第68話 斥候部隊
王の後ろにいた佐司笠が前に出てきて仕切り始めた。
「うんじゅなーには、シバと琉美は急に現れた怪しいわかむんかもしれない。やしが、この2人が居なければ既に琉球は滅んでいたじゃろう。異世界でナビーが駿馬順熙を倒せたのも、舜天や為朝を追い返せたのも、この2人が居なければなしえなかったことじゃ。納得しないで作戦会議をしてもお互いによくないだろうから、一緒に戦っているナビーの口から2人の強さを教えてくれないか?」
俺は師匠でもあるナビーに認められたくてずっと頑張ってきたので、自分では恥ずかしくて聞けない真面目な評価を知れることはありがたかった。
「わかりました。まずはシバですが、ここに居る按司で勝てる人は、かろうじて護佐丸さんだけですかね。実際やってみたらシバが勝つ可能性だってあります」
……え!? 俺ってそんなに強くなってるのか?
護佐丸が高笑いをして皆が注目した。
「ハッハッハ! シバはあれから鍛錬したのだな。それならわんを超えてるかもしれないのう。では、1つききたいのだが、ナビーはシバやわんに勝てるか?」
「私は戦えるノロですから、戦闘中でもどぅーで回復できるので負けないでしょう。やしが、回復なしで戦えば互角と言ったところですかね」
尚巴志は佐司笠の肩を使って立ち上がり、ざわつく按司たちに補足説明してきた。
「この中で、西平総賢に勝てると自信がある者は手を上げよ」
護佐丸、尚忠、阿麻和利の3人だけが手を上げて、他の按司たちが悩みながらも黙り込んでいた。
手を上げながら、阿麻和利が尚巴志にきいてきた。
「あの、ケンボーと呼ばれている槍使いの事ですよね? どの隊にも属さないでどこの戦場にも駆けつける、戦績だけはちびらーさんな脳筋いきががどうしたのですか?」
「5日前、ナビーと真剣勝負をしたのだが、ナビーは開始数秒、一撃でケンボーをたっぴらかしたのだ。あの光景を見たので、ナビーの言うことは虚言でないとワシは確信している」
それだけ伝えた尚巴志は、何も言わずに黙って王座に腰かけた。
阿麻和利は悔しそうに手を降ろし、下を向いて黙り込んでしまった。
……まさか、ケンボーで強さを納得させるとは思わなかったな。
「次は、琉美の強さを説明しましょうね。琉美はノロですので直接戦うことは少ないですが、戦えないわけではありません。攻撃の強さだけで言えば、為朝と張り合えると思います。それよりも、セジの量はノロの中でも上位である私と佐司笠様をはるかに超えています」
疑心暗鬼になってまたもざわつく按司たちに、護佐丸が補足でナビーの発言の信憑性を上げてくれた。
「わんが異世界に渡って初めて琉美を見た時、見上げるほど大きな作り物のシーサーマジムンを倒し、それにセジを籠めて動かしていたさー。そのあと、わんがセジ切れしたのでユイマールをしたのだが、琉美は半分ほどのセジだったにも関わらず、わんの最大量を超えて回復していた。あの時点ででーじだったから、ナビーの言うことはまくとぅだろう」
「ノロの頂点であるわんが見ても、琉美のセジはバケモノ並みじゃよ」
佐司笠の言葉を聞いた按司たちが、一斉に立ち上がり琉美に向かって拍手をし始めた。
「え!? なんで急に……」
佐司笠に手を引かれ、琉美はあたふたしながら列の前に立たされた。按司たちからは、めんそーれーやちびらーさんなど琉美を歓迎する言葉が飛び交い、目を輝かせて琉美を見つめていた。
「ナビー、なんで琉美だけ絶賛されているんだよ? 俺の時と大違いだぞ」
「黄金勾玉を持っているシバとは違って、この世界のいきがんちゃーはノロからセジヌカナミを受けないと戦うことができないさーね? セジがばんないのノロが仲間になったら、大勢の兵を戦いに出せてすごくありがたいわけよ」
ナビーの話を聞いたとき、黄金勾玉の重要性を改めて感じるとともに、本当に自分が持っていてもいいものなのか? 他に適任者がいるのではないか? と思い込んでしまった。
……異世界に来てまで何考えてるんだ俺。これがないと、何もできないくせに。
なぜか琉美の握手会が始まっていて、佐司笠が剥がしをしていた。
どうやら、自軍に迎え入れたくて勧誘しているようだった。
