第72話 偵察開始
闇夜の森の中、息をひそめてゆっくりと進んで行く。
目立ってはいけないので、白虎は元の姿のままで、尚忠もシーサーには乗っていない。
まずは、城の正面を確認できる場所を探し、様子を見ることにした。
正門前の広場には、常時、およそ3000匹のグナァウニマジムンが待機しているようで、やはり、正面突破は難しそうだ。
「正面の守りはやっぱりすごいな。戦の時より多いとは思わなかったよ」
ナビーと尚忠は俺よりも驚いていた。
「だからよー! 忠さん、一度にあの数のグナァウニを見たことがなかったけど、私が向こうの世界に行っている間で、何か変わったのですか?」
「いいや。少し増加気味ではあったが、戦でもないただの門番で、この数は見たことも聞いたこともないさー」
「そうなんですか。あいつら、何か企んでいるのかもしれないさー。近くの城を攻める準備かもしれないから、何か対策を考えないといけないですね」
正門を確認しただけだが、今回の偵察はすごく意味のあるものになった。
敵の情報を先に知ることが、こちら側にどれだけ有利になるのかを実感して、偵察の重要性を再確認できた。
しばらく様子を見ていると、尚忠がボソリとつぶやいた。
「それにしても、今帰仁城の攻め方をいろいろ考えてはいるのだが、何も思いつかないさー。中に居たら気が付かなかったが、でーじ立派な城だったんだな……」
俺も攻め方を考えていたが、何も思いつかない。
元の世界では戦争で壊れていたのだろう、この世界の今帰仁城の城壁は、想像よりもさらに長く続いており、守りのスキを探すのが困難である。
その時、今まで黙っていた琉美が、尚忠の心の傷をえぐってきた。
「でも、こんな立派な城を構えて、何で奪われちゃったんですか?」
「うっ……それは……」
「琉美! 流石にドSが過ぎるぞ!」
「違うの! こんな城を落とす方法があったのなら、それが参考になるんじゃないのかと思っただけだよ。それとシバは、すぐにドSに話をもっていかないでよね!」
落ち込んでいた尚忠は、気を取り直して今帰仁城のちょっとした歴史を語ってくれた。
「難攻不落と言われたこの城も、わんの時を含めて2度落とされている。1度目は、まだ、琉球が3つの国に分かれていた三山時代。北山王の攀安知が拠点として構えていた今帰仁城を、中山王であったわんのたんめーとたーりーが協力して城攻めをした。やしが、やはりそう簡単に攻め落とせるほど甘くなかった。そこに……」
「そこに、尚巴志王の右腕として参加していた護佐丸さんが、突破口を開くわけさー!」
「そう、護佐丸はあらかじめ敵と内通していて、密かに交渉していたのだ。その交渉相手が味方を裏切る形で内側から開門し、わが軍は攻めることができた。まだわんも20代前半だったが、自分より年下の護佐丸が、戦場を動かしている姿には惚れ惚れしたのを覚えているさー」
護佐丸は武力で攻めることが、最初から無理だと判断していたのだろうか?
しかし、この作戦はマジムン相手だと交渉できるはずがないので、参考にはできないだろう。
「その作戦は、マジムン相手にはできそうにないですね。その……2度目はどうだったのかきいてもいいですか?」
この世界に居なかった時の出来事なので、ナビーもずっと不思議に思っていたようだ。
「私も気になっていたさー。忠さんほどの人がいて、何で落とされてしまったのですか?」
「駿馬順熙を倒したうんじゅなーには、知ってもらったほうが良いかもしれないね」
ナビーがこの世界から俺たちの世界に渡って数か月後、今帰仁城監守だった尚忠は、いつものように攻めてくるマジムン軍と防衛戦を行っていた。
その日は、勝連按司に就任したばかりの阿麻和利が、按司としての勉強を兼ねて戦に加わっていたという。
阿麻和利の戦いぶりは見事なもので、今までにないほどの快勝で防衛できてしまった。
そのままの勢いで後方部隊まで攻め込み、1日で2匹のウフウニマジムンを倒す結果となった。
尚忠は自分には教えられることはないと、次の日には感謝と共に帰還の命令を阿麻和利に出してしまった。
すると、敵軍は前日に豪快にやられてしまったためか、3将軍の駿馬順熙率いる6000の軍が、急に押し寄せてきたのだという。
「ですが、いくら6000でも、この城は簡単に落とせるとは思えませんけど?」
「やんどー。ウフウニがばんないだったとしても、防衛戦である以上こちらが有利に戦えた。やしが、6000よりも恐ろしかったのは、駿馬順熙ただ1人だったのだよ」
