向けた次の瞬間だった。

「ッ!?」

背後から衝撃が貫き、次いで腹部から熱が溢れる。

下を見ると、お腹から血に濡れた剣が突き出していた。

「なっ、、、どう、して、、、」

「手の内を明かすとでも?」

ズルリと剣が引き抜かれ、腹部と背中から血が溢れ出す。

鎌を支えに何とか倒れない様に体を支え、後ろを振り返る。

そこにはやはり誰の姿も無く、ただ声だけが響いた。

「内臓は避けてある。貴様を殺すのは惜しいからな、今度私の前に現れたならその時は女の悦びを教えてやる」

それを最後に何かが遠ざかる気配を感じ、そこで私は崩れる様に自らの血の中に倒れ込んだ。

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