第91話 指導者
ナビーが渋い表情でシーサー兵を編成することの難しさを説明してくれた。
「シバは白虎に乗ってきたからわからないと思うけど、シーサーを乗りこなすのはでーじ難しいわけよ。最初は乗って走るだけでも大変なのに、乗りながら戦うのは何年も練習してやっとできることだから簡単じゃないわけさー」
「でも、尚巴志王の太陽丸は乗りやすかったけど?」
「太陽丸は人を乗せ慣れているし、私たちも乗り慣れているからね。シーサー兵40人となると、野生のシーサーを見つけて、防御突破の試練を受けて、それから乗る練習だから戦力になるまでいつになるかわからないさー」
今帰仁城の戦いで尚泰久が引き連れていたシーサー兵100は、歴戦の猛者だったようだ。
敵の義本はシーサー兵の強さを感じ取っていたから、今帰仁城をあきらめてでも撤退したのかもしれない。
「軍の強化を急がないといけない浦添では得策じゃないってことか。そういえば、防御突破の試練って初めて聞いたけど何をするんだ?」
「まず、人が乗れる大きさの野生のシーサーを探すさーね。そのシーサーの前に立って睨み続けると、魔よけの防御結界を張るからそれを攻撃して壊す。その時、絶対に結界だけを壊してシーサーには攻撃があたらないようにしないといけない。壊すことができたら指笛を鳴らして契約完了って手順なんだけど、この40人ではまだ結界を壊せないさー」
攻撃が強すぎてもシーサーを傷つけてしまい、なついてくれなくなる。弱すぎても認めてもらえない。
ある程度の力をもち、それを加減のできる器用さが必要のようだ。
難しいことを理解したが、最弱の浦添軍が琉球最強になるためにはどうしてもシーサー兵をあきらめることができなかった。
「今帰仁の戦いに参加した身からすると、シーサー兵は浦添の将来のためにも必要だと思うんだよなぁ。だから、この40人は即戦力にならなくてもシーサー兵になるための訓練をさせたいと思うけど、ナビー的にはどう思う?」
「110人の兵で戦うことになるから大変になるとは思うけど、私とシバでサポートしていけば何とかなるんじゃないかねー。シバの意見にしたがうさー」
決定したこれからの方向性を伝えると期待と不安が半々の様だったが、シーサー兵に割り当てられた40人は明らかに目が輝いていた。
それぞれのグループに修行メニューを用意して、直ぐに実行してもらうことになる。
何よりも先にやらなければならない事は、盾役40人にヒンプンシールドを覚えさせることなので、俺とナビーはひたすらヒンプンシールドを作って盾役に壊させることを数日繰り返した。
特殊能力【中二病】持ちだった俺のように簡単に取得できないので、時間をかけて入念にしなければならなかった。
それからさらに数週間かけて、40人全員にヒンプンシールドを覚えさせた。後はひたすら技を磨いてもらう。
これで戦に出ても大きな被害は出ないようになっているはずだ。
『はいさい! 中二按司!』
日課になっている早朝の畑仕事に行くと、はるさーと兵士たちの気持ちのいい声が響いた。
実は、攻撃専門の力自慢40人には、さらに力を付けさせるために鍬をもって畑をたがやさせている。
最初は【マージグクル】を持っていない人に畑を耕させるのは効率が悪いと、ナビーやはるさー達に反対されていた。ナビーに至っては、ふゆーさんけーとまで言いやがった。
しかし、反対をされても実行したのは、一石二鳥のいい作戦を思いついていたからだ。
硬い畑を耕すことで攻撃兵には力を付けてもらう。そして、耕されたことで柔らかくなった畑を、【マージグクル】持ちの俺とはるさー達がもう一度耕しなおせば、攻撃兵の強化とはるさーの負担軽減が同時に行うことができるのだった。
決して自分が楽できるからとかではない。
