第7話 つり橋の戦い
森の中に赤いつり橋が見えた。
そのまま渡ると思いきや、ナビーが橋の1歩手前で止まったので、すぐ後ろを歩いていた俺と軽くぶつかってしまった。
「おっと! 急に止まるなよ!」
少し前によろけたナビーが体勢をととのえ、40~50mある橋の中間の手すりを指さした。
「うり! あれ見てみー! 1匹目がいたさー」
ハト位の大きさだろうか、頭頂部から背中と羽が橙褐色、顔から胸が黒く腹が白い鳥がこちらをじっと見ている。これまでのマジムンと違って小さいので、なんだか可愛らしく思える。
「あれがマジムン? ただの可愛い鳥に見えるけど」
「何言ってる! あれは、アカヒゲのマジムンさー。本当は、スズメくらいの小さい鳥だからな」
「なんか、今までの奴らと違って、あんまり大きくないな。ってことは弱いのか?」
「マジムンは、必ずしも大きいから強いってわけじゃない。大きさじゃなくて能力が上がるタイプもいるから気をつけれよ!」
ナビーに忠告された次の瞬間、アカヒゲマジムンがピーピュロリと鳴いたと思ったら、すごい速さで橋の上をまっすぐこちらに向かって飛んできた。
先頭にいたナビーは、すぐさま反応して右手にセジを込めて構えている。アカヒゲマジムンが近づくタイミングを見計い、叩き落そうとしたが空を切った。
腕が届くギリギリのところで真上に急上昇し、今度は何もできずにただ立ち尽くしている俺に向かって飛んできた。
……来るな、来るな、来るなーーー!
「シバ! よけれー!」
ナビーが振り返り叫んだが、俺の体は微動だにせず、そのまま左腕に嘴でぶつかられた。
攻撃をしたアカヒゲマジムンは、上空で旋回するともと居た手すりに戻っていく。
「くそっ! くらってしまった!」
勢いほどあまりダメージにはなっていないが、何度もくらってしまうのは危険だろう。
小さくてちょこまかと飛び回られると、俺が唯一できるテダコボールは当てられないだろう。
むやみやたらに撃ってもSPを消費するだけなので、この戦いに俺の出る幕はなさそうだ。
「シバ! 大丈夫ね?」
「大丈夫だけど、俺ができることなさそうだな……」
「何言ってる! 修行のチャンス無駄にできないさー! 今から、今日やらせたかったヒンプンシールド教えるから、すぐ覚えて自分で自分の身を守ってよ!」
ナビーは、当てる気がないようなテダコボールを放つと、アカヒゲマジムンが上方に飛んでよけて、先ほどと同じようにナビーに突っ込んできた。
「ヒンプンを壊した時、しに大変だったさ? 今のシバには、ヒンプンはしに堅いものって簡単にイメージできるでしょ! それをテダコボールをするように作り出すわけよ」
一直線に向かってくるアカヒゲマジムンに、左手を振りかざしたナビーが叫んだ。
「ヒンプンシールド!」
振りかざした手の前に、セジで作られたヒンプンが現れた。
アカヒゲマジムンは、急に現れた目の前の壁に反応できなかったため、そのまま衝突して後方に弾き飛ばされていた。役目を終えたヒンプンは消滅した。
「スゲー! ヒンプンを盾代わりに使うのか!」
「感心してる場合じゃない! 私には勝てないと思われたら、今度はシバに向かってくるからな! ヒンプンシールドのイメージしておけよ!」
案の定、起き上がったアカヒゲマジムンは、ジリリ、ジリリと鳴きながら、上空からナビーを飛び越えてこちらに向かってきた。
体内のセジを左手に集中させて、壊すのが大変だったヒンプンを強く思い浮かべ、左手を振りかざす。
「ヒンプンシールド!」
アカヒゲマジムンがあと2mまで迫った時、丁度いいタイミングで目の前にヒンプンシールドが現れた。
「よし! 成功ってわああああ!」
ヒンプンシールドができたので喜ぼうとした瞬間、突っ込んできたアカヒゲマジムンがヒンプンに穴をあけて、こちら側に顔だけ出してもがいている。
