第63話 琉球の戦況
「おかえりナビー! 寂しかったさー! よく帰ってきたねー!」
「えー! はごーさよ。たっくわるな!」
人払いの後、急に人格が変わったようにナビーに抱き着いた尚巴志は、ものすごく嫌がられていた。
尚巴志が豹変したことにも驚いたが、先程まで敬っているような態度をとっていたナビーが、王様相手に辛辣な言葉使いをしたことの方が衝撃的だった。
話が進まないからと、佐司笠が2人を引きはがして間に入った。
「巴志王。2人が困ってますぞ。まずは、琉球の情勢を説明してあげましょう」
「ゴホン! 取り乱して済まない。あかんぐわーの時からナビーを見ていたので、かわいくて仕方ないのだよ。それに、異世界出向命令を出したのはワシだったので、申し訳なくての……では、現在の琉球と為朝軍の戦況を説明しようかね」
尚巴志と佐司笠は、ナビーが俺たちの世界に渡ってからの琉球のことを話してくれた。
俺たちの世界にナビーが来た頃、琉球の各地にある城はまだ奪われてはいなかった。
為朝軍はじわりじわりと戦力を強化していき、北山(琉球の北側の地域)の要である今帰仁城を制圧されてしまった。
ここ、首里城から今帰仁城までは距離が離れているので、戦況の把握が遅れてしまい、王府軍の応援が間に合わなかったようだ。
為朝軍が今帰仁城を本拠地にした後、さらに戦力を増して琉球軍の兵士が大勢やられてしまう。
しかし、為朝軍の戦力が急に弱まった。
その原因は舜天が異世界に渡っていた時期で、指揮官不在で統制が取れなくなり、琉球軍は少し持ち直すことができた。
「ナビーたーはその時の舜天とも戦ったのだろ? でも、何で舜天は戦いを投げ出してまで向こうの世界に行ったのだろうか?」
「ああ、あれはですね、舜天はナビーに告白しに来たんですよ」
「告白!? 詳しく聞かせてほしいな」
「えー! いちいちいらんこと言うな!」
ナビーは俺の二の腕をつまんで、鬼の形相で俺と尚巴志をにらみつけた。
「つ、続きをお願いします……」
舜天が帰ってくると為朝軍の勢いが再度増して、首里城と今帰仁城の中間にある座喜味城を落とされてしまう。
護佐丸が中城城の築城で忙しく、不在になることが多かったので、そのすきに攻められてしまったようだ。
そのあと、護佐丸が座喜味城を奪還しようと攻めているときに、為朝と舜天が向こうの世界に渡り駿馬順熙の仇を取りに行ったことを知った護佐丸は、ナビーが狙われると思い助けに来てくれたのだという。
そして、現在は護佐丸を中心に座喜味城から南下してくる為朝軍のマジムン兵を何とか抑え込んでいて、気を抜けない状況なのだという。
「この程度で済んでいるのは、ナビーたーが駿馬順熙を倒してくれたからだろう。改めて礼を言う」
「実際倒したのはキジムナーなんだけどね。私たちの功績と言われるのは申し訳なく感じるさー」
ナビーの言葉を聞いて俺も同じ気持ちでいたが、琉美は違う考えを持っていた。
「その気持ちはわかるけどさぁ、あの戦いは誰一人がかけても勝てなかった戦いだったから、称賛ぐらいは素直に受けてもいいんじゃないの?」
佐司笠がナビーの肩に手を乗せて琉美に賛同する。
「るーみーの言う通りさー! 3将軍を相手して生き残れただけでもすごいことだからのう。命を懸けて戦っているのじゃから、称賛は当り前じゃよ」
「そうですね。佐司笠様、にふぇーでーびる」
「ナビー、ワシには言ってくれないのかね……」
尚巴志が落ち込んでいる横で、佐司笠はナビーに大切な選択を迫ってきた。
「ナビーはいなぐにも関わらず今までよくやった。異世界の問題を解決したこの機会に、いきがに交じって戦うのは終わりにして、ノロの役目だけをやっていかないかね? 何も、ノロが危険を冒してまで戦うことはないからの」
「そうだぞナビー。異世界に行かせたワシが言うのもなんだが、危険なことはいきがんちゃーに任せて、後方支援にまわっても良いのだよ」
どうやら、尚巴志と佐司笠は、ナビーが前線で戦うことを良く思っていないようである。
2人の心配そうな顔を見る限り、ノロだからというよりも、赤ちゃんの頃から見守っているナビーを心配しているからなのだと思う。
「まだそんなこと言っているわけ? 2人とも、過保護すぎさー。私は絶対に戦うからね」