畑仕事が終わり、シーサー兵の修行をナビーと見に行くと、優等兵の30人も参加していた。
優等兵はオールマイティーに強くなって欲しかったので、別のグループの修行を1日交替でさせている。
軍のまとめ役に任命している阿波根が眉間にしわを寄せながら声をかけてきた。
「中二按司とナビーさんに相談があるのですが、どうやらシーサー兵たーは今の修行ではシーサーに乗る未来が見えなくて、やる気をなくしつつあるみたいさー。何か手を打たないと軍全体の士気にかかわると思うのでちゃーすがや?」
シーサー兵の修行は、正直何からさせればいいのかわからなかった。
最初はとりあえず攻撃力を付けさせるために畑仕事をさせようと思ったが、重い鍬を振り続ける力もなかったので自重筋トレと槍の素振りをさせていた。
しかし、そろそろシーサー兵らしい修行に取り掛からないと、モチベーションが持ちそうにないみたいだ。
今日の修行内容を悩んでいると、浦チンに案内されてケンボーがやってきた。
「シバ、ナビー、みーどぅさん! がんじゅうしてたか?」
ナビーが面倒くさそうに受け答えた。
「ケンボー、何しに来たわけ? 今忙しいから後にしなさい」
「何しにってどぅしに会いに来ることに理由はいらないさー。そうだよなシバ?」
「う、うん。でも、今はこれからの修行内容で困っているから終わってからでいいかな?」
「くくるぬどぅしよ、わんにその修行を手伝わせてくれ。浦添親雲上からシバがシーサー兵をつくろうとしていることを聞いて、シーサーに乗れるわんが役に立てると思って飛んできたさー」
浦チンは勝手なことしてすみませんと言っていたが、意外にもナビーが喜んでいた。
「やさやー! ケンボーに槍の使い方とシーサーの乗り方の指導を任せてもいいかもしれないさー。それに、誰よりも島中を回っているからシーサーの生息場所にも詳しいからよ」
「ナビーが言うなら任せても大丈夫……なのか?」
「ケンボーはふざけた奴だけど、修行は誰よりもまじめだからしわさんけー」
「おい! どぅーもふざけた奴のくせに何を言うか!」
ナビーとケンボーがいがみ合っている間に入って、正式にケンボーにシーサー兵の指導をお願いした。
「改めてケンボーさん。シーサー兵の指導をお願いしてもいいですか?」
「シバ! どぅしにさん付けさんけー! 直してくれたら喜んで力になってあげるさー」
「ケン、ボー」
「ふふ、シバ」
満面の笑みで手を握ってきたケンボーに、少し背筋が凍った。
とりあえず、つまらない修行が続いているせいで、シーサー兵のやる気がなくなっていることをケンボーに伝えておいた。
「それなら、修行の中でシーサーに乗せてあげればいいさー!」
「でも、みんなシーサーと契約もできていないんだよ」
「そうみたいだな……やさっ! 白虎に乗せてあげるのはどうか? あぬぐとぅ乗りやすいシーサーいないから、初心者にはいい練習になるかもしれないさー」
そういえば、俺と琉美は特に練習しなくても白虎に乗れた。白虎で感覚を掴ませるのはいい案かもしれない。
皆を乗せてあげるよう白虎にお願いすると、元気よくワンと答えてくれた。
ナビーにも了解をもらい、白虎をシーサー化させてケンボーにたくした。
ナビーが手を叩いて気持ちを切り替えさせる。
「ハイ! 細かいことは後にして、今日の修行を始めよーね! ケンボー。白虎に何かあったらたっぴらかすからな!」
「わかとーさ!」
1番の悩みどころだったシーサー兵の修行をケンボーに任せたので、俺とナビーで他のグループを入念に見てあげられる。
ナビーと盾役の修行場に向かおうとした時、浦チンが思い出したように声をかけてきた。
「中二按司に伝えなければならないことがあります! 先程、城壁内に不審物があったと報告を受けたのですがちゃーすがや?」




