第82話 薨去(こうきょ)
チヨは先に太陽丸で首里城に逃がしているようだが、ここには9人もの仲間がいる。
しかし、巨大シーサー化した白虎には全員で乗ることができたので、この場から逃げることができそうだ。
「逃がさんぞ!」
舜天は空中を浮遊しながら、白虎に乗った俺たちに襲い掛かってきた。
「わうーーーー!」
白虎は自ら咆哮波を放ち、舜天を為朝の立っている場所まで吹き飛ばしてくれた。
ウフウニマジムンくらいなら倒していそうな威力だが、舜天にはダメージを与えられていないようだ。
舜天はまたも向かって来ようとしていたが、為朝が後ろから肩を捕まえて制止させた。
「行かせてやれ。どうせ、尚巴志は死に、我らの勝利は決まったも同然だからな」
「為朝様がそうおっしゃるのなら……」
その時、気絶していた尚巴志が立ち上がり、仁王立ちで為朝を見下ろしながら啖呵を切った。
「ワシなんぞが死んでも、王という地位は国と共に次の世代に引き継がれ、存続し続ける。為朝、次世代の琉球を容易く奪えると思うなよ!」
尚巴志はそれだけ言うと、直ぐに気を失ってしまった。
「ふん。死にぞこないが」
為朝は鼻で笑うと、背中を向けて奥の正殿に歩いて行く。
舜天が最後までこちらを睨んでいたので、警戒しながら白虎に指示を出した。
「白虎、全速で首里城に向かってくれ!」
白虎が全速力で走ると、俺のセジがさらに吸われている感覚があった。
「ヤバイ! 俺のセジがだんだん減っている。白虎に吸われているみたいだから、この減り具合だと首里城までもたないかもしれない」
尚巴志の様子をうかがっていたナビーは、俺の言葉を聞いて焦り始めた。
「私たちは尚巴志王にセジをあげたから、シバに渡せる分はないさー。琉美はどれくらい残っているねー?」
首里城に向かいながら、佐司笠とカマドおばーによる最上級の回復を施して、何とか尚巴志の命を取り留めていた。
そのため、琉美のセジしか頼れるものがない。
「私も1割しか残ってないけど、とりあえずシバにあげればいいんだね」
琉美は俺の背中に手を当ててセジを送ってくれた。
一気にSPが全回復したので、首里城までは何とか持つかもしれない。
今の俺は、戦中にSPが切れることがないくらいセジが多くなっていたが、それを簡単に補えた琉美の成長ぶりが気になってしまった。
「そういえば、最近は聞いていなかったけど、最大ドSPってどれくらいになったんだ?」
「い、1万5千とちょっと……」
『ハァ!?』
全員が口を開けたまま琉美を見ている。
そして、カマドおばーが尚巴志のおでこをペチッと叩いた。
「あんたは寝てなさい!」
「つい、つられてな……」
回復が効いたようで、尚巴志も一緒にリアクションをしていたのだ。
尚巴志の無事を確認できて安心したからか、皆の顔に笑みがこぼれていた。
首里城に到着すると、直ぐに尚巴志を寝室に運び、更に治療を続けるとのことだ。
俺と琉美は少し休んでくるように言われたが、ナビーはもう少し見守ると言って尚巴志の元に残った。
家に帰ると、先に首里城に逃げていたチヨが玄関に座っていた。
俺たちを見て慌てて頭を下げている。
「すみません。勝手に上がらせてもらっています」
「チヨさん。無事だったみたいで良かった。でも、どうしてここに?」
顔を上げたチヨは、台所に置いてあるヒヌカンを見ながら言った。
「私があげたヒヌカン、飾ってくれて嬉しいです。ヒヌカンから力を感じ取れましたので、ここが皆さんの家だとわかりました」
琉美は居間にチヨを上がらせながらお礼をした。
「ヒヌカンありがとうね。安全祈願のために、戦いに行く前には必ずお祈りさせてもらっているよ!」
「ヒヌカンは竈の神とも呼ばれるって聞いたから俺も手を合わせたいのに、男はダメなんですよね? 竈は俺しか使わないのに」
チヨは座ると笑みを浮かべながら答えた。
「ナビーさんと琉美さんの2人が祈ってくれているのですから、問題ありません。きっと、皆さんを守ってくれると思います。それよりも、あの……」
急にしおらしくなったチヨの顔を見て、座喜味城で何があったのかを伝えていないことに気が付いた。
俺と琉美は簡潔に、首里城まで逃げ帰るまでの出来事をそのまま伝えた。
とりあえず、皆が帰ってこられたのだと知ってチヨは安心していた。
その時、カマドおばーが玄関に入ってきた。
「シバ、琉美。尚巴志王が2人と話がしたいと言ってたさー。へーく行ってあげなさい。わんとチヨはここで休ませてもらおうかねー」
