第94話 謝罪とお願い
【中二病】会得の条件の1つであるアニメを好きにさせる作戦を立てるために、浦添城に戻ってナビーと話し合うことになった。
「この世界の人たちはアニメなんて見たことないから、何を見せても興味持ってくれるはずよ。私もそうだったからよ」
「ナビーくらい好きになられたら困るけどな。まあ、琉美の時みたいに苦戦しなければいいけど」
「やしがよ、このスマホだけで150人にアニメ見せるのって、でーじ大変じゃないか。ちゃーすがやー?」
確かに好きにさせる作戦を考える前に、視聴スケジュールを組まないといけない。
スマホで1度に視聴できる人数は、せいぜい6人といったところか?
単純に割っても1話あたり25回。1期25話分をかけたら625話分になってしまう。
「いや、待てよ。アニメ好きにさせればいいだけだから、なにも、1期分全話見せる必要ないぞ。序盤の盛り上がる手前のところで一旦視聴を止めて、どうしても先を観たいと強く思わせる。皆の様子をうかがいながら我慢の限界が来そうな所で視聴を再開させる。もうその時点でアニメ好きになったも同然じゃないか?」
「でーじ鬼やっさー! 琉美にドSドS言うけどシバも負けてないねー。私がそんなことされたら暴れるかもしれないさー」
ナビーはそのあとも俺の性格がひん曲がっているだとか、やなじんぶん使わせたら右に出るものがいない、などの罵声を浴びせてきたが作戦には賛同した。
なんだかんだ、浦添軍総中二病化を1番楽しみにしているのはナビーなのだ。
次の日から修行と同時進行でアニメ視聴を開始した。
初めて見るスマートフォンに映るアニメに興味を持たないはずもなく、全員が食い気味に画面をのぞいていた。
ひとつ誤算だったのが、黄金勾玉の翻訳機能がないと内容を理解できないので、俺かナビーが近くにいなければいけなかったことだ。
しかし、ナビーは喜んで全体の8割ほどに付き添って視聴していた。
一生見ることができないと思っていたアニメを、もう一度見られることになった反動でアニメへの視聴欲が爆発しているのかもしれない。
……これで一緒に帰りたくなってくれるならいいのかな?
中二病化作戦を実行して2カ月が過ぎようとしていた。
スマホの充電の関係で全員が序盤の盛り上がる手前まで見るのにこの期間かかってしまったが、みんな俺の狙い通り続きが気になりすぎてしょうがないみたいだった。
しかし、剣のキーホルダー作成のためにナビーが尚忠王に頼んだ鉄の使用許可はもらえていない。
尚巴志王の時代に、余っていた武器を集めて農具などの生活に関わる物に変えたことが、今の時代で武器不足になってしまったので、鉄は武器用で保管しているとのことだ。
戦の時代には鉄は貴重なので、今はあきらめるしかなかった。
今朝も日課の畑仕事に向かおうとしていると、突然、尚忠王が1人で浦添城にやってきた。
俺とナビーと浦チンは驚きつつ、急いで城に迎え入れて話を聞くことにした。
「尚忠王、お1人でどうしたのですか?」
「浦添按司……いや、シバに謝罪とお願いがあって参った」
「俺に? そんなかしこまって言われたら怖いですよ。一体何のことですか?」
尚忠王の神妙な面持ちをみるに大事なのかもしれないと、緊張感をもって受け入れる心構えをした。
「謝罪の前にお礼から言わせてもらおうか。手つかずだった浦添を、こんな短期間でここまで整えてくれてにふぇーでーびる」
「いいえ。まだ、礼を言われるほど成果は出ていませんよ」
尚忠王ではなく浦チンの声が響いた。
「何をおっしゃいますか! いつ崩壊してもおかしくなかった浦添城をここまで建て直したことは誇るべきものですよ! はる仕事が整備されたおかげで、翌日の食事の不安があったことが嘘のように毎日お腹を満たせています。それに、軍を強化したおかげで城や部落で安心して暮らすことができているのですよ!」
「浦添ペーチンの言う通りだ。やしが、シバに謝りに来たのだが、同時に浦添の民にも謝罪が必要みたいだな」
「それってどういうことですか?」
