第75話 救世主はストーカー
「琉美さんにぬーそーがー!」
石垣の外から大きな声がしたと思った次の瞬間、ものすごい速さで誰かが飛び出してきて、刀が振り下ろされた。
すると、琉美を襲っていたはずの天邪鬼の金棒が、握ったままの両腕と共に空中に舞って地面に落ちた。
「琉美さん。西平総賢、ちゅらさんうんじゅをたしきに来ました。結婚してください!」
ケンボーは刀を納め、白虎に乗った琉美の元に近づくと、不意のプロポーズをし始めた。
「助けてくれたことは感謝します。ですが、どうしてここに?」
「わんはあの日から、琉美さんに近づくことを禁止されていたので、遠くから見ることしかできませんでした。やしが、それでもよかった。だって、見ているだけで幸せでした。あんくとぅ、わんは琉美さんを遠くで見守ろうと、ついてきていたのです。やしが! 琉美さんのぬちが危険にさらされることに我慢ができずに、飛び出したのです」
俺たちは琉美の命を救ってくれたケンボーをヒーローだと思っていたが、ただのストーカーだと知ってどん引きしてしまった。
「この7日間、ずっと付いてきてたってこと? 超キモいんだけど!」
「超キモいとは、何のことかわからないが、琉美さんから言われるといいやんべーします! もう一度うにげーさびら!」
ケンボーの発言の気持ち悪さにナビーが怒ってヒヤーで殴ろうとした時、腕を斬られた天邪鬼が怒号を上げた。
「お前らバカにしているのかーーーーー!」
天邪鬼が怒りをあらわにすると同時に、腕の切り口からヒンガーセジが溢れ出しながら、腕が生えて元どおりに治ってしまった。
今の俺たちでは天邪鬼の心を読む戦いを攻略できないので、逃げる体勢に入ったが、ケンボーは琉美に良いところを見せたかったのか、天邪鬼に向かって槍を構えていた。
それを見たナビーはイライラしながら怒鳴った。
「ふらーか! 今はひんぎれ!」
「大丈夫! 琉美さんへのかなさぬ力で勝ってみせる。セジヌカナミをうにげーさびら」
「ふらーやー、知らんからな」
ナビーは呆れながらもケンボーにセジヌカナミを与えて、共に武器を構えた。
覚悟を決めたのだと悟った俺は、せめて尚忠と琉美を逃がそうと考え、皆にテレパシーで逃げるように伝えることにした。
「俺は2人と一緒に戦うから、琉美と忠さんは白虎で先に逃げてください」
「私では足手まといになりそうだからね……わかった。気を付けてね」
「何だ!? 頭の中でシバと琉美の声がするさー」
「わん!」
……わん?
白虎のテレパシーで一瞬吹き出しそうになったが、今はふざけている場合じゃない。
「逃がさないよ」
琉美たちが逃げるのを阻止しようと、天邪鬼が先回りで道をふさごうとしていたが、白虎が上手くかわして逃げてくれた。
「まあいいや。残ったお前らさえ殺せば、勝ったも同然だからね。とりあえず、腕をやられた仕返しでもしようかな」
ケンボーは自分が狙われたとわかった瞬間、考えなしに飛びかかっていった。
「無理さんけー!」
ナビーの心配もお構いなしに、槍で突いたりなぎ払ったりとガンガン攻撃をすると、たまにかすったりしている。
俺は天邪鬼の攻略法が見えた気がしたので、ナビーにきいてみた。
「手数を増やせば考えを読まれても、簡単には対応できないってことか?」
「んー……そんな単純な話じゃないと思うけどねー」
すると、攻撃をしのいだ天邪鬼は、ケンボーから距離をとって怒りをあらわにした。
「なんだよこいつ!? 頭の中で、琉美さん琉美さん琉美さん琉美さん、ずっとそれだけしか考えてない。相当おかしな奴だぞ!」
ナビーの言う通り、単純なことではなかった。
ケンボーはずっと琉美の事を考えて、戦いは本能だけに任せて無意識にやっていたみたいだ。
真似して戦おうと思っても、絶対にできる気がしない異常なやり方だった。
「変な奴だとは思っていたけど、あんしふりむんだったとは思わなかったさー。しにはごーさよ」
「でも、今はそれにすがるしかなさそうだな。少しでも気を散らすために、いつでも戦う準備はしておくよ」
ケンボーはもう一度距離を詰めて攻撃を再開した。
「そうだ、別に心を読まないで戦えばいいのだ! こんなやつにかまってられねーな」
天邪鬼は心を読むのをやめて、動体視力だけで攻撃をかわし始め、ヒンガーセジでつくった金棒で攻撃を繰り出してきた。
その瞬間、ナビーがテレパシーを使ってきた。
「シバ、ひんぎるからケンボーを抱えて走ってちょうだい。私はティンサグモードで牽制しながらついて行くからさー」
「会話聞かれるぞ!」
「大丈夫。ケンボーが攻撃している時は、戦うことに集中して心を読んでいないみたいさー。だから、すきを見てケンボーを捕まえてひんぎれな」
俺とナビーはその瞬間まで、目立たないように息をひそめる。
そして、ケンボーが押され始めて天邪鬼がとどめを刺そうとした時、俺はセジオーラを全開で飛び出して、ケンボーを抱えて森の中をひたすら駆けて行った。
数分走ると追手の気配を感じなかったので、一旦止まって後ろの様子をうかがうことにした。
「追ってきてない……みたいだな。そういえば、何も言わずに抱えて走ったけど、ケンボーさん大丈夫ですか?」
「いゃーは何度も戯れていたな? 琉美さんといゃーの関係を教えろ」
「戯れ? 何のことですか?」
「何度も何度も叩かれていた事だ! どぅーだけいいやんべーしてからに」
ケンボーは、この旅で俺が琉美に叩かれた事をうらやましがっている様だ。
……好きで叩かれてるわけないだろーが!
