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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第一章 フェオール王国逃亡記
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10 思わぬ再会

(はあああああやっちまったああああああ!)

草原を歩きながら私は頭を抱えていた。数時間前の事を思い出し、うんうん唸りながら何かから逃げるようにひたすら歩き続けている。

あの時、熊型魔物を咄嗟に倒し、さらには猪型魔物までも屠った。

偶然とはいえ人助けを二度もしてしまい激しい後悔と自己嫌悪に陥って、なんだか泣けてくる。

森の中で猪型魔物の咆哮が聞こえた時、反射的に左目で様子を確認してしまったのが失敗だった。馬車が追われているのが見えて、直後にハンター達と戦っていた熊型魔物が騒ぐものだから聖痕の力を()()使ってしまい、彼らに見つかる前に森を飛び出してしまった。

さらにはそこで馬車が危機的状況にあるのを目の当たりにしたものだから、加速して馬車に居た女性を助け出し、猪型魔物にまで力を使ってしまったのだ。そして、、、

(普段ならまだ良かったけど、今はマズいなぁ)

平常時ならこれだけ魔法を乱発しても問題はなかったけど、今は髪と瞳の色を変えるために常時魔力を消費し、さらには森を抜ける為に身体強化をも掛け続けた直後だった。

聖痕にしても、ちゃんと魔力を集めて使えばまだ問題なかった。2回目なんかはそうして正しい手順を踏んだけど、1回目はそれすらせずに魔法を放ってしまったのだ。しかも普通の魔法を強化してではなく、()()()()()()を。

そして最後は問い詰められる前に透明化の魔法まで使ってしまった。仕方なかったとはいえ、ゆっくりと魔力を回復できない現状では悪手以外の何物でもない。

身体強化はともかく、透明化や聖痕を直接使うのはしばらくやめた方がよさそうだ。最悪、ぶっ倒れる。

(最後の手段はあるけど、、、()()をやればそれこそ後には引けなくなるしなぁ)

なんて事をウダウダ考えてるうちに辺りは薄暗くなり、気が付けば私は目的地である港町に着いていた。


フェオールとエオローを繋ぐ唯一の港であるこの町は、両国が友好的である事から貿易と観光目的の人の移動が活発で王都に次ぐ規模のとても栄えた場所である。

それだけ人が多く行き交う場所でもあるけど、逆に言えばうまく人混みに紛れてしまえばそう目立たずに堂々と移動ができるのだ。

とりあえず疲れた体を休める為に宿を探す事にした。王都では警備の関係から宿で泊まる時は身分証の提示が必須だけど、ここでは多くの人が宿を求める事からそういう面倒な手続きは基本的にはない。貴族や要人が御用達の高級宿ともなればその限りではないけど、ごく普通の安宿ともなれば素通りで部屋まで案内されるし、宿の従業員や他の客と顔を合わせる事もほぼなかったりするので今の私にはそちらの方が有難い、、、手持ちのお金も節約しないとだしね。

というわけで私は今、大通りから外れたさらに奥にあるこじんまりとした宿でようやく一息ついているところなのである。

部屋数も10部屋程度で、今は半分ほどしか埋まっていないから理想的な状況だった。一つだけ不満があるとすれば、さすがにお風呂が付いていない事くらい。まぁかなり格安だし、あとでタオルで体を拭くとしよう、なんて考えながら今後の方策を練る。


まず、当初の目的であるエオロー行の船への密航。

これはやり方を考えないといけなくなった。先のトラブルのせいで魔力が足りなくなり、透明化の魔法が使えなくなってしまったのだ。ここで回復を待つにしても、恐らく3日から4日は掛かるだろう。あまり悠長に構えていてはいつ状況が変わるか分からないから、早く動くに越したことはないだろう。それこそ髪の色を誤魔化す魔法を解いてしまえば明日にも十分回復は見込めるけど、私の地の色である白銀の髪はただでさえ目立つし、何よりも後の事を考えて式典の日にあえて見せつけるように振舞ったため、そのまま出てしまえばその場で正体がバレてしまう可能性が高い。この魔法、大したことないように見えるけど地味に魔力の消費がキツイ。いっそ髪を切ろうかとも考えたが、ちゃんと処分をしないと一本程度ならまだしも、それこそ束で回収されてしまえばそこから魔導具で魔力の痕跡を追跡されてしまう恐れもある。この町なら海にバラまいてもいいけど、風で舞い散ってしまったり水分で纏まって浜辺にでも打ち上げられてしまったら、と考えると危険の方が大きい。

もう少し効率よく魔力を回す方法がないかを探すとして、じゃあ現状のまま船に潜り込む手段としては、やはり深夜に停泊中の船に潜り込むくらいか。もちろん警備はいるだろうけど、多少注意を引くだけなら適当な魔法でも放ってしまえばいいだろう。身体強化でササっと駆け抜けてしまえば数秒時間を稼げれば良い。

であれば次に問題なのは宿を出る時間。まさか夜中に出る訳にもいかないので、怪しまれない為に遅くとも昼過ぎにはここを出発しないといけない。夜までは町を見て回る事になるけど、あまり人目に付かない様にしたい。かと言ってコソコソしているとかえって怪しまれてしまう。それなりに自然に振舞わないといけない。とはいえ、少なくともこの町には今騎士団もそれ以外の追手の兆しもない。やはり東西の街道や王都内の捜索に手を回しているのだろう、ならこの好機を逃す手は無い。