「ナビー……」
尚巴志と佐司笠はナビーが拒否することを想定してはいたようだが、すごく残念そうな顔をしていた。
俺は、ナビーが戦うことをどうにか納得させようと、少し2人と話すことにした。
「あの、質問なんですが、琉球軍にはナビーより強い兵士は何人くらいいるんですか?」
「そうだな……ワシの見立てだとギリギリ100人ってとこかねぇ。だから、わざわざ戦いに加わらなくても良いのだよ」
「でも、それってナビーがまだこの世界を出発する前の話ですよね? 今の成長したナビーを見てやってくださいよ」
琉美も加勢してくれた。
「そうですよ。ナビーは強いし頼りになるんですから! それに、今は私とシバと白虎も一緒です。簡単にはやられませんよ!」
「!? うんじゅなーは戦うためにこの世界に来たのか? あしびに来たのではないのかね?」
尚巴志が意表を突かれた表情できいてきた。
佐司笠も同じような顔をしている。
「俺たちはナビーに自分たちの世界を救ってもらいました。だから、今度は俺たちがナビーの世界を救いたいと思っています」
「私たちはナビーと一緒に為朝を倒すまで、元の世界に帰らないつもりです」
「わん!」
ナビーは向こう側を向いて、顔を見せないようにしている。
俺と琉美の話を聞いた尚巴志と佐司笠は、難しい表情になった。
異世界から来た俺たちをどう扱っていいか整理がついていないようで、少し考え込んでいた。
「わかった。ナビーも含め、うんじゅなーがどれほどちゅーばーなのか、ワシが見極めさせてもらう。5日後、正殿前で公開模擬戦を行う。それまでは、準備するなり休むなり好きにしてくれ」
「あの、ちなみに尚巴志王と護佐丸さんってどちらが強いのですか?」
「ワシ……と言いたいところだが、今は前線で戦っている分、護佐丸だろうな。なんせ、ワシは王になってから、危険なことはすべて佐司笠に止められるのだよ……」
佐司笠は深いため息をついて呆れながら言った。
「王がやられてしまったら、その時点で負けなのですぞ。どぅーで王になることを選んだのじゃから、後は下のものに任せてドンと構えるだけでいいのです。それに、ワシが見極めると格好つけているが、ただ単に戦いたくてしょうがないだけですよね? まあ、今回は見逃しますが、もう年も年なので少しは落ち着いてくださいね」
「おい、佐司笠! うんじゅはワシのあやーか? 王に対する態度ではないぞ」
「そういう態度をとってほしいなら、王がすべきことをしてからですよ」
尚巴志と佐司笠のけんかが始まって、空気が悪くなったと思ったが、ナビーは呆れながらも笑っていた。
「尚巴志王も佐司笠様も相変わらずだねー。何も変わってないさー」
2人は俺たちに見られていることを思い出して、恥ずかしそうな顔をしていたが、何事もなかったように話を続けた。
「何か不便なことがあれば侍女に伝えてくれ。試験の様な事はするが、国賓として迎えることに変わりはないのでな」
話がまとまったところで、ずっと気になっていた裏切者のことを聞いてみようとしたが、少し考えてとどまった。
本当にこの場で話してもいい内容なのかを頭で整理すると、何となく佐司笠には聞かれない方がいいような気がした。
「すみません。尚巴志王と2人で話したいことがあるのですが、許可してもらえませんか?」
尚巴志が返答しようとしたのを遮って、佐司笠が答えてきた。
「わっさいびーん。どんな方でも王と2人きりにすることはできないのじゃよ。わんも一緒ならいいのだが、どうするね?」
「そ、それなら大丈夫です。ちょっと男同士で話したかっただけですから。王様と話すことを軽く見てました。すみません……」
「ワシは別にいいのだがな……」
俺が佐司笠を警戒していることを知られると、ナビーが気にすると思ったので、ここはごまかしておくことにした。
……後で説明して、ナビーから伝えてもらうことにするか。
白虎に乗りたがっていた尚巴志を引っ張って、佐司笠と2人で王の務めに戻っていった。
それを見送ると、ナビーがこの世界の知り合いに帰還の挨拶に行くと言って、白虎に乗って何処かに行ってしまった。
俺と琉美は、城内にいるのは落ち着かないので、そのまま家に戻ることにした。




