第64話 王の首を狙う者
家に着くとすぐ居間に倒れこんだ。
気が付かなかったが、城に呼ばれての尚巴志王との謁見は精神的に結構なストレスになっていたようで、すごく疲れを感じた。
琉美は俺の隣で腰を下ろし、一緒にだらけている。
「まさか、尚巴志王と戦うことになるとはね。もし、これで不合格になったら、私たちってどうしたらいいのかな?」
「そのまま国賓として、ダラダラここで暮らすか? なんちゃーーー!」
琉美は俺のお尻をムチでシバいてきた。
「バカなこと言わないでよね!」
「痛いな! なんちゃって、まで言わせろよ! 冗談に決まっているだろ」
俺は、叩かれたお尻をさすりながら琉美に向き直り、真面目に話すことにした。
「別に、俺たちは尚巴志から認められようが、そうでなかろうが関係ないだろ。まあ、琉球軍と手を組んだ方が為朝を倒しやすくなるとは思うけど、組まないにしても俺たちは俺たちで戦って行けばいいだけだからな。覚悟してこの世界に来たんだ。最初からぬるい生活を送れると思ってはいないしね」
「よかった。シバはとぼけているようで、ちゃんとした考えがあるんだね。そういえば、さっきの尚巴志と2人で話したいって言ったのも、何か考えての事なの?」
俺が答えようとした時、玄関の方から戸を叩く音がしたので振り向くと、尚巴志が外を気にしながら立っていた。
「その話、ワシも聞かせてくれないか?」
家の中に入りすぐに戸を閉めて、俺たちがいる居間まで上がってきた。
俺と琉美は慌てて跪き、なぜここに来たのかを尋ねた。
「なんでこんなところに尚巴志王が? 大丈夫なんですか?」
「シバと琉美だったね。誰も見ていないので、そうかしこまるな。それに、ワシはうんじゅなーの王ではないからな」
尚巴志は家の中をキョロキョロと見まわした。
「ナビーはいないのか? それに、白虎はどこにいるのだ?」
「ナビーは知り合いに帰還の報告に回ると言って、白虎に乗って行ってしまいました」
「あいやーなー! にーさんかったか……それはいいとして、せっかくお忍びで来たんだ、ワシと話したかったことを申してみよ。佐司笠に聞かれては困ることなのだろ?」
「いいのですか? どこのだれかとも知らない人と秘密裏に会話なんかして」
「佐司笠には怒られるだろうな。やしが、うんじゅなーはナビーのしんかーだから大丈夫だろう」
正直、言いにくい事ではあったが、王みずから訪ねて来てくれたので考えをしっかりと伝えることにした。
「王には申し上げにくい事なのですが、王宮内の上層部に裏切者がいる可能性が高いとお伝えしたかったのです……」
「じゅんになー? それが本当の事なら、でーじなってるさー」
尚巴志は、難しい顔をして深く考え込んで黙ってしまった。
「すまないが、ワシが思い当たる奴はいない。シバは、何をもって裏切者がいると思ったのだ?」
「向こうの世界で駿馬順熙を倒した後、そのことをナビーが佐司笠さんに伝えたじゃないですか。そのあと、すぐにナビーがやったと為朝に情報が渡ったことがひとつ。もうひとつは、ナビーが昨日、この世界に帰ると知っていたのは王宮内の上層部の数人だけなのですよね? それなのに、世界がつながった時間にちょうど敵に襲われたのですよ」
「……シバは、佐司笠を疑っているのか?」
「いいえ。佐司笠様というより、佐司笠様からの情報を得られる人を疑っています」
琉美が話に割って入ってきた。
「ああ! だから尚巴志王だけに伝えたかったんだ。普段の佐司笠様の行動や人となりがまだわからないから、うかつに言えないもんね」
「シバ。このことはナビーには話しているのか?」
「裏切者のことは昨夜話しました。でも、佐司笠様を警戒していることは言っていません」
「シバは、ナビーに佐司笠を疑っていると思われたくないのだろうが、心配せんでもよいと思うぞ。ナビーは情が深いが、それゆえに裏切者などをとことん嫌う。佐司笠やワシでさえ、裏切ったものなら容赦しないような子だから大丈夫さー」
そういえば、俺が剛にやられてマブイが落ちた時、ナビーは相当怒っていたのを思い出した。あの怒りを見ていたので、尚巴志の言うことを納得できた。
「はい。ナビーなら容赦しないでしょうね」
尚巴志は優しい笑みを浮かべ、俺の右手を取って硬い握手をしてきた。
「シバは、王様に向かって『王宮に裏切者がいます』なんて言うのは、でーじいじゃーやっさー。伝えてくれてにふぇーでーびる。後は、ワシが注意深く様子を見ていくので、王宮のことはまかちょーけー」
話が終わると、そろそろ佐司笠に怒られるので王室に戻るという。
「うんじゅなーとの戦いの日、楽しみにしているさー」
そう言って、キョロキョロとあたりを見渡しながら、コソコソと正殿に向かって駆けて行く尚巴志を家の外で見送っていると、正殿前広場を囲むように建てられている外城の屋根に異様な気配を感じた。