方針が決まったなら今日はもう部屋でゆっくりしようと決め、ここに来るまでに買っておいた夕食を食べて束の間の休息に心と体を休めた。


翌日、昼頃まで部屋で寛いだ私は予定通り部屋を後にしようと受付へ向かった。特に話す事もないので最低限のやり取りで支払いを済ませ宿を出ようとして時だった。

「あ、お客さん!」

唐突に呼び止められて少しだけ警戒しながら振り返る。

「何か?」

「いえ、大した事じゃ無いんですけどね、実はお偉いさんから通達が来てましてね」

受付の人の言葉に思わず肩に力が入る。まさか私の正体がバレたかなんて色々と頭を巡らせていると、

「なんでも、今日この後王都から、、、」

後に続いたその言葉に、耳を疑った。


 ・・・あのバカ王子がこの町に来るですって!?・・・


宿を後にした私は即座に裏路地へと身を潜めた。

受付の人の話では、バカ王子は式典の騒ぎで旅立ちが一旦保留になり、消えた聖女の捜索を指揮しているそうだ。そんな中、王子の婚約者であるご令嬢が療養の為この町へ向かう途中で馬車の事故に遭い、その付き添いでここへやってくるという話だった。

それを聞いて、もう頭の中はイヤな予感以外入る余地が無かった。

(いやいやいや、馬車の事故に遭ったご令嬢って間違いなくあの人じゃない!)

昨日、偶然助けてしまった女性の事を思い出してまたしても頭を抱える事となった。加えて、恐らくあの後駆けつけたのであろうバカ王子ことレオーネ。アイツから散々婚約者の話は聞かされてはいたけど、まさかこんな形で出会う事になるなんて思いもしなかった!

なんて事を考えつつ辺りを見回して、ふと目に入ったのは。

(あれは、、、時計塔ね。しかもあの場所なら町の中心からそれなりに離れてる)

路地裏を駆け抜けて町外れにある時計塔を目指す。幸い、人目に付く事無く時計塔の下に辿り着き、もう一度辺りを見回す。ここは住宅地からも離れているらしく、開けてはいるものの人影は全く無く、時計塔の入り口にも誰も居なかった。素早く入口に近づいてそっとドアを押してみると、特に鍵も掛かっておらずすんなり中に入る事が出来た。

中は薄暗いけど、少しして目が慣れると時計を動かす歯車やらが見え、それを囲むように螺旋階段が上まで伸びていた。それを登っていくと、やがて外へ通じているのだろう小さなドアに行き付く。

それをそっと開くと、一気に光が差し込み目が眩む。少しだけ目を閉じてゆっくりと開くと。

「うわぁ、いい景色、、、」

思わず見惚れてしまったその光景に、言葉が零れる。

(っと、今はそれどころじゃないってば!)

慌てて気を取り直して身を屈め、それから改めて町の入り口の方をそっと覗き見る。

さすがに建物が幾つも折り重なっているせいでしっかりとは見えないけど、どうやら何かしらの行列がちょうど入ってきたところらしい、微かな隙間から人と馬車らしき物が動いてるのが辛うじて見える。

しばらく様子を見ていると、やがてその行列は町の中心へ、そしてそこからさらに進んで町の領主である貴族の館の方へと進んでいった。

その館は目の前に噴水があって周囲が開けている上、私の居る時計塔からだとちょうど遮蔽物がないのでよく見渡す事が出来た。

そこに数台の馬車がやってきて、その中でも一際豪勢な馬車が館の正面に止まった。噴水の周りには騎士団らしき甲冑を身に着けた人影が並んでいてそれ以外の人は見えない。恐らく噴水周辺は立ち入りが禁止されているのだろう。だけど、ここからでもそこが騒めきに包まれているのが聞こえる。その声が一層大きくなり、

「お久しぶりね、バカ王子」

馬車から金髪の男が降り立ち、馬車の中へ手を差し出す。その手がゆっくりと引かれて、続いてピンクの髪が日の光を受けながら姿を現した。

二人は寄り添うように館の中へと入っていき、あとに続くように警戒に当たっていた騎士達が館へと入っていく。

それを確認した私は身を潜め、少し赤らみ始めた空を見上げた。

(とりあえず暗くなるまで待とうかな。でも、この状況じゃ船に潜り込むのは厳しいかも。迂闊に騒ぎを起こしたら最悪出航が止められるかもしれないわね。あるいは、もう止められてる可能性も、、、)

どうも上手くいかないなぁ、なんてぼやきつつ次の策を練る。西の街道は封鎖されているし、南はタイミングが悪すぎる、なら次は、、、

「東か、あるいは北か、、、そっちは最後の手にしときたいなぁ」


 ・・・もしくは、()()()()()()全てを投げ出してしまうか・・・


それだけは極力避けたいなぁ、と思いつつ少しだけ目を閉じて体を丸めた。

おかげさまで少しづつ読者さんが増えているようで、大変ありがたいです!

長く楽しんでいただけるようこれからも頑張って参ります!

ちなみに、次回は少々短めです。その代わり少しだけ需要な回となりますので、

お楽しみに!

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