第69話 出発
作戦会議が終わったので、斥候として一緒に行動する尚忠に挨拶をしようとした時、護佐丸が声をかけてきた。
「みんな、あれから相当腕を上げているみたいだな! また一緒に戦いたかったので、今回は残念さー」
俺と琉美は護佐丸と握手を交わしてお辞儀をし、ナビーが受け答えた。
「護佐丸さんはいつも忙しいですから。何か手伝えることがあったら言って下さい!」
「それはありがたいが、まずは今回の任務をかたずけて来なさい。うり、忠王子が待ちわびているさー」
護佐丸が背後を示したので振り向くと、尚忠がすぐ後ろまで来ていた。
「護佐丸の用なら待ってても良いぞ。わんは城無しの按司だから暇だしね」
「しむさ。わんは直ぐに行かなければならない。今回の作戦が上手くいけば、今帰仁城奪還に一気に近づく。ナビーたーも忠王子のためにちばりなさいね。じょーとー泡盛を準備しておくから、帰ったら酌み交わそう」
……俺、未成年だけど飲んでいいのかな?
護佐丸は激励の言葉をかけると、そのまま退場していった。
威風堂々と立ち去るさまを見ると、この場の按司の中では格が違うのだと感じた。
……俺は、本当にこの人に勝てるのかな?
尚忠が軽くため息をついて、微笑みながら言った。
「あの風格は、按司の中の按司と言われるだけあるね。次の王は、わんよりも護佐丸の方が良いと思うのだがな……」
ナビーは尚忠の肩を叩いて、勝手に宣言し始めた。
「そんなこと言わないでください! その護佐丸さんが下に着くほどの王の息子なんだから、堂々としてないとダメですよ。大丈夫です! 私たちが関わる以上、忠さんには今帰仁城をもう一度、治められるようにしてあげますから」
「あの小さかったナビーも、こんなに頼もしいことを言うようになったのか。やしが、今回の作戦の最大目的は被害者を出さずに偵察することをわしんなよ。シバと琉美も無理はさんけーな!」
4人での作戦会議が始まったが、最初に今帰仁城を抑えることの重要性を教えてもらった。
琉球には大小数百の城があるが、戦略的に重要な城は20ほどである。
現在、重要な拠点で為朝軍に占領されているのは、北部の今帰仁城と中部の座喜味城の2か所で、南部である首里城が北から攻められやすい位置を取られている。
ここで北部の今帰仁城を奪い返すことができれば、中部の座喜味城を挟み撃ちで攻められるのだ。
普通に考えると、近くの座喜味城から落とすほうが軍として攻めやすいのだが、それでは敵の予想の範囲内だということで、この作戦になったという。
俺も知りたかったことを琉美が尚忠にきいてくれた。
「為朝や3将軍はどこの城にいるのですか?」
「わからない。それも調査の目的だね。それ次第では座喜味城から攻める可能性だってあるから、為朝がいないことを願うしかないさー」
為朝がいるかどうかは、ナビーなら簡単にわかりそうな気がしたのできいてみた。
「ナビーはマジムンの気配を感知できるだろう? 為朝レベルならどこにいるかわからないのか?」
「あい、言ってなかったっけ? この世界ではマジムンがばんないいるから、感知しようとしたら私の精神がやられてしまうわけよ。向こうの世界みたいにはできないさー」
……そういえば、感知ができていたのなら、裏切者は見つかっていたはずか。
最後に、尚忠は出発するための最低条件を出してきた。
「琉美はセジヌカナミができないと言っていたよね? 万が一、ナビーと離れることがあってもわんが戦えるように、琉美がセジヌカナミをできるようになってから出発することにしよう。焦らないでいいからゆたしくね」
「わかりました。セジヌカナミのイメージはまだできていませんが、頑張って覚えます!」
会議が終わると、直ぐにナビーと琉美は修行に入った。
イメージを掴んだ琉美は、例のごとく【中二病】の効果で次の日にはセジヌカナミを会得していた。
5日ほどかかると思い込んでいた尚忠は、全然準備していなかったので、今度は尚忠の準備ができ次第出発となった。
3日後の朝。見た目がほぼ守礼門に似ている中山門の前に集合した。
「ここって守礼門じゃないんだよな。守礼門もどこかにあるのか?」
「この世界では、守礼門はつくられていないさー。私は逆に、あっちの世界で中山門がないことに驚いたけどね」
