一章二節 終わりの始まり
私も魔法使いになりたい
ウィザード科の生徒たちは、アルフォンス教授が召喚したある一人の天使についての説明を聞いていた。
……いやあまり聞いていないようだ。
耳障りなほど五月蠅い。
夏に鳴く蝉の様に。
「皆さ~ん!折角私が苦手な召喚をしたのですから、ちゃんと授業を聞きなさいー!」
広い教室の中、教授の叫びが虚しく響いていく。
それを聞いた生徒たちは、教授の叫びに「ある程度の必死さ」を感じ取り静かになっていった。
生徒たちは教授の授業を妨害しようと思っていた訳ではないのだろう。
ただ、呼び出した天使がよく知っている、見慣れている精霊だったからであろう。
「コホン。それでは説明の続きをします。この情け容赦の無い怒れる神の御使いは、地獄において罪人もとい、地獄に落ちた堕天使たちの管理をしています。また、彼の属性は火属性であり、彼の中心部分も熱い炎でできています」
その天使は長く光り輝く美しい髪を手で梳き、教授の説明に合わせて頷いていた。
彼は背中に白く輝く翼を生やしていて、手に棘が付いた鞭を持っていた。
しかし、教室の後ろから二番目に座っていたヘレナはその姿を見ながら、退屈そうにそれを聞いていた。
なにせ彼女がこの学校に来て初めて召喚し、ほとんど家族同然の様に接していた精霊だったからだ。
「じゃー、ヘレナ!こっちに来て、この天使の苦手な物を召喚してみなさい!」
誰に質問を投げかけようか考えていたアルフォンス教授は退屈そうに聞いていたヘレナを指した。
「はい、教授」
ヘレナは立ち上がって召喚された天使のそばまで歩いて行った。
「死肉を貪り、呪いをまき散らす巨虫……出でよ!ミートワーム!」
簡易的な召喚印から大量に湧いてきたきた大きな芋虫達は、自分の髪の毛先を見ていた天使に飛びかかった。
「うわ!ヘレナ!その虫を早く踏み潰してください!」
「嫌よ、だって教授が出せって言ったから」
「……アルフォンス。何とかしろ」
天使の顔が怒りでグラグラと赤くなっていった。
お湯でもつくれそうな熱さである。
「分かりました……。ヘレナ~、もう良いわよ~」
「……教授の意気地なし。失せろ、ミートワーム」
天使の前で蠢いていた虫達は、微かな硫黄臭を残して消えた。
ヘレナは、しかめっ面な天使の顔を見てこう言い放った。
「エズラエル、いい加減ミートワームに慣れなさいよ。あなたの管轄の子でしょ?」
「それもそうですが、やっぱり慣れないんです。あいつらは罪人が扱うべき存在です」
「またそうやって、頑固だからあたしの守護霊にさせられたんでしょ?あたしが言える事じゃ無いけど、もう少し柔軟になりなさい」
「それは無理な話ですね。私は生まれ持ってこの性格なので」
「あら~?主人にそんな口聞いていいの~?死肉を貪り……」
「やめてください!今度は許しませんよ!」
この会話を聞いていたアルフォンス教授は我慢が出来ずに言葉を発した。
「もう!授業の邪魔をしないで下さい!エズラエルさんは、ヘレナの事は一旦無視して下さい!もう!ヘレナは席に戻りなさい!」
「「はい……」」
「はい、はい、授業に戻りますよー。えーっと、か、彼は罪人の処罰をしています。彼は地獄に落ちて来た魂に容赦ない罰を与えます。例えばさっきヘレナが出してくれたミートワームを嗾け、永遠に消えない炎で焼き続けます……」
おえー。
それじゃあ、罪人を穴だらけにしてバーベキューするようなものではないか。
そんな事をしていたのかエズラエル。
見損なったぞ。
言っていなかったが、こいつとは旧知の仲である。
まだ若い時、一緒に旅に行ったりしていた。
懐かしい話だ。
しかし、バーベキューか。
我が、バーベキューをやったのはいつだったか……。
おい、弟子!
それ以上後ろに動くな、我が落ちるだろ……うにゃにゃっ!!
ハリーポッターだと、日本にも魔法学校があるそうです