第73話 難しい選択
急いでナビーの元に向かい、見つめている方向を確認した。
グナァウニマジムンが集まっている中心に、子供が入れるくらいの黒い穴ができている。
「何でヒンガーホールがあるんだよ!? 向こうの世界の今帰仁城のセジは、使い切ったから当分は大丈夫って話じゃなかったか?」
「そうだと思っていたけどねー……あれ見てごらん。ウフウニが10匹でヒンガーホールを作っているみたいさー」
1000以上のグナァウニマジムンを作り出せるウフウニマジムンが、10匹がかりでヒンガーホールに向かってヒンガーセジを籠めていた。
そして、グナァウニが1匹ずつ中に入って行くのを確認した。
「やばい! 向こうの世界にグナァウニを送っているのか!? すぐにやめさせないと!」
俺は考えなしに飛び出しそうになったが、ナビーが同じく焦りながらもとめてくれた。
「待て! 気持ちはわかるけど、今は偵察中ってことも忘れるなよ! やしが、ちゃーすがやー」
とりあえず、ナビーのテレパシーで琉美に状況を伝えた。
「2人とも落ち着いて。向こうにはキジムナー達がいるから、グナァウニくらいなら問題ないんじゃない? でも、このままってわけにもいかないから、いったん戻って忠さんも含めて話し合おうよ」
「でも、監視しておかないと何するかわからないぞ。ナビー、忠さんもテレパシーに加われないのか?」
「これはキジムナーの特技を使わせてもらっているだけで、キジムナーがマーキングした人にしかできないわけよ」
そういえば、キジムナーと初めて会った日の去り際に、頭にセジを流し込まれたのを思い出した。
……あれがマーキングだったのか。
しょうがないので、一旦冷静になるために琉美の言う通りに一時撤退して、2人と安全な場所で合流することにした。
尚忠に見たままの状況を伝えると、難しい顔をしている。
「じゅんになー!? ちゃーすがやー……」
「俺は、ヒンガーホールだけでも消滅させたいです。あんな数のグナァウニが送り込まれたら、いくらキジムナーが強くてもいずれ限界が来る。そしたら、向こうの世界は大変なことになりますので」
みんな難しい顔をして考え込んでいると、ナビーが口を開いた。
「今回の偵察は琉球王国にとって、今後の戦況を左右するてーしちな作戦さーね? やしが、偵察のためにこれを無視して、この数のグナァウニをあっちの世界に送り込まれたら、でーじなことになる。ここは、どっちかをあきらめる選択をしないといけないみたいだね……忠さんの考えをきかせてください」
「わんは、次期王として、琉球の利益を第一に考えてしまう……」
その言葉を聞いたとき、俺は尚忠を振り切ってでもヒンガーホールを消滅させる決意をかためた。
……立場的にしょうがないのだろうけど、こっちも自分の世界がかかっているんだ。
その時、左手で顔を抑えて黙り込んだ尚忠は、不気味に笑って顔を上げた。
「ナビー、シバ、琉美! うんじゅなーがやりたいようにやりなさい……と、たーりーならおっしゃるだろう。あんくとぅ、王子であるわんが、尚巴志王に代わって命令を出す。ヒンガーホールを消滅させて、共に首里までひんぎるぞ!」
俺たちはガッツポーズやハイタッチで喜び、尚忠に向かって深いお辞儀をした。
「ありがとうございます!」
「礼はしむさ。一緒に旅をしてきて、琉球にはうんじゅなーの力が必要だと感じた。ここで、わんが選択を間違えれば、うんじゅなーに見限られるかもしれない。琉球の利益をかんげーれば、そんな選択をするわけにはいかなかっただけさー。きにさんけー」
俺は、これからはできるだけ尚忠王子の力になりたいと思った。
こんな気持ちにさせた要因が戦略だとしても、心を動かされたのでしょうがない。
「でも、どうやって攻めればいいのかな? ヒンガーホールを消滅させるには、それを作っている10匹のウフウニを倒さないといけないんでしょ? それも、数千のグナァウニがいる中でさぁ」
浮足立っていた俺は、琉美の冷静な声と質問で少し落ち着くことができた。
「そうだな、まずはヒンガーホールの周りにいるグナァウニを奇襲で大幅に倒して、戦場を作ったほうが動きやすいかな? それとも、直接ウフウニに奇襲が良いか……ナビーはどう思う?」
「どっちも大事だねー。忠さんと私とシバの3人でウフウニに奇襲をかけて、できるだけ数を減らす。琉美は白虎と一緒に、ヒンガーホール周辺のグナァウニを一掃する。それからは、私たち3人の戦いを邪魔しそうな奴だけ倒してちょうだい」
黙って作戦を聞いた尚忠はうなずいた。
「あの数だから、セジを節約しながら戦うってことか。それに、ひんぎる事までかんげーんといけないからな」
「そうですね。私も、ティンサグモードはできるだけ使わないで、ひんぎるときに取っておこうと思っています」
……俺もセジオーラは極力使わないようにしないといけないな。
「じゃあ、俺とナビーはアースンをうまく使って、強力な技を効率よく使って行こう」
Lv.65
HP 775/775 SP 590/655
攻撃力 712 守備力 946 セジ攻撃力 507 セジ守備力 830 素早さ 719
特殊能力 中二病 マージグクル 昼夜逆転
身代わり ティーアンダー