雑談をしていると、尚忠がやってきた。作戦会議の時より引き締まった顔つきになっていて、王子の風格を感じた。
「準備はできたようだね。それでは、いちゅんどー!」
尚忠が指笛を吹くと、どこからともなく大人が乗れるくらいのシーサーが現れた。
「愛獅子の馬波だ。んまのように駆け、どんな波をも飛び越える自慢の相棒さー。ナビーたーは、移動は大丈夫と聞いていたが、シーサーはどうしたのか? ナビーも飼っていただろ?」
「私のシーサーは放置しすぎたせいか、呼んでも来なくなりました。やしが、今はこの琉球犬の白虎がいるので大丈夫ですよ」
ナビーが得意げに話した後、俺に面シーサーを渡したのでセジを籠めてシーサー化させた。
「あいやーなー! いんがシーサーになったさー。はは、うんじゅなーと行動したら、退屈しなさそうだね。楽しんではいけないが、ちむどんどんするさー!」
とうとう、首里城を出発する時が来た。
異世界琉球に着いてからは、首里城の敷地の外には初めて足を踏みだしたので、見るものすべてが新鮮に感じる。
辺りを見渡すと、瓦屋根の家は数十件ほどでそれ以外はかやぶき屋根の様な家がほとんどであった。
首里城もそうだが、この世界の瓦は灰色なので違和感を感じる。赤瓦というものはないみたいだ。
城下の部落を抜けた先は、見渡す限りの更地が広がっている。
元の世界だとまだ那覇市内にいるのだが、目立つものは畑くらいの何にもない風景を見ると、異世界にきた実感が鮮明になってきた。
白虎の先頭に乗っている俺の後ろに座っていた琉美が、背伸びをしながらきいてきた。
「広い大地に澄んだ空気と青い空。異世界に来たーって感じがしてきたね。ねえ、シバ。お互いさ、家からも出られなかったのに、本当に異世界にまで来ちゃったんだね。後悔してない?」
「最後まで助け切りなさい、だったっけ? あんなこと言っていたやつが、今更確認してくるなよ。もしかして、怖じ気ついたとか?」
「うるさい!」
「アガー! 入った……」
肩甲骨のちょうど痛いツボを的確に小突いてきた。
多分、琉美は強引に俺を異世界琉球に連れてきてしまったという罪悪感があるのかもしれない。
隣を歩いていた尚忠が、訝しげなまなざしを向けていた。
「会議でのことは冗談と思っていたのだが、琉美はやはりそうなのだな……琉美専用叩かれんちゅ。わんには勤まりそうにないさー。そういえば、わしとーたん」
それからはなぜか、尚忠は俺たちと距離をとって歩き始めた。
というより、ナビーと琉美には声をかけるが俺には話しかけてくれなかった。
……何か気に障る事でもしたか?
話を聞かれないようにと、ナビーにジェスチャーでテレパシーをつなぐようにお願いした。
「なんねー急に」
「忠さんに避けられている気がするけど、怒らせたのかな? 何も心当たりがないんだけど」
「ああ、そんなこと気にしてたのか? あれよ、琉美のBLスコープで覗かれないように警戒されてるだけさー」
「ああそうだったのかー……って、やりずれーよ! これは完全にナビーのせいだからな。誤解は解いてくれよ」
「誤解って言うけど、本当の事ではあるからねー。文句なら琉美に言ってちょうだい」
「じゃあ、いいです……」
斥候部隊は目立ってはいけないので、スピードを出して走る事はできない。
いつまでかかるかわからない旅路を、只々ゆっくり進んで行った。
思ったよりも上り下りが激しく、舗装された道ではないので白虎が心配になったが、余裕しゃくしゃくと歩を進めてくれている。
……沖縄って案外広かったんだな。それに、起伏が激しいし。ここに来て、インフラ設備のありがたさがわかったよ。
道中、軍隊からはぐれたというグナァウニマジムンと遭遇することもあったが、大きなトラブルは起きなかった。
小さな部落で休憩を挟みながら北上していると、3日目の昼に大きな石垣の壁が目に入った。
「あれは越来城さー。そういえば、シバの家はここら辺じゃないかな?」
言われて見れば確かに、雰囲気の似ている坂道や崖があるが、定かではない。
不思議な気持ちであたりを見ていると、丘の向こう側に砂煙が立っていた。
「あれは、戦だ!」