ヒンプンが消えて自由になったアカヒゲマジムンは、至近距離からもう一度俺に向かって突っ込んできた。
しかし、その後方からナビーがテダコボールを放ってきたのを感じ取り、上空に避難していった。
「ビックリした。ナビーと同じように跳ね返せると思ったのに、貫通してきそうだったよ」
「初めてにしては上出来さー! レベルが上がればもっと堅くなるし、いろいろ使い方も増えるよ。今からやるからちゃんと見ておいてよ!」
そう言ったナビーは、橋の真ん中に走っていく。
攻撃が届かない上空に逃げているアカヒゲマジムンは、安全圏から悠々とこちらの様子をうかがっているみたいだ。
ナビーが橋の手すりに上って、空に向かって両手をかざす。
「ヒンプンシールド・ミーチ!」
アカヒゲマジムンに向かって、宙に浮いた倒れたヒンプンシールドが3つ、等間隔の段になって現れ、ナビーはそれを足場にピョンピョンと上っていき距離を詰めていく。
アカヒゲマジムンは急に近寄られて、焦ったように距離をとろうと逃げている。
「ヒンプンシールド・イチチ!」
逃げた先に、5つのヒンプンシールドで作った箱が現れると、アカヒゲマジムンはその中に吸い込まれるように入っていった。
ヒンプンの箱に入った瞬間、ナビーは中に向けて攻撃をした。
「ティーダボール!」
箱いっぱいの火の玉が中でドッカーンと爆発して、ヒンプンが消えていく。
すごい攻撃だったので思わず口からこぼれてしまった。
「やったか!? 流石にこれは耐えられないだろ」
「おっ!? もしかして、これがよくアニメで見る奴の……」
「やべ! 立てちゃった?」
フラグは立たなかったようだ。
ヒンガーセジが黄金勾玉に吸収されていく。
爆発した場所には、普通のアカヒゲだけが残っており、パタパタと森の中へ消えていった。
「よかった。思わず『やったか』って言ってしまったから、倒せてないと思ったよ……」
安堵している俺の横で、ナビーは少し残念がっている。
「あーあ。見たかったなー、あのお約束。また今度お願いね!」
「次からは言うわけないだろ! 今回は、間違って言ってしまったんだよ……」
「いいよ。自分で言うから」
「やめてくれ!」
橋を渡ってすぐ、トイレなどがあり休憩できる場所があったので、一息つくことにした。
「やっぱり、あのマジムンを倒しても、まだ気配を感じるのか?」
「2つの気配が、同じ場所にいるみたいさー。1つはしに強い気配で、もう1つは何でかわからないけど、強くなったり弱くなったりして、私も何が起きてるかわからないさー。だから、慎重に行こうね」
「ってことは、強いマジムンがいるのに、2匹同時に戦うのか。俺たちで倒せると思う?」
「わからないさー。どんなマジムンか見ないと何も言えないよ」
今考えても仕方ないということなので、ヒンプンシールドのことをきいてみることにした。
「そういえば、俺のヒンプンシールドは成功って言えるのか?」
「もちろん! 初めての技を具現化できるだけですごいんだからな! 私なんか、1週間かかったさー!」
……あんなに強いナビーが1週間かかったのか! まあ、これも中二病のおかげか。
「ナビー、もっとヒンプンシールドのこと教えてちょうだい」
「技レベルが1上がるごとに、同時に出せるヒンプンが1つずつ増えて、技レベルの最大値は10。レベル3までは、盾としてしか使えないけど、それより上になると見える範囲の好きな場所に設置できるようになるよ。私はレベル7で7枚まで出せるさー」
とりあえず、早めにレベル4を目指さないといけないと思ったとき、とつぜんナビーに説教された。
「そういえばシバ! ステータス確認、全然してないでしょ? 戦闘中の状態把握は大事だよ!」