戦開始から数時間後。頃合いを見計らっていたのか駿馬順熙が動き出す。
疲れが見え始めた今帰仁軍の兵士1500の内300に対して、黒い矢を次々に射ってきた。
話の内容から、キジムナーを操っていた妖操矢で間違いなさそうだ。
「それからは地獄だった……マジムン化した味方兵士が襲ってきて、戦場が混乱してしまい、あとは数で押し切られてしまったのだよ」
想像よりもひどい戦だったみたいだ。
みんなしばらく沈黙していたが、尚忠が俺たちに礼をしてきた。
「今更だが、あの恐ろしい駿馬順熙を倒してくれて、にふぇーでーびたん。本当はわん自身で倒したかったが、そんな力がないことは知っている。あんくとぅ、本当にありがたかったさー」
「いいえ。あの時点の俺たちでは、まだ戦っても勝てませんでしたが、キジムナーがいたおかげで倒すことができたんです。だから、帰ったらそのお礼はキジムナーにも伝えておきますね」
「ゆたしくうにげーさびら」
城正面の偵察は十分なので、グルっと周りを見ていくことにした。
しかし、城壁の外は崖の様な森になっていて、足を踏み入れるのが難しそうだ。
「城の周りは急斜面すぎるからか、見張りが少ないな。これなら、意外とバレずに中の様子を確認できるかもしれない」
しかし、琉美はそう思ってなかったらしい。
「この崖と城壁を見て、なんでいけると思ったのよ? シバはロッククライマーですか?」
「違うよ! 見張りがいないなら、ヒンプンシールドで階段を作ればいいだけだろ? 夜で暗いし同じ石垣だから、目立たないんじゃないかな?」
ナビーがお尻を叩いて褒めてきた。
「いい考えさー! じゃあ、私とシバで交互に、できるだけ小さく作って上って行こうねー」
その時、尚忠が確認をした。
「それはいいが、もし、上で見つかってしまった時の逃げ方を確認しておこう」
尚忠のシーサーは目立つため連れてきていないので、白虎をシーサー化させてみんなで乗ることにした。
もし、白虎が辛そうなら、俺はセジオーラ全開にして集合場所の洞窟まで走ることになった。
「ヒンプンシールド……ヒンプンシールド……」
階段を作って上り、城壁の縁の手前に足場を作って城内を覗いた。
そこには、城門前にいた数と同じくらいのグナァウニマジムンが、辺り一帯にわらわらとしていた。
俺たちは数の多さに驚いていたが、尚忠は別のことに驚いていた。
「クソ! この場所は、貴族の住居が集まっていた場所だったが、すべて壊されている! やはり、自分の城がぞんざいに扱われているのは、しにわじわじーするさー!」
「やしが、なんで城内にも軍を待機させているんですかね?」
たしかにそうだ。こんなに堅牢な城の中に軍を配置している意味が解らない。
「一応、城の裏には、水源にしている川に行くための門がある。そこの守護かもしれないが、城内に軍を構える理由にはならないか……」
考えてもわからないので、実際に現場を見に行くことを提案してみる。
「何かわかるかもしれないから、とりあえず見に行こう。それと、敷地が広すぎて時間がかかりそうだし、急いだほうがいいかもな」
裏門に着いてしばらく観察してみるも、ウフウニマジムンが1匹いるだけで、特に何もなかった。
あまりの手薄さに驚いていたが、冷静になって考えれば、グナァウニマジムンはウフウニマジムンが生み出すという性質上、ウフウニだけを配置するのは合理的である。
ナビーによると、各地の城を襲うマジムン軍もウフウニが1、2匹で現れて、戦場でグナァウニを生み出すという。
「逆に、城門前と城内のグナァウニの数がおかしいってことだよな? やっぱり、不自然な状況ってことは、何か企んでいるのかもしれないな」
「そうだね。もう少し踏み込んでの調査が必要かもしれないさー」
ここからは、4人と1匹では目立つので、見つかっても自力で逃げ切れる俺とナビーの2人で偵察を続けることになった。
上手くヒンプンシールドを使って隠れながら、城内に侵入することができた。
以外にも、他の場所にはマジムンがいないので、それほど難しい事ではなかった。
「特に変わったことはなさそうだな。これからどうする?」
「最後に、グナァウニの軍を城内からも見てから撤退しようかねー。流石に危険だから、私だけで見てくるさー」
場内の構造を知っているナビーに任せて、俺は城壁のすぐ外で待っていた。
すると、突然ナビーの焦った声が頭の中に響いた。
「シバ、穴が! ヒンガーホールにグナァウニが入りよった!」