特技 テダコボール Lv.10 ティーダボール Lv.8
イシ・ゲンノー Lv.8 セジ刀 Lv.10
ヒンプンシールド Lv.10 セジオーラ Lv.9
カジマチ Lv.4
各々の役目を頭に叩き込み、再び城壁の縁まで登ってスタンバイをする。
「アースン、ヒンプンロード!」
俺とナビーのヒンプンで、ヒンガーホールの真上まで道を作って一斉に駆けて行く。
ヒンガーホールにセジを籠めているウフウニマジムンを確認したとき、尚忠がその一匹に斬りかかっていった。
少し遅れて俺とナビーは息を合わせて攻撃をする。
「アースン、火災旋風・ターチ!」
炎の竜巻で周りのグナァウニを10匹程度は倒せたが、流石のウフウニマジムンはひるみはしたが耐えていた。
「咆哮波!」
上空から咆哮波でグナァウニを吹き飛ばした琉美と白虎は、そこに着地をして辺りを警戒してくれている。
それを見て安心した俺は自分の敵を見据えたが、7匹のウフウニは攻撃を受けたにもかかわらず、ヒンガーホールを維持することだけに集中していた。
……1人1匹で対処するように命令されているのかもしれないな。それなら何とかなりそうだ。
俺は千代金丸を腰に差し、1匹目のウフウニに構えた。
その鞘をナビーが握り、風のセジを籠めたので、一緒に火のセジを籠めて抜刀した。
「アースン、火風斬!」
飛ぶ斬撃が燃えながらウフウニを襲うと、胴体を横一線に焼き切った。
尚忠はがらにもなく、声を裏返りながら驚いている。
「一発!? ウフウニを1発ってきいたことがないさー」
すると、ヒンガーホールにセジを籠めている7匹のうち2匹が戦いに加わって、俺とナビーに対して3匹で固まって襲い掛かってきた。
残り1匹は、尚忠と戦い始めている。
ナビーが懐から石を取り出しアイコンタクトをしてきた。
「ヒンプンシールド・ユーチ!」
俺はヒンプンシールドでウフウニ3匹を閉じ込めて、思いっきりジャンプをする。
俺が飛んだタイミングに合わせて、ナビーはイシ・ゲンノーをしたまま近づいてきたのでそれに手をそえてセジを籠めた。
「アースン、ウフイシ・ゲンノー!」
閉じ込められたウフウニの頭上に大きな岩を振り落とした時、琉美の声が響いた。
「それもらうよ!」
龍のムチが岩に噛みついて一体化すると、琉美はそれを振り回してグナァウニを蹴散らし始めた。
「やべえなあの技。これって、3人でアースンしたってことか?」
「やんやー。技名はヨーカブシにしようかねー。そんなことより、まだウフウニが残っているさー」
ウフイシ・ゲンノーだけでは倒せていなかったウフウニを、直接斬りかかって倒した。
その時、ようやく1匹を倒した尚忠が疲れた様子で近づいてきた。
「はあ、くーてんぐゎーくらってしまったさー。ナビー回復をうえええー!」
「ムチグスイ!」
琉美は戦況を把握していたので、すぐに尚忠を回復していたが、尚忠は初めてムチグスイを受けたので、何か勘違いをしていた。
「琉美は戦いの最中にも人を叩きたくなるのか!? わんは叩かれんちゅあらんどー」
「なわけないでしょー! これは回復の技です。回復は私がするから、戦いに集中してください!」
俺とナビーは、吹き出しそうになったが必死にこらえて、次のウフウニを見定めた。
その時、ヒンガーホールを維持していた残りの4匹は、辺りにたくさんいるグナァウニからヒンガーセジを吸収し始めると、金棒をもって臨戦態勢に入った。
1匹だけは小さな穴を何とか維持している。
「あの数のグナァウニを4匹で全部吸収したってことは、相当強くなっているかもな。雰囲気が全然違う」
尚忠は目を丸くして固まっている。
「こんなの見たことがない。もしかして、今までわったーが倒してきたウフウニは、ただの出涸らしの様なものだったのかもしれないな。わんの強さでは、良くて相打ちといったところか……」
「大丈夫ですよ忠さん! グナァウニがいないってことは、琉美と白虎も戦いに加われるさー。急いでたっぴらかしてけーゆんどー!」
その時、琉美が白虎から降りて俺とナビーにお願いした。
「さっきの技、手ごたえあったからもう1回やってもいい?」
「ヨーカブシな? やしが、白虎に乗らないで大丈夫ね?」
「なんか、白虎も戦いたいみたいで、そわそわしていたんだよね」
すると、白虎は自分でヤンバルスパイクを出して、端にいるウフウニめがけて獅子突進をした。
ウフウニは咄嗟にもう1匹が加わり、2匹がかりで金棒を使い受け止めてしまう。
「今の攻撃に対応するって相当強くなっているな。白虎だけでは少し無理をさせそうだけど、どうするナビー?」
「私が白虎に乗ってアースンしてみようかね」
そういったナビーはノリノリで白虎にまたがり、ヒヤーを構えて走らせた。
先程のウフウニ2匹に近づいたとき、ナビーはヒヤーの先端を白虎の口の前に構えてティーダボールを作り、白虎はそれに咆哮波を放った。
「ヒーフチュン!」
白虎の口から出たように見えるすさまじい火炎放射が、2匹のウフウニを襲う。
そして、俺と琉美の頭の中にナビーの声がきこえた。
「シバ、琉美、ヨーカブシ行くよ!」
『オッケー!』
ナビーに返事をしたとき、聞き覚えのあるどぅしの声が頭に響いてきた。
「お前ら楽しそうだな! 無事にやっているようで安心したぞ!」