俺はあまりステータスを見ないようにしていた。というより、見る余裕がない。
ステータス確認のやり方が、目を閉じてイメージしないといけないので、敵がいるのに怖くてできるわけない。
「戦いの最中に長時間目をつぶる余裕あるわけないだろ!」
「何回も繰り返しやれば、慣れて早くなるさー。ステータスって言っても、HPとかSPだけに絞ってイメージすればいいわけよ。暇なときに練習しといてよ」
とりあえず、練習もかねてアカヒゲマジムンを倒した後のステータスを確認してみる。
柴引子守
Lv.10
HP 48/60 SP 37/44
攻撃力 102 守備力 95 セジ攻撃力 20 セジ守備力 14 素早さ 15
特殊能力 中二病 マージグクル 昼夜逆転 身代わり
特技 テダコボール Lv.3
ヒンプンシールド Lv.1
そういえば、中二病以外の特殊能力を確認してなかったことに気がついたので、見てみることにした。
特殊能力【マージグクル】
取得条件:土に対して感情を籠められるようになれば得られる
・土にセジを籠めやすくなる
多分、小さいとき無我夢中で泥団子を作っていたためだろう。まさか、こんなことが役に立つとは思わなかった。これが役に立つのか疑問だが。
特殊能力【昼夜逆転】
取得条件:昼夜逆転の生活を1年分すると得られる
・徹夜しても眠くならず活動できるが、明け方は眠ってしまう
引きこもり生活で、だいぶ夜更かしをしてたからだ。
深夜に活動できるのはいいが、使いどころを考えないと肝心な時に寝てしまうこともありそうだ。
特殊能力【身代わり】
取得条件:仲間の攻撃を代わりに受ける
・仲間の代わりに攻撃をくらう
・身代わりになった際、ダメージ半減
これは、アカマターマジムンのときナビーに無理やり押されたやつだ。今思い出しても腹が立つ。
「マージグクルってどういうものなんだ?」
「普通は、ハルサーとかやちむん職人のような、土にかかわる職業の人しか取得しないんだけどな……だから、私には使いどころがあまりわからないさー。もしかしたら、シーサーにセジ籠めたら強いのが生まれるかもね!」
シーサーを動かすのは、ナビーがやってた技だ。今度、試して技のバリエーションを増やしたい。
「ナビーはマージグクルないのに、なんでシーサー動かせるの?」
「私のは単にセジを籠める技で、物を動かしたり武器にまとわせたりして応用が利く技だからできるわけよ……まあ、その分SPの消費が激しいから多用できんわけさー」
急に不愉快そうな顔になったナビーは、ブツブツと愚痴を言い始めた。
「本当は、得意な武器にセジを籠めるだけでも戦っていけるのに、まさかこの世界にきて武器を持ち歩くのがダメって、言われると思ってなかったからよ」
「まあ、捕まってしまったら意味ないからね。それより、俺にはいつセジの籠め方を教えてくれるんだ?」
ナビーは立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡すと手ごろな石を拾って、俺に投げてきたのでキャッチする。
「テダコボールとヒンプンシールドは、セジで作るイメージだったさ? セジ籠めは、セジを物に注ぐイメージでやってみて!」
右手にセジを集中させて、握っている石に流れていくイメージをする。
すると、手の中に隠れていた石が、こぶし大になって今は俺の拳になっている。
「おお! これがイシ・ゲンノーか。でも、ナビーのと比べると小さいな」
「これもレベルしだいで大きくなるし、大きさの調整もできるようになるさー!
それより、また、1回でできたな! 私がこれ出来るの、1月かかったんだからな! なんか、なんかイライラーしてきたさー……」
ナビーは、不機嫌そうに俺に近づいてきて、二の腕の内側に手を伸ばしてきた。
「アガー! 何でちんむった!?」




