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チャンプルーファンタジー  作者: 新里胡差
琉球 今帰仁城偵察編
72/148

第72話 偵察開始

 闇夜の森の中、息をひそめてゆっくりと進んで行く。

 目立ってはいけないので、白虎は元の姿のままで、尚忠しょうちゅうもシーサーには乗っていない。

 まずは、城の正面を確認できる場所を探し、様子を見ることにした。

 正門前の広場には、常時、およそ3000匹のグナァウニ(小鬼)マジムンが待機しているようで、やはり、正面突破は難しそうだ。


「正面の守りはやっぱりすごいな。いくさの時より多いとは思わなかったよ」


 ナビーと尚忠しょうちゅうは俺よりも驚いていた。


「だからよー! 忠さん、一度にあの数のグナァウニ(小鬼)を見たことがなかったけど、私が向こうの世界に行っている間で、何か変わったのですか?」


「いいや。少し増加気味ではあったが、戦でもないただの門番で、この数は見たことも聞いたこともないさー」


「そうなんですか。あいつら、何か企んでいるのかもしれないさー。近くのぐすくを攻める準備かもしれないから、何か対策を考えないといけないですね」


 正門を確認しただけだが、今回の偵察ていさつはすごく意味のあるものになった。

 敵の情報を先に知ることが、こちら側にどれだけ有利になるのかを実感して、偵察の重要性を再確認できた。


 しばらく様子を見ていると、尚忠しょうちゅうがボソリとつぶやいた。


「それにしても、今帰仁城なきじんぐすくの攻め方をいろいろ考えてはいるのだが、何も思いつかないさー。中に居たら気が付かなかったが、でーじ(とても)立派なぐすくだったんだな……」


 俺も攻め方を考えていたが、何も思いつかない。

 元の世界では戦争で壊れていたのだろう、この世界の今帰仁城なきじんぐすくの城壁は、想像よりもさらに長く続いており、守りのスキを探すのが困難である。

 その時、今まで黙っていた琉美が、尚忠の心の傷をえぐってきた。


「でも、こんな立派な城を構えて、何で奪われちゃったんですか?」


「うっ……それは……」


「琉美! 流石にドSが過ぎるぞ!」


「違うの! こんな城を落とす方法があったのなら、それが参考になるんじゃないのかと思っただけだよ。それとシバは、すぐにドSに話をもっていかないでよね!」


 落ち込んでいた尚忠は、気を取り直して今帰仁城なきじんぐすくのちょっとした歴史を語ってくれた。


「難攻不落と言われたこの城も、わん()の時を含めて2度落とされている。1度目は、まだ、琉球が3つの国に分かれていた三山さんざん時代。北山ほくざん王の攀安知はんあんちが拠点として構えていた今帰仁城なきじんぐすくを、中山ちゅうざん王であったわん(私の)たんめー(祖父)たーりー()が協力して城攻めをした。やしが(しかし)、やはりそう簡単に攻め落とせるほど甘くなかった。そこに……」


「そこに、尚巴志しょうはし王の右腕として参加していた護佐丸ごさまるさんが、突破口を開くわけさー!」


「そう、護佐丸ごさまるはあらかじめ敵と内通していて、密かに交渉していたのだ。その交渉相手が味方を裏切る形で内側から開門し、わが軍は攻めることができた。まだわん()も20代前半だったが、自分より年下の護佐丸ごさまるが、戦場を動かしている姿には惚れ惚れしたのを覚えているさー」


 護佐丸ごさまるは武力で攻めることが、最初から無理だと判断していたのだろうか?

 しかし、この作戦はマジムン相手だと交渉できるはずがないので、参考にはできないだろう。


「その作戦は、マジムン相手にはできそうにないですね。その……2度目はどうだったのかきいてもいいですか?」


 この世界に居なかった時の出来事なので、ナビーもずっと不思議に思っていたようだ。


「私も気になっていたさー。忠さんほどの人がいて、何で落とされてしまったのですか?」


駿馬順熙しゅんばじゅんきを倒したうんじゅなー(あなた達)には、知ってもらったほうが良いかもしれないね」


 ナビーがこの世界から俺たちの世界に渡って数か月後、今帰仁城なきじんぐすく監守だった尚忠しょうちゅうは、いつものように攻めてくるマジムン軍と防衛戦を行っていた。

 その日は、勝連按司かつれんあじに就任したばかりの阿麻和利あまわりが、按司あじとしての勉強を兼ねて戦に加わっていたという。

 阿麻和利あまわりの戦いぶりは見事なもので、今までにないほどの快勝で防衛できてしまった。

 そのままの勢いで後方部隊まで攻め込み、1日で2匹のウフウニ(大鬼)マジムンを倒す結果となった。

 尚忠は自分には教えられることはないと、次の日には感謝と共に帰還の命令を阿麻和利あまわりに出してしまった。

 すると、敵軍は前日に豪快にやられてしまったためか、3将軍の駿馬順熙しゅんばじゅんき率いる6000の軍が、急に押し寄せてきたのだという。


「ですが、いくら6000でも、この城は簡単に落とせるとは思えませんけど?」


やんどー(そうだよ)ウフウニ(大鬼)ばんない(たくさん)だったとしても、防衛戦である以上こちらが有利に戦えた。やしが(しかし)、6000よりも恐ろしかったのは、駿馬順熙しゅんばじゅんきただ1人だったのだよ」


