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チャンプルーファンタジー  作者: 新里胡差
琉球 按司代行編
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第93話 めざせ中二病(再)

「重要な仕事? ナビーはこの老体に何させようとしているのか?」


「向こうの世界には、石敢當いしがんとうっていうマジムン(魔物)除けの石板がいたるところに設置されているわけよ。それのおかげでマジムンの被害がほとんどなく日常生活ができているんだけど、それをこの世界でもできないかねーって考えているわけさー」


 カマドおばーは眉間にしわを寄せながら独り言でブツブツ言い始めた。頭の中で情報を整理している様だ。


「その石なんとかは、どれくらいの効き目があるのか?」


「向こうの世界では、よーばー(弱い)いちむし(生き物)のマジムンに効果があったさー。わかりやすく言えば、グナァウニ(小鬼)の半分くらいの強さだと消滅するくらいかねー?」


 ナビーは俺に同意を求めてきたので、自分の感覚をカマドおばーに伝えることにした。


「向こうの世界では石敢當いしがんとうのおかげで弱いマジムンを見る機会が少なかったので、どの強さまでに効果があるかはっきりしないんですよ。それでも、石敢當があれば各地の村に現れるマジムンくらいなら消滅するか弱体化はすると思います」


 カマドおばーはもう一度、1人の世界に入って戻ってきた。


「石なんとか、ちびらーさん(すばらしい)! ナビーはわったー(私たち)にそれを各村に設置してほしいのだな? やしが(だけど)、そのものは準備できるのか?」


 たしかに、石敢當をこの世界で準備できる気がしない。

 沖縄では綺麗な石版に石敢當と掘られたものがホームセンターで普通に売られていて簡単に入手できる。

 しかし、ホームセンターはないので作るしかないが、石敢當って自分で作れるのか?


「石は現地調達で、作るのは3人でやってちょうだい」


 琉美が驚いて声を上げた。


「ちょっと待って!? 私たちが石敢當なんて作れないよ! あれって機械で石を切ったり文字を掘ったりしているんだよ。この世界では作れないんじゃ……」


ばんない(たくさん)の石敢當を見てきて思ったんだけど、まぎー(大きい)からぐなぁ(小さい)までいろんな種類の石があったから石自体は何でもいいと思うわけよ。ただ、理由はわからないけど、石敢當って文字に魔除けの力があると思うから、ちょうどいい石にユタとノロのセジ(霊力)を籠めて石敢當って書いてくれるだけで問題ないさー」


「よかった。それでいいなら修行しながらでも簡単にできるよ」


 思い返してみれば、御影石みかげいしや石灰岩の高価なものや手作り感満載なコンクリートで作られたものまで色々あったが、共通点は石に石敢當と書かれていたことだ。

 それにユタであるカマドおばーとチヨやノロである琉美がセジを籠めたら効果がないわけがない。


 カマドおばーは弟子のチヨに、適当な石を拾いに行かせてナビーに渡した。


「まずはあんたがたが作って手本を見せなさい。わったー(私たち)はどういう物かわからんからよ」


 急いで侍女に筆を用意させ、ナビーに握らせた。

 思惑通りに石敢當が完成してくれと願いながら、石を睨んで固まっているナビーを皆で見守っていた。


「……いしがんとうの漢字が書けないやっさー。シバ、書いてちょうだい」


「お、俺も書けません……琉美は?」


「私も……」


 カマドおばーに思いっきり背中を叩かれた。


いったー(お前たち)よ! ちゃーすがやー(どうするのか)?」


 俺とナビーは動揺していたが、琉美は冷静だった。


「大丈夫、こんな時のスマホでしょ!」


『あ!』


 それから、ナビーはスマホを見ながら石に石敢當と書くと見事に石敢當が完成した。

 しかし、ナビーの額には汗がにじみ出ていた。


でーじ(とても)セジ持っていかれたやっさー。修行しながらってことを考えると、琉美でも1日4個から5個が限界じゃないかねー?」


 カマドおばーはできたての石敢當を手に持ち、じっくり観察した。


「半永久的な力が宿っとるな。その分、ばんない(たくさん)セジが必要なのかもしれないさー。普通のノロやユタなら1日1個作るのがやっとじゃないかねー。安全に旅ができることを考慮すると、わん()は2個、チヨは1個が限界さー」


「十分ありがたいさー。1日に7個は作れるのなら思ったよりも早く広げられそうだねー」


「ふん! 人に任せといて簡単に言わんけー(言うな)! もうここに用はないから、わったー(私たち)は戻るぞ。用があるなら早く済ませなさい」


 カマドおばーはさっさと外に出てしまい、チヨも申し訳なさそうに会釈してついて行った。


 残された琉美は一人笑っていた。


「ふっ! 私たちだけの時間を作ってくれたんだね。カマドおばーってああ見えて優しいところあるから。そういえば、浦添うらそえの生活はどんな感じ?」


「んー、今のところマジムンはあんまり襲ってこないから、畑仕事と軍の強化で忙しいかな。琉美はどんな修行をしているんだ?」


「まだ修行という修行はやっていないよ。ティンサグ(ホウセンカ)モード教えてって言ったらだめって言われちゃって。ナビーみたいにかっこよく戦えると思ったんだけど私には向いていないって言われたの」


