第81話 尚巴志と源為朝
尚巴志は、為朝に頭を下げた。
「為朝。鬼の力ではなく、お前本来の力で戦ってくれぬか? まさか、この老体に勝てぬわけでもないだろう?」
「よいぞ。鬼の妖力は使わないほうが、遊べる時間が増えるからな」
為朝はいつも被っている鬼面を取って、舜天に預けると尚巴志をにらんだ。
あらわになったその顔は、鬼面に負けず劣らずの厳つい形相をしていた。
「そっちの方が強そうだな」
「では、戻そうか?」
「いや、すまない。ご厚意、感謝する」
戦場の空気が張り詰めている。
お互いにらみ合いで相手の出方をうかがっていると、沖合に落ちた雷の音で開戦の火蓋が切られた。
「カジヌハー!」
尚巴志は、飛ばした斬撃の後ろを追う形で為朝に接近する。
為朝はノーガードで最初の斬撃を無傷で受けると、尚巴志の直接の斬撃を刀で受けた。
「ティーダダマ! フィーヌハー!」
尚巴志は攻撃しながら距離を取り、刀に火を纏わせてもう一度斬りかかるが、為朝は片手であしらっている。
「弱い、弱いぞ! これなら、護佐丸の方が幾分ましではないか?」
「そんなことはわかっているさ。セジを使い放題と言っても、今のワシは扱える器ではないのでな」
「でわ、もうあきらめて死ぬか?」
尚巴志は刀を鞘に納めて、仁王立ちで目を閉じた。
「今のワシでは勝てないが、全盛期の力を取り戻せば、何とかなるかもしれないさー」
「全盛期? その時分に戦えなくて残念だ」
その時、尚巴志の身体が黄金に輝くと、威圧感がグッと膨れ上がった。
仲間だから何ともないが、敵視点ではすごいプレッシャーになっているはずだ。
尚巴志が居合の構えをして呟くと、戦いが動き始めた。
「良かったな。今から見られるぞ」
すさまじい速さで距離を詰めた尚巴志は、抜刀しながら切り込んだ。
反応した為朝は刀で受け止めたが、後方にはじかれている。
それからは、見たことのないほどのスピードで刀の打ち合いが始まった。
カマドおばーは、軽くため息をついた。
「ハァ。やはり、ヌチカーキーを使いよったか……」
護佐丸でも聞いたことがなかったようで、眉間にしわを寄せていた。
「カマドさん。ヌチカーキーとは何なのですか? 王と付き合いが長いわんでも、見たことも聞いたこともないのですが……」
「そのままの意味じゃよ。寿命、すなわち残りの命を賭けて、全盛期の力を呼び起こす技だ。うんじゅにも言わなかったのは、大切な人に命を賭ける技なんかを知ってほしくなかったのさ。だから、皆もマネさんけーよ」
拮抗した2人の戦いを横目に、強張った表情の佐司笠が、震えた声でヌチカーキーがつくられた経緯を教えてくれた。
今から20年以上前の話。
尚巴志は40代になり、若い頃にあった、戦えば戦うほど自分が強くなっていく感覚を持てなくなってしまい、毎日そのことに悩んでいた。
そんな中、突如現れた、琉球侵略をもくろむ源為朝軍との戦が始まり、自分の衰えとは反して強くなっていく敵に、尚巴志はさらに焦りを感じてしまったのだ。
「何とか全盛期の力を出せる方法はないかと、わんも共に考えたが、いい方法が見つからなかった。じゃから、わんよりもセジの使い方に長けたカマドさんに助力を願い、なんとか3人で作り上げたのがヌチカーキーなのじゃよ」
「寿命を縮めるしか方法がなかったことを悔やんだが、最悪の事態以外では使わないと約束していた。やしが、このありさまだ」
尚巴志は、自分から最悪の事態に持ち込んだ形なので、技を作ることに関わった者からすると、いい気分ではないのかもしれない。
今まで見たこともないレベルで剣劇が繰り広げられている。
全盛期の強さで、セジを使い放題の尚巴志の強さは想像以上だったが、それに対して、鬼の力を使わずにやり合っている為朝は、本当に恐ろしいバケモノだと改めて思う。
……俺は、あれを超えられるのか? それに、俺たちは、鬼の力を使った為朝に勝てるのか?