 戦開始から数時間後。頃合いを見計らっていたのか駿馬順熙しゅんばじゅんきが動き出す。

 疲れが見え始めた今帰仁なきじん軍の兵士1500の内300に対して、黒い矢を次々に射ってきた。

 話の内容から、キジムナーを操っていた妖操矢ようそうやで間違いなさそうだ。


「それからは地獄だった……マジムン化した味方兵士が襲ってきて、戦場が混乱してしまい、あとは数で押し切られてしまったのだよ」


 想像よりもひどいいくさだったみたいだ。

 みんなしばらく沈黙していたが、尚忠しょうちゅうが俺たちに礼をしてきた。


「今更だが、あの恐ろしい駿馬順熙しゅんばじゅんきを倒してくれて、にふぇーでーびたんありがとうございました。本当はわん()自身で倒したかったが、そんな力がないことは知っている。あんくとぅ(だから)、本当にありがたかったさー」


「いいえ。あの時点の俺たちでは、まだ戦っても勝てませんでしたが、キジムナーがいたおかげで倒すことができたんです。だから、帰ったらそのお礼はキジムナーにも伝えておきますね」


ゆたしく(よろしく)うにげーさびら(お願いします)



 城正面の偵察は十分なので、グルっと周りを見ていくことにした。

 しかし、城壁の外は崖の様な森になっていて、足を踏み入れるのが難しそうだ。


「城の周りは急斜面すぎるからか、見張りが少ないな。これなら、意外とバレずに中の様子を確認できるかもしれない」


 しかし、琉美はそう思ってなかったらしい。


「この崖と城壁を見て、なんでいけると思ったのよ? シバはロッククライマーですか?」


「違うよ! 見張りがいないなら、ヒンプンシールドで階段を作ればいいだけだろ? 夜で暗いし同じ石垣だから、目立たないんじゃないかな?」


 ナビーがお尻を叩いて褒めてきた。


「いい考えさー! じゃあ、私とシバで交互に、できるだけ小さく作って上って行こうねー」


 その時、尚忠しょうちゅうが確認をした。


「それはいいが、もし、上で見つかってしまった時の逃げ方を確認しておこう」


 尚忠のシーサーは目立つため連れてきていないので、白虎をシーサー化させてみんなで乗ることにした。

 もし、白虎が辛そうなら、俺はセジオーラ全開にして集合場所の洞窟まで走ることになった。


「ヒンプンシールド……ヒンプンシールド……」


 階段を作って上り、城壁のふちの手前に足場を作って城内を覗いた。

 そこには、城門前にいた数と同じくらいのグナァウニ(小鬼)マジムンが、辺り一帯にわらわらとしていた。

 俺たちは数の多さに驚いていたが、尚忠は別のことに驚いていた。


「クソ! この場所は、貴族の住居が集まっていた場所だったが、すべて壊されている! やはり、自分の城がぞんざいに扱われているのは、しにわじわじー(とてもイライラ)するさー!」


やしが(だけど)、なんで城内にも軍を待機させているんですかね?」


 たしかにそうだ。こんなに堅牢けんろうな城の中に軍を配置している意味が解らない。


「一応、城の裏には、水源にしている川に行くための門がある。そこの守護かもしれないが、城内に軍を構える理由にはならないか……」


 考えてもわからないので、実際に現場を見に行くことを提案してみる。


「何かわかるかもしれないから、とりあえず見に行こう。それと、敷地が広すぎて時間がかかりそうだし、急いだほうがいいかもな」



 裏門に着いてしばらく観察してみるも、ウフウニ(大鬼)マジムンが1匹いるだけで、特に何もなかった。

 あまりの手薄さに驚いていたが、冷静になって考えれば、グナァウニ(小鬼)マジムンはウフウニ(大鬼)マジムンが生み出すという性質上、ウフウニ(大鬼)だけを配置するのは合理的である。

 ナビーによると、各地の城を襲うマジムン軍もウフウニ(大鬼)が1、2匹で現れて、戦場でグナァウニ(小鬼)を生み出すという。


「逆に、城門前と城内のグナァウニ(小鬼)の数がおかしいってことだよな? やっぱり、不自然な状況ってことは、何か企んでいるのかもしれないな」


「そうだね。もう少し踏み込んでの調査が必要かもしれないさー」


 ここからは、4人と1匹では目立つので、見つかっても自力で逃げ切れる俺とナビーの2人で偵察を続けることになった。

 上手くヒンプンシールドを使って隠れながら、城内に侵入することができた。

 以外にも、他の場所にはマジムンがいないので、それほど難しい事ではなかった。


「特に変わったことはなさそうだな。これからどうする?」


「最後に、グナァウニ(小鬼)の軍を城内からも見てから撤退しようかねー。流石に危険だから、私だけで見てくるさー」


 場内の構造を知っているナビーに任せて、俺は城壁のすぐ外で待っていた。

 すると、突然ナビーの焦った声が頭の中に響いた。


「シバ、穴が! ヒンガーホールにグナァウニ(小鬼)が入りよった!」

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