「はぁ……もういいです、早くみんなと合流しましょう」
「待て!」
ケンボーに肩を掴まれて、鋭い眼光を向けられた。
「いゃーはナビーに勝てるのか?」
「ま、まだ負けると思う」
「ふっ、いつかは勝てる気でいるのだな……わんは、ナビーが認めたいゃーと戦いたいと思っている。首里城に帰ったらわんとしょーブヘッ!」
遅れてやってきたナビーがケンボーに跳び蹴りをくらわせた。
「こんな時にシバに突っかからんけー! 夜が明ける前に、みんなと合流するよ!」
夜の森は先が見えないほど暗いので、逃げることができたのかもしれない。
俺たちは闇に溶け込みながら、急いで集合場所の洞窟に向かった。
「よかった! みんな無事だったんだね!」
「ああ! 琉美さんに心配してもらった! 琉美さん、琉美さん……」
「えー! いゃーは入り口で見張りでもしておけ! 琉美に近寄るなって言ったの忘れたのか!」
ケンボーが洞窟の外に行ったのを確認すると、ナビーが小さな声で、この場の誰も思ってもみなかったことを言いだした。
「みんな撤退を考えていたと思うけど、私は今で倒したほうが良いと思うわけさー」
琉美は驚きを隠せない様子でナビーにきいた。
「ちょっと待って! さっきの天邪鬼だっけ? 人の心を読む相手とどうやって戦えっていうのよ!? 今も手がなくて逃げて来たんじゃないの?」
「琉美、少し静かにしてちょうだい。ケンボーに聞こえるからよ。その、言いにくいんだけど、ケンボーは戦いの最中でも琉美の事しか考えてなかったみたいで、心を読まれてなかったわけさー」
「何それ!? 気持ち悪いけど、それなら何とかなりそうなの?」
ナビーはゆっくりと首を横に振った。
「流石に3将軍は心を読む能力を使わないでも、ケンボーよりちゅーばーだったさー」
黙って座っていた尚忠が話に入ってきた。
「話を聞くに、皆で戦えれば希望はありそうなのだな。やしが、戦いながら違うことを考えるのは、わんにはできるきがしないさー。みんなはできるかね?」
俺たち3人は少し想像してみたが、できないという答えを出した。
しかし、ナビーには考えがあるようで、犬の姿に戻っている白虎を抱き掲げながら言い放った。
「シバがテレパシーで逃げるように言った時、白虎のわんも聞こえたさー? それで思いついたんだけど、ケンボーと白虎を中心に戦わせて、私たちは心を読めない状態の天邪鬼を外から遠距離攻撃で圧力をかけ続ければ勝てると思ったわけよー」
ケンボーだけでは歯が立たなくても、同じように心を読むことができない白虎がいて、その周りで俺たちが4人が構えている状況を思い浮かべると、全然負ける気がしない。
白虎は自分が戦えると知ってか、喜びながらナビーの顔を舐めまわしている。
その様子を見て、満場一致でナビーの作戦に賛同した。
「仲間同士でどんな戦い方をするのかわからないのも、逆によさそうだな。で、いつ再戦する予定なんだ?」
「なまからいちゅんどー。敵もまさか、こんなに早く戻って来るとは思わないだろうからさー」
作戦を聞いていないケンボーを連れて、天邪鬼がいる今帰仁城に歩を進めた。