 ナビーは真面目に理由を答えた。


ティンサグ(ホウセンカ)モードは戦闘能力が何倍にもなる代わりに、SPだけじゃなくHPも消費する諸刃の剣だわけよ。琉美は特殊能力【ドS】のせいで守備関係が低いから、ちょっとでも攻撃を食らったら大変なことになる。だから私もカマドおばーも教えなかったんだよ」


「そうなんだ。ナビーは今まで私にあったやり方を考えてくれていたんだね。でも、もっと早くに教えてくれても良かったんじゃない?」


 ナビーの表情に焦りが見えた。


 そもそも、ナビーは俺たちがここまで戦うことを想定していなかったので、伝える必要がないと思っていたのだろう。

 伝える必要がないと思ったとそのまま口にすれば、真剣に悩んでいる琉美に申し訳ないと考えてしまい言葉を詰まらせていると予想できてしまった。


「あれだろ。まさか、琉美がティンサグ(ホウセンカ)モードで戦いたいって言うと思わなかったんだよな? そもそも、初めはヒーラーとして仲間になったんだし」


 ナビーは安心したようにうなずいている。

 琉美は納得してくれたようだ。


「それもそうだね。【ドS】のせいで変に攻撃力とドSPが高くなったのが悪いんだよなー。それはそうと、花香ねーねーのメッセージにあったアニメの事なんだけど、浦添うらそえの兵にそのアニメを見せるのはどうかな?」


「アニメ? まあ、娯楽で息抜きさせるのもいいかもしれないねー」


「そうじゃなくて。私が言いたいのは、浦添の兵を私にやったみたいに【中二病】にできないかってこと! あっ、でも剣のキーホルダーを買わなければいけないから無理か……ごめん、今のは忘れて」


「おおおおおおおおおおお! 琉美、でーじやっさー(大変だ)! うすまさ(とても)天才やっさー!」


 ナビーは興奮して琉美に抱き着いた。

 俺は浦添軍が中二病の軍になった時の事を想像して震えてた。


「なんでそんな恐ろしい発想ができるんだ? 琉美はどこまでもドSなんだな。敵じゃなくてよかったよ」


「2人ともめんどくさいよ! でも、剣のキーホルダーも用意できそうってことか。それじゃあ、後の事は2人に任せるね。私はもう行くからお互いちばっていくよ(頑張ろう)!」



 琉美たちと別れた後、直ぐに浦チンを呼んで腕のいい鍛冶屋かじやを紹介してもらった。


 教えてもらった場所に行くと、身長は低いがガッチリした体型のおじさんが刀を打っていた。


あきさみよー(驚いた)! しに(すごく)ドワーフふーじー(に似ている)やっさー!」


 ナビーのテンションがおかしくなっているので、俺が話を進めることにした。


「急に訪ねてすみません。浦添按司うらそえあじ柴引しばひきと申します」


わんねー(私は)下地しもじやいびん(です)。浦添按司がこんなところに何用ですか?」


「下地さんに作ってほしいものがあって来たのですが。こんな感じの小さな刀を作れませんか?」


 俺は持っている千代金丸ちよがねまる治金丸じがねまる北谷菜切ちゃたんナーチリーのキーホルダーを鍛冶屋に見てもらった。


「こんな何の役にも立たない物が必要なのですか? やしが(しかし)、こんなにぐなぁ(小さい)にもかかわらず精巧な作り……わんねー(私は)不器用なもんで作れるかわかりませんが、按司あじの頼みですのでやるだけやってみましょう」


「ありがとうございます。では、同じものを150個お願いします」


「150!? こんな物に貴重なくるがに()を使えませんよ。浦添按司に対して失礼ですが、尚忠しょうちゅう王の許可を取ってもらえませんかね?」


 俺はそこで山積みになっている鉄くずを指さして言った。


「あの鉄はダメなんですか?」


「このくるがに()は武器用なもんで。あっ! 不器用なわん()が武器用のくるがに()で刀を打つ……ぶっふっふ」


 おやじギャグで正気に戻ったナビーが説明してくれた。


くるがに()は農具に武器に鍋なんかにも必要なのに、どこも足りていないわけよ。一応、私が尚忠しょうちゅう王に頼めば許可してもらえるはずだから、キーホルダーは後回しにするしかないねー」


 そういう事情ならしょうがないので、後の事はナビーに任せることにした。

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