第85話 浦添按司代行
按司の威圧に全くひるんでいなかった天邪鬼が、あざ笑いながら北谷菜切を構えた。
……義本の北谷菜切を天邪鬼が受け継いだみたいだな。
「ふん。弱いやつらが威張っちゃってるよ。1人1人は大したことないくせに、群れれば勝てるとでも思っているのか? すぐにわからせてやるよ」
今にも襲い掛かりそうな天邪鬼だったが、後ろから舜天に頭を叩かれている。
「痛い! 何するんですか舜天先輩!?」
「馬鹿者が! 3将軍のくせにあれの脅威を測れないのか? 上を見ろ」
舜天が指し示す琉球軍の上空には、ティーダボールの何十倍もの火の玉が浮かんでいた。
その真下には尚忠王が刀をその火の玉に掲げている。
唖然としていると、ナビーがポツリとつぶやいた。
「ティダヌティダ……初めて見たやっさー」
「ナビーでも見たことがないのか? この感じだと、すごい技なんだろ?」
「按司が10人以上いて初めてできる、王にしかできない技さー」
按司が10人以上いて王が戦う場面が珍しい事なので、ナビーでも見たことない技なのだろう。
尚忠王は舜天と天邪鬼に向かって啖呵を切った。
「琉球のてぃだを甘く見ると痛い目にあうぞ!」
舜天はまだ納得していない天邪鬼を説得し始めた。
「為朝様ならまだしも、我らではまだ、あれをしのぐ術は持ち合わせてはおらん。今は引くぞ」
「わかりましたよ先輩」
2人はあっという間に消え去ってしまう。
尚忠王はティダヌティダを解除すると、勝鬨を促した。
「首里城防衛戦、琉球の勝利だ!」
『うをおおおおおおおお!』
王と按司のオーラに圧倒されて立ち尽くしていると、尚忠王が俺たちの所に歩いてきた。
「みんな無事で良かったさー」
「本当は俺たちだけで止められたら良かったんですが……助かりました」
「うんじゅなーのおかげで、無事に尚巴志王を弔うことができた。助かったのはわったーのほうやんどー。それに、この規模の戦で首里軍の負傷者がこんなにも少ないのは、うすまさじょーとーさー。にふぇーでーびたん」
礼をしてくれた尚忠王は、唐突に俺の腕をつかんで頭上にあげると、皆を注目させた。
「聞け! 戦を仕切り、3将軍と直接対峙した柴引子守を浦添按司代理に任命する! 異論はあるか!?」
『……』
「では、なまからシバのことは、浦添の按司として認識しなさい!」
『うをおおおおおおおおおおお!』
……俺が按司代理? 今の光景を見せられると重圧を感じるな。
断りたい気持ちはあったが、尚忠王が皆の前で任命してくれた手前、言い出すことができない。
それに、今帰仁城奪還の際の恩を返す絶好のチャンスなのかもしれないと思った。
「承りました。王の力になって見せます」
「ゆたしくうにげーさびら」
兵士たちの歓声の中、不安とプレッシャーで押しつぶされそうになりながら家に帰る。
居間に座って少しボケっとしていると、ナビーが笑いながら話しかけてきた。
「まさか、シバが按司になるとはなー。引きこもりだったのにでーじ出世したさー」
「引きこもり言うな! それよりも、俺じゃなくてナビーの方が按司にふさわしくないか?」
「琉球では上に立つものはいきがで、それを支えるのがいなぐっていうのが基本だから、私はできないわけよ。やしが、シバが按司になったらどんななるか楽しみやっさー」
その時、戸を開ける音がして振り向くと、護佐丸が玄関に入ってきた。
「わんも楽しみやっさー!」
「護佐丸さん!? どうしてくまーに?」
「按司のしーじゃとして、激励と助言をと思ってね。シバ、按司就任おめでとう」
「わざわざ、ありがとうございます……ですが、俺なんかが按司になってもいいのですかね?」
護佐丸は近づいてくると、俺の背中をズシリと叩いてきた。
「シバなら大丈夫さー! 浦添按司になれば、尚巴志王から任されていたこともやりやすいのだろう? それに、戦に関しては申し分ないからな」
「それならいいのですが……でも、護佐丸さんに言われたら、大丈夫な気がしてきました」
だいぶ気が楽になったと思ったが、ナビーが横から不安になることを言ってきた。