付きっ切りで看病していたので疲れているのか、カマドおばーの表情に力がない。
尚巴志の様態を聞きたかったが行けば分かる事なので、カマドおばーには直ぐに休んでもらうことにした。
俺と琉美は急いで尚巴志の寝室に向かうと、仰向けで寝ている尚巴志の側に尚忠と佐司笠が立っていた。
ナビーはどこにも見当たらないので佐司笠に尋ねてみる。
「ナビーはいないのですか?」
「ナビーについて2人に頼みたいことがあるので、出て行ってもらったのじゃよ。さあ、たーりーの近くに寄って話を聞いてあげてちょうだい」
尚巴志は身体が動かないようで、目だけをこちらに向けていた。
この状況で何を頼まれるのか不安だったが、琉美とうなずき合って尚巴志に顔を近づけた。
「シバ、琉美、ワシの勝手な行動に巻き込んでしまったな。わっさいびーん。そして、もう一度この場に帰ってこられたのはうんじゅなーのおかげだ。にふぇーでーびたん」
この場の重い空気を換えるように、琉美が明るい声で答えた。
「尚巴志王が無事ならそれでいいですよ!」
「それなんだが、ワシの余命は数時間と言ったところらしいのだ。命がけで守ってくれたのにわっさいびーん」
「!? ケガも治ってセジも回復しているのに助からないのですか?」
「寿命を削る技を使った代償だからな。最初から覚悟を決めていたから悲しまないでくれ」
俺と琉美は何も言葉が出ない。
そして、尚巴志はそのまま本題を続けた。
「頼みというのは、シバと琉美が元の世界に帰る時が来たら、無理矢理にでもナビーを連れて行ってほしいのだよ」
まさかのお願いだったので、驚きながらも理由を聞いてみることにした。
「無理矢理って、どうしてですか?」
「琉球が為朝を倒したとしても、またいつ敵が現れるかわからない。それに、身内同士で争うこともあるかもしれない。ここは戦のはびこる世界だ。異世界から来たナビーにはこんな場所で人生を歩んでほしくないのだよ。これは、佐司笠や忠も同じ想いだ」
尚巴志たちはナビーの親代わりとして、赤ちゃんの頃からかわいがってきたので、本来戦わなくても良いナビーには元の世界に帰って平和に暮らしてほしいのだろう。
このことをナビーに知られたら、意地でもこの世界に残ると言いそうだ。
俺はナビーを連れて帰って、花香ねーねーや妹の愛海たちの喜ぶ顔が見たいとは思うが、無理矢理に連れて行くのはどうかと思った。
「すみませんが、無理矢理つれて行くことはしたくありません。本人がいないので正直に言いますが、一緒に帰りたい、連れ戻したいという思いで俺はこの世界に来ました。ですが、ナビーの考えや気持ちを無視をするのはよくないと思います」
「わ、私も同感です! ですが、あっちの世界では言いたくても言えなかった『同じ世界で生きて行こう』と、為朝を倒してから伝えるつもりです。それに答えてくれたら喜んで連れて行きますから!」
琉美も俺と同じ考えで安心したが、尚巴志は何を思っただろうか。
しばらく待っていると、目を閉じながら口を開いた。
「ワシらよりも、シバと琉美の方がナビーの事を考えてくれているのだな。もう、何も言うことはない。うんじゅなーに任せるので、思いのままにやりなさい。佐司笠、忠もそれでいいよな?」
佐司笠と尚忠はうなずき、俺と琉美をみてもう一度うなずいたのを見て、ナビーを任された気がした。
「これで思い残すことは……」
尚巴志は目を閉じてしまったが、まだ息はしているようだった。
佐司笠が残念そうに呟いた。
「やーにんじゅで看取りたかったんだがね……」
今から白虎に乗って行けば、連れてこられるのではと思ったので、家族がどこにいるのかきいてみることにした。
「俺と琉美が白虎に乗って皆さんを連れて来ます! どこに行けばいいのですか?」
尚忠が腕を組んで、難しそうに答えた。
「わんと佐司笠を除いても、他に7人のちょーでーが各地にいるのだが、任せても良いのかね?」
「ま、まかちょーけー!」
……尚巴志王、というか妃様、頑張ったんだな。
「2人で行っても警戒されるだろう。面識があるナビーも連れて行きなさい」
俺と琉美が寝室を出る時、後ろを向いていたナビーと護佐丸が立っていた。
話している時間も惜しいので、ナビーを引っ張りながら訳を話したが、表情が硬く感じた。
急いで白虎に乗り、琉球に散らばった王子たちを乗せて首里城に戻った。
そして、2時間後。
家族に囲まれながら、安らかな表情のまま息を引き取った。
琉球王国 初代国王 尚巴志 享年68。




