第88話 交易再開
尚忠王の命令通り、大和の侍たちを浦添城へ丁重に案内することになった。黙ってついて行くしかない状況に、不安な表情をしている。
浦添城に到着すると、休む間もなく城内奥の侍たちをかくまっている建物の前に案内したとき、ちょうど尚忠王が到着した。
あごひげの侍は、尚忠王の前にひざまずき深く頭を垂れた。
「お初にお目にかかります。私はこの調査団を任されております、茂吉と申します」
「琉球王の尚忠だ。大和の者が無事に琉球に来られたこと、誠に嬉しく思う。長旅で疲れていると思うが、話を進めてよろしいかな?」
「是非ともお聞かせ願います!」
「まあ、とりあえず、保護している者たちと会いなさい。さあ、中に」
建物内に案内すると、それぞれ顔見知りの者が大勢いたようで、再開を喜び合っていた。
それに、保護されていた者たちが予想以上に元気だったのは、尚巴志がこの日のためを考えて、好待遇で受け入れていたからだろう。
大和の者たちが涙を流し合っている姿を眺めながら尚忠王がつぶやいた。
「わんにこんな真似ができただろうか……」
父である前王の偉大さを早くも感じてしまったのかもしれない。
しかし、尚忠王が良い王になることを俺たちは今帰仁城の戦いで知っている。
「尚忠王は王になる前から立派なお方でしたので大丈夫ですよ。それに、ティダヌティダをしている時なんか、まさに王って感じでしたし」
「シバに気をつかわせてしまったな。やしが、わんにはシバたちがいるから大丈夫さー。浦添按司代理、ちばりなさいね」
「はい。王の力になって見せます!」
しばらくすると、茂吉が目を潤しながら尚忠王の元に戻ってきた。
「お待たせしてすみませんでした」
「久しぶりなのだから構わないさ。では、聞きたいことは何かないか?」
「はい。これで、我々を襲ったのが琉球ではないことはわかりましたが、それでは一体、何者がやったというのですか?」
「琉球の征服をたくらむ源為朝という者が首謀者だ。こちらではマジムンと呼ばれている魔物の軍で各地の城を襲ってくるのだ」
「源為朝ですと!? そんなことはありえませぬぞ!」
「ん! どういうことだ?」
「源為朝は200年以上も前に自害したと言われています。なにせ、伝説的な武人だったゆえ、大和では広く知られていることなのです」
茂吉は、死んでいるはずの源為朝が琉球を攻めてきているのはおかしいと言っている。
しかし、実際に源為朝と名乗る恐ろしいほど強いバケモノを目の当たりにしている俺たちは、事実を伝えているだけだ。
ナビーが為朝の特徴を茂吉に話した。
「為朝は人間とは思えないほどの体格で、得意武器は大きい弓みたいだねー。それに、いつも鬼のお面をかぶっているさー」
「大男で弓の使い手。それに鬼……確かに、大和に伝わる源為朝の特徴に合致しています。伝説では鬼ヶ島を支配したと言われているので、何か関係があるのかもしれませんね」
「面をかぶると鬼の力を使えるみたいだったさー。もしかして、鬼ヶ島で何かしらの力を得て、それが今になって開花したってことかねー?」
尚忠王はうなずいて茂吉に確認した。
「そうかもしれないが、真実は為朝しか知らないだろうな。茂吉は納得してくれたかな?」
「実際に見ておりませんので何とも……ですが、皆の無事を確認できたので、琉球側の言葉を信じることにしましょう」
「ご理解感謝する。おそらく為朝は、大和船襲撃を琉球のせいにして大和と琉球を戦わせる作戦だったのだろうと尚巴志前王は睨んでいた。争いを回避できたことに感謝して、今後の事は腰を据えて話し合いましょうか」
ここからは大切な話になるので、茂吉を正殿に案内して話を再開した。
「先程の話が本当なら、我ら大和は力をお貸ししなければいけませんね」
ここに居る300人の侍が仲間になるのならとても心強い戦力になる。
しかし、尚忠王は手をかざして首を横に振った。
「いいや。ありがたいお言葉だが、これは琉球の問題であるため、大和を巻き込むわけにはいかない」
「ですが、大和としても恩を返さないと面目が立たないのです。それに、やられた者たちの気も晴れません」
尚忠王は腕を組み、難しい顔をして悩みこんだ。
「琉球は大和との交易を早急に再開したいと思っている。その護衛をお願いすることで話をまとめてくれないか?」
「しかし、我々は琉球に渡るだけでこんなにも大変でした。いくら琉球に恩があれども交易再開は受け入れがたく思います」
尚忠王は立ち上がり、歩き回りながら話を続けた。
「琉球は明や朝鮮などの諸外国との交易は続いていたので、もともと大和に送るはずだった品物を保管しているのだ。交易が再開されなければ、自国で消費するか、大和以外の交易に利用させてもらうしかなくなるが、大和はそれでもよろしいのですか?」
茂吉は苦しそうな表情から一転、目を丸くして立ち上がった。
「待ってください! 大陸とはつながっていたのですか?」
「ええ。比較的に為朝軍の手薄な東海岸に着いた異国の者とは、勝連や中城で受け入れています。大和にも安全な航路を教えるので、どうか交易の再開を決断してもらえませんかね?」
異国と交易していたことは俺も初耳なので驚いた。
……そういえば、豚とかは明から渡ってきたって聞いたことがあったな。
茂吉は上の者に確認したくても連絡手段がないので、現場判断で決断しないといけない。
茂吉の判断次第でこれからの琉球と大和の関係が決まってくるので、すごく責任重大なのだ。
悩み抜いた末に茂吉は答えを出した。
「わかりました。交易再開で話を進めましょう。ですが、その品々と300人を乗せる船がありませんので、何度かに分けたいと思います。それまで厄介になると思いますが、引き続きよろしくお願いできますか?」
「それは構わない。こちらから2隻ほど船を用意するので使ってくれ。準備ができしだい連絡するので、数日ほどくつろいで下さい」
「ご厚意感謝します」
尚忠王が帰ると使いの者が首里城から派遣され、お互いの交易品の確認が始まった。
俺は元の世界に帰るので、会議に関わる必要はないと言われたが、尚忠王にお願いして味噌、醤油、鰹節、昆布を候補に入れてもらった。
これまでのあふぁい料理と違い、味のある食事を自分でつくることができるので、今からとても待ち遠しい。
後々のために味噌、醤油、鰹節の製造方法も教えてもらえることになったので安心だ。