「やしが、按司はちゅーばーならいいってわけでもないよ。領主として民の生活の事を考えたり、外の国々との交流もやらないといけないからでーじ大変なんだよ」
「え!?」
「ナビー! そういうのは、落ち着いてからにしなさい! シバが動揺しているさー」
今になって気が付いた。
しかし、領主というものはそういうものだ。
「護佐丸さん大丈夫よ! オタクは領地開拓がなぜか得意だから、シバならどうにかしてくれるさー」
……ナビーはラノベ原作アニメも好きだったからな。
「オタクとは何のことかは知らないが、ナビーがそう言うのなら大丈夫なのだろうな。まあ、何かあったらわんが助言をするからしわさんけー。気楽にやりなさい」
「いつも気にかけて下さってありがとうございます。護佐丸さんも加勢が必要なら俺を頼って下さいね」
「そのつもりさー。では、わんは急いで戻らないといけないからもう行く。琉美にもゆたしく言っておいてくれ」
護佐丸に言われて初めて琉美がいないことに気が付いた。それほど俺は動揺していたようだ。
護佐丸を見送り、ナビーに琉美のことをきいてみることにした。
「琉美はどこに行ったんだ?」
「なんか、カマドおばーに用があるから遅くなるって言っていたさー。私も少し行きたい場所があるからあちゃーの引っ越しする準備しておいてちょうだい」
「そういえば、按司になるんだから、浦添城で暮らすことになるのか。荷物は全部持っていくのか?」
「首里と浦添はいつでも行き来できる距離だから、必要最低限の物だけ持っていこうね。じゃあ、ゆたしく」
ナビーは白虎を連れてどこかに行ってしまった。
俺は1人で荷物をまとめながら、1年間お世話になったこの家の大掃除を始めた。
最近は各地の応援で忙しかったのでただ眠るだけの場所になっていたが、この世界で唯一の落ち着ける場所だったので、離れるのは少し寂しい。
……やべっ。元引きこもりの症状じゃないよな?
掃除をしていると越来按司の尚泰久が激励に来てくれた。
直接話したことがなかった勝連按司の阿麻和利と一緒だ。
「シバさん。浦添按司就任おめでとうございます。シバさんが按司になって嬉しかったですよ!」
「泰久さん、わざわざありがとうございます。阿麻和利さんとはこうして話すのは初めてでしたね。えーっと、よろしくお願いします」
握手を求めたが手を取ってくれずに鋭い眼光を向けられた。
「琉球の者でないこんなやつに按司を任すとは、尚忠王は何を考えているのだ。按司がどれだけてーしちな役職かわかっているだろうに」
「阿麻和利! いくらお前でもシバを馬鹿にすることは許さないよ! それに、王の決定に文句とは何事か!?」
「そうだね。僕が悪かった。シバさん、わっさいびーん。まあ、せいぜい琉球の足を引っ張らないでくださいね」
阿麻和利は嫌な態度だけを取って出て行った。
「シバさん、わっさいびーん。阿麻和利は自尊心が強いから、皆に称賛されているシバさんを敵対視しているのかもしれませんね。やしが、悪い人ではないということはわかってほしいです」
「気にしていないので大丈夫ですよ。俺自身も自分が按司にふさわしくないと思っているので。それに、この世界に来て1年のよそ者が按司になって、よく思わない人はこれからも出てくるでしょうし」
「共に戦えば、そんなことを考えもしないのですけどね。まあ、お互い若輩者どうしってことで、ちばっていきましょうね」
それから尚泰久は、しばしの雑談をして越来城に帰って行った。
そして、すれ違うように琉美が帰ってきた。
「ただいま。今のって泰久さんだよね?」
「うん。按司就任の激励に来てくれたんだ。護佐丸さんも来てたよ。琉美にゆたしくって」
「そうだったんだね……」
琉美の表情がいつもと違って強張っている感じがした。
「琉美? 顔色悪いけど、カマドおばーのところで何かあったのか?」
「ねえシバ……私の事どう思っている?」
……なんだこの質問は? なんて答えるのが正解なのかわからないぞ!