ナビーは琉美の手を引き、元の場所まで戻ってくると、按司たちにあきらめさせる言い訳をし始めた。
「向こうの世界でやる必要がなかったので、琉美にはセジヌカナミを教えていません。ですから、琉美を勧誘しても意味ないですよ。それに、重大な欠点があります。琉美はムチで人を叩くことに快感を持っている異常者なのです。仲間になったらいつやられるかわかりませんよ」
「ちょっとナビー! ひどすうっ!」
ナビーは琉美の印象を悪くしてでも、按司たちには渡さないという覚悟のようなので、俺は琉美の口をふさいでナビーの邪魔をさせないようにした。
すると、尚忠が当然の疑問を投げかけてきた。
「なんだ、そのふざけた話は? では、うんじゅなーはいつもどうしているというのかね?」
「私たちにはサンドバッ、じゃなくて、琉美専用叩かれんちゅのシバがいるので、大丈夫なのです」
「それに、男性ばかりの軍団に入れると、勝手に男同士の恋愛を妄想されてしまいますよ」
琉美は背後から口をふさぐ俺の腹に肘打ちをして、うずくまった俺にムチを出して滅多打ちにしてきた。
「2人ともいい加減にしてよね!」
ナビーが淡々と説明を始める。
「このように、叩くのが好きな琉美と叩かれるのが好きなシバは共生関係を結んで暮らしてきました。これに耐えられるというなら、どうぞ琉美を連れて行ってください」
「勘違いするな! 俺は、叩かれるのは好きじゃないぞ!」
按司たちはドン引きしてしまい、何も喋らなくなってしまった。
少しの沈黙の後、佐司笠が本題を進めてくれた。
「まあ、ナビーたーはどこにも所属させずに、戦況を見て各地に応援に行かせるつもりじゃ。その時は、ゆたしくな。ここからが本題じゃが、前回の作戦会議で決まった今帰仁城偵察の話があったじゃろう? 5日前の早朝に20人編成で向かわせたのだが、首里を発って10分ほどのところで5人死亡、15人が先頭不能状態で発見された。意識を取り戻した兵が言うには義本の仕業のようじゃな」
……ナビーが見つけた15人の兵は偵察隊だったのか。でも、5人死亡ってことは聞いてないぞ。
ざわつく按司達の中、護佐丸は淡々と話してきた。
「義本が首里城を攻める前に見つかってしまったのか。偵察隊には首里軍の手練れで編成したのだったな。作戦はバレてないだろうが、もう一度偵察隊を再編成するつもりですか?」
「はい。前回は隙があれば攻められるようにと20人編成にしたのだが、目立ちすぎたので、今回は少数精鋭の斥候部隊で状況確認だけにしようと王と話し合ったのだが、按司たちの意見がききたいので招集したのじゃよ。何か、異論はあるかのう?」
しばらくの沈黙で賛成が決まった。
今まで黙っていた尚巴志が立ち上がり、佐司笠に代わって発表した。
「ワシはこの任務を、ナビーたー3人と按司を1人加えた4人編成でいこうと思っている。これに異論はあるかね?」
阿麻和利が手を上げて発言の許可をもらった。
「異論ではないですが、理由を聞いてもよろしいですか?」
「まず、ワシらの決めた作戦で5人も亡くなってしまったことが心苦しいのだ。いくさゆーだからしょうがないからといって、兵を簡単に死なせることはしたくない。ナビーたーは3将軍や為朝と戦っても生き延びてきただけの強さと経験がある。危ない任務で申し訳ないが、ナビーたーのほかには考えられなかったのだ」
「そうですね。僕もそう思います。では、もう1人の按司は信頼し合っているみたいなので護佐丸殿ですかね?」
「護佐丸は、築城中の中城城の完成が近くそれに集中してもらうので、他に希望する者はおらんかね? この作戦に参加してもいいと思う按司は申し出よ」
誰も名乗り出ずに10秒程たった。
尚巴志はなぜか、息子である尚忠をにらみつけている。
それに気が付いた尚忠は深いため息を吐いた。
「ハァ……わかったよたーりー。この尚忠、自ら奪われた今帰仁城を確認してきますので、そんな怖い目を向けないでください」
「それはよかった。忠なら土地勘もあるので適任だな。いずれはどぅーの城になるのだから、ちばりなさいよ」
俺たち3人と共にする按司は尚忠王子に決まったようだ。