「ハッハッハ、本当だ! 王のくせに1人で歩き回ってやがるぜ」
瓦屋根の上に立っているその男は、まだ12~13歳くらいの子供のように見える。
少し大きめな深緑の着物をダッボっと着て、短めの刀を2振り腰に差していた。
尚巴志も気配を察知していたので、腰の刀に手を置いて構えていた。
「いゃーは、義本だな。なんでくまーに?」
「なんでって、あんたを殺すためだよ。おいらもそろそろ大きな戦果がないと、為朝様に見限られるんじゃないかと思ってさ。だから、おとなしく死んでちょうだい」
義本は刀を抜いたまま屋根を一蹴りすると、一瞬で尚巴志の元にたどり着き、斬りかかっていた。
しかし、尚巴志は居合で弾き飛ばした。
尚巴志は義本に向かい刀を構えながら、ものすごい大きな声で叫んだ。
「ノロを連れてこい!」
俺はその言葉で、現在の尚巴志はセジが使えないことを悟った。
たしか、護佐丸の時もそうだったが、ノロと黄金勾玉を持っている人以外は、ノロからセジヌカナミを受け取らないとセジが使えなかったと記憶している。
「ノロがいないとセジが使えないんだ! 琉美、俺たちが何とかしないとヤバいぞ!」
「一応、私もノロなんだけど、セジヌカナミは教わっていないからね。シバはガンガン行ってちょうだい。回復は絶対に間に合わせるから」
俺は家の中においてある荷物の中から、修行で使っていた模造刀を引っ張り出して外に出た。
すでに、尚巴志と義本の打ち合いが始まっている。
やはり、セジが使えないため、尚巴志は押され気味で防戦一方になっていた。
「あんたは強いって聞いていたけど、大したことないんだね。こんな脆い首なら早めに斬りに来ても良かったなぁ」
「テダコボール!」
義本が刀にヒンガーセジを纏わせて、とどめを刺そうとしていたので、やめさせるためにテダコボールを適当に数発放った。
義本は後方に退いて技を繰り出すのをやめて、俺を警戒している。
「なんだお前? 下っ端のくせに邪魔するなよ」
俺は尚巴志の前に立ち、素振りで使っていた模造刀を構えた。
「尚巴志王。琉美の後ろに下がって下さい。ここは何とかします」
「うにげーさびら。やしが、無理はさんけーな。シバが3将軍相手とどう戦うのか、見学させてもらうとしようかねー」
義本を警戒しながら尚巴志が琉美の後ろに下がったのを確認したとき、佐司笠と20名ほどの警備兵がぞろぞろとやってきた。
そして、向き合っている義本と俺の間に割って入ってきた。
「王をかばって下さり、感謝します。後はお任せを」
「ふらー! 下がれ!」
尚巴志のものすごい怒号が響いたとき、目の前にいる警備兵の5人が一瞬で斬られて突っ伏していた。
「弱いのがぞろぞろと、死にに来たのか?」
義本が他の警備兵に斬りかかろうと踵を返すのが見えたので、俺はすぐにセジオーラをレベル5にして押し込むように斬りかかった。
それに反応した義本は刀で受け止めたので、距離をとるために後方に弾き飛ばした。
「いったーでは歯が立たん。シバの邪魔はするな!」
尚巴志の言葉に従い、警備兵たちは腰を抜かし気味で退いた。
「琉美、けが人をお願い!」
「わかった。回復の最中にはやられないでよ!」
琉美は倒れている警備兵5人を、龍のムチで飲み込んで自分の元まで引き寄せた。そして、佐司笠と一緒にグスイをかけている。
「お前、なかなかやりそうだな。一撃がすごく重いぞ」
俺は納刀して居合の構えで義本を警戒する。
「それじゃあ、引いてもらえないか? 流石の3将軍でも、敵の本拠地から生きて帰るのは簡単ではないだろ? じきに応援も来る」
「王も兵も弱いこんな城、簡単に落とせる。お前には負ける気がしない」
義本が刀にヒンガーセジを纏わせて斬りかかってきた。それを居合で受け止めたが、今度は弾き飛ばせずに鍔迫り合いになった。
「お前の居合は重いけど、居合の性質上、片手だけの攻撃だから、両手で握ればどうってことない」
義本は上段に構え直して、もう一度刀を振り下ろしてきたので後方に下がると、その避けた背後で斬りかかろうとしている気配を感じた。
「ヒンプンシールド!」
振り返る余裕がなかったので、ヒンプンシールドを義本との間に設置してその場からすぐに離れて振り返ると、義本は余裕の笑みを浮かべていた。
……速すぎて身体が付いていかなかった。もしかして、スピードは舜天より上なのかもしれないな。
「初見でおいらの速さから逃れた奴は久しぶりだな。でも、いつまでついていけるかな?」
このままではいけないと思い、俺が模造刀を納刀して地面に落とすと、ドスンと重厚な鈍い音がした。
「うおおおおおおおお! 〇ッコロのやつやっさー! 流石シバ、世界が変わっても中二病のままだね!」
白虎に乗ったナビーが、義本が立っていた外城の屋根に乗りながら叫んでいた。