「なかば強制的にシバを浦添按司に任命した手前で言いにくいのだが、シバたちには前のように琉球の苦戦している地域への加勢に戻ってほしいのだよ。こちらの都合で振り回してわっさいびーん!」
頭を下げる尚忠王に対して珍しくナビーが声を荒らげた。
「いくら何でも勝手すぎないか!? シバと琉美は琉球王国に従う必要がない事を忘れていないねー!?」
「ナビー! 怒ってくれるのは嬉しいけど少し落ち着いて。まずは理由を聞いてからでもいいんじゃないか?」
ナビーは納得していないみたいで、ムッとした表情になっている。
尚忠王は礼と詫びを含めたお辞儀をして理由を語り始めた。
「うんじゅなーなら感じているだろうが、最近のマジムン軍は明らかにちゅーばーになっている。それに伴って苦戦している地区からの首里への応援要請が毎日のように来て対応できていないのだよ。うんじゅなーの存在が大きいことを改めて感じているところだ」
正直に言うと、浦添軍の強化が順調なおかげで、マジムン軍が強くなっていても気になっていなかった。
しかし、今の話で琉球全体の事を考えれば非常事態なのだと気づかされた。
「浦添按司としてやりたいことがまだあったんですけど、そういう事情なら仕方ないですね。それに、尚巴志前王から任されていた大和の事も直ぐに解決したから、浦添に執着する理由もないですしね。ナビーも納得しただろ?」
「……2カ月。条件として、あと2カ月はシバを浦添按司のままにしてほしい。それと、鉄の使用許可。その間は私と白虎で各地の応援に行く。それならいいよね?」
ナビーは鋭い眼光を尚忠王に向けている。
「わかやびたん。これ以上何か要望を出せば本気で嫌われそうだから、ナビーの条件をすべて飲むことにする。だから、もうわじらんでくれ。前にも言ったが、琉球にはうんじゅなーの力が必要なのだ。これからもゆたしくうにげーさびら!」
深く頭を垂れる王をみると、心の底から力になってあげたいと思ってしまう。
ナビーは何も言わずにどこかに行こうとした。
「ナビーどこ行くんだ?」
「2カ月しかないから急がんと。鍛冶屋に剣のキーホルダー作ってもらいに行かないといけないさー」
元の表情に戻ったナビーに安堵した俺と尚忠王は、お互いうなずき合って別れた。
そのあとも、尚忠王と浦チンは今後の浦添城の運営について話し合いをしたようだ。
尚忠王と別れて直ぐに鍛冶屋の下地さんに会いに行った。
「下地さん。武器用の鉄の使用許可を尚忠王からもらいましたので、前に依頼した小さい剣を作って下さい」
「よく許可が下りましたね。わんも作りたくてうずうずしていたのでうれしいですよ。剣を模した物にヒモが付いていることが肝心なのですよね? どうにかやってみるので期待して待っていてください。でき次第お送りしますので」
「送らないでいいです。でき次第報告だけしてください。そしたら兵士を向かわせますので、そのまま下地さんが売ってくれると助かります」
「そんなことできませんよ! わんねー、国からくるがにを預かっているだけですし、給料ももらっていますので、按司の依頼を利用して商売だなんてとんでもないさー!」
そんなこと言われても、【中二病】取得の条件が剣のキーホルダーを購入しなければいけないので、できたものを配るわけにはいかないのだ。
「説明しにくいのですが、どうしてもお金を払って買わせないと意味がないんです。ここは何も言わずにお金を取ってもらえませんか?」
「まっ、そ、そこまで言うのでしたら。按司の命令ですしねー」
あれだけ拒否していたことが嘘のようにすんなり受け入れて、思わず出てしまう笑顔を隠すのに必死になっていた。
……まあ、極端に拒否されるよりはよかったかな。
次の日から1日2~3本の剣のキーホルダーの完成報告が鍛冶屋から来るたび、強制的に兵士を買わせに行かせた。
冷静に考えると、剣のキーホルダーを強制的に買わせることは悪徳宗教並みのヤバさを感じたが、下地さんの腕が良く完成度が高かったおかげで皆満足していることが救いだ。
約2カ月で150人全員が剣のキーホルダーを購入できたが、すでに浦添按司解任の日になっていた。