為朝が踏み込んで刀を振り抜くと、尚巴志を後方に退かせた。
「こんな小さな島に、これほどの者がいたとはな。流石に王を名乗るだけの事はある。しかし、もう限界なのだろ?」
尚巴志は片膝をついて、肩で呼吸していた。
「ふー……気が付かれたか。ここまでやって、傷1つ付けることも叶わないとは思わなかったな。もう時間はなさそうやっさー」
尚巴志は立ち上がると、右手に持った刀にすごい量のセジを籠めている。
その様子を見た為朝は、刀を大きな弓矢に変形させていた。
「我とここまで戦えた者は初めてだった。敬意を払い、我が得意とする大強弓で、あの世に送ってやることにしよう」
尚巴志は自分の前に刀を突き立て、両手で握り、腰を入れて構えた。
「受け止めてやる!」
「我は、300人乗った軍船を、一矢で沈めたことがある。お前はそれを受け止めようというのか?」
人間では到底扱えるものではない、槍の様な矢をつがえた大きな弓を命いっぱい引いた為朝は、余裕の笑みを浮かべていた。
俺はナビーにテレパシーをつないだ。
「あんなの受け止められるわけないぞ! 俺たちは、やられる姿を見ているしかないのか?」
「尚巴志王がただやられるわけないさー。ただ、もしやられたら、今度は私たちの番だから準備だけはしておいて!」
俺は直ぐに戦えるように、右手に千代金丸のキーホルダーを強く握り締めながら、為朝の弓を見つめていた。
そして、尚巴志と為朝の技名が響いた。
「ウルマヌワジリ!」
「三百殺矢」
大地が揺れ始めた時、為朝が矢を射た。
すると、城外からセジが込められた1つの琉球石灰岩が、為朝をめがけて飛んでいく。
為朝の矢は突き刺した刀に命中して、それを尚巴志が受け止めているが、勢いが収まらずにじわりと押し込んでいる。
「為朝様ー!」
義本が叫びながら飛び込んできた。
そして、為朝に当たる寸前の琉球石灰岩を庇うように受けて、そのまま地面に打ち付けられると、あっさりと身体が消滅していた。
これは、最初に定めた1対1の戦いではなくなったということだ。
俺は、矢を受け止めている尚巴志を助けても良いのだと瞬時に理解して、体の反応に身を任せる。
気が付くと、俺と同じように行動していた、ナビー、尚忠、護佐丸とほぼ同時に、4人で矢を叩き落していた。
何とか耐えたはずの尚巴志だったが、ヌチカーキーが切れて前のめりに倒れてしまっている。
「琉美! 尚巴志王と佐司笠様を白虎に乗せて、首里城までお願い!」
「ナビーたちはどうするの!?」
「スキを作ってひんぎるから大丈夫! 急いで!」
尚忠と護佐丸が尚巴志を白虎に乗せていたので、俺、ナビー、カマドおばー、ケンボーの4人で為朝たちの出方をうかがっていた。
「すみません為朝様。私が止められれば良かったのですが……」
舜天が謝りながら鬼面を為朝に返した。
鬼面をかぶった為朝は、義本の依り代だった勾玉を拾い上げ、見つめている。
「義本め。勝手な真似をしよって。まさか、こやつが1発でやられるほどの技だったとはな」
「義本は1度、尚巴志と接触しておりますので、どんな技が来るのか知っていたのかもしれません」
為朝は黙って俺たちを見ると、弓を構えた。
その横で舜天も居合の構えをしている。
……クソッ! 戦わないといけないのか。
その時、後ろで琉美の焦る声が聞こえた。
「どうして白虎!? お願い、走ってよ!」
「わん、わん、わん!」
白虎の吠える声が止まらないので振り返ってみてみると、俺に向かって必死に吠えていた。
俺たちの事を心配しているのだと思い、安心させるために声をかけることにする。
「白虎、早く行ってくれ! 必ず帰るから!」
すると、白虎は乗っていた琉美たちを少々手荒に地面におろし、自らシーサー化を解いてしまった。
そして、面シーサーをくわえて俺の元に走ってきた。
「どうしたんだよ!?」
「わん!」
俺に面シーサーを押し付けてきたので受け取ると、顔を突き出して待っていた。
「俺にセジを籠めて欲しかったのか?」
「シバ、急げ!」
ナビーとカマドおばーはティンサグモードをして、今にも襲って来そうな為朝と舜天を警戒していた。
直ぐに面シーサーを白虎にかぶせ、セジを籠めると、いつも以上にセジが奪われている感覚がした。
いつものように、だんだん大きくなっていく白虎。
しかし、いつもの大きさを軽々と超えて、元の世界で琉美が倒した大獅子マジムンくらいの大きなシーサーになった。
「でか過ぎんだろ……」




