第61話 異世界琉球
まぶしすぎて、自分がどこにいるのかわからなくなるほどの光の中を、ひたすらまっすぐに進んで行く。
世界の狭間にできた穴を見つけたが、小さくなっていくのを確認した。
急がないとこの空間に閉じ込められるかもしれない。
「あれ、ナビーだよ!」
琉美が出口を指さしたので注視すると、ナビーはこちら側を向いて両手をあげて立っていた。
しかし、俺たちには気が付かずに何かを見上げているようだった。
その時、背後からは、光を飲み込みながら暗闇が迫ってきている。
首里城のヒンガーホールはもう消えてしまい、この空間も徐々に消滅しようとしているみたいだ。
『白虎ーーーーーーーーーー!』
俺と琉美は、間に合ってくれと必死で白虎に願った。
「わうーーーー!」
闇に触れるギリギリのところで白虎は獅子突進を出口に向かって繰り出し、異世界琉球にいるナビーの目の前に抜け出すことに成功した。
「あきさみよー!?」
急に出てきた白虎に驚いたナビーは、尻もちをついて固まってしまっている。
俺と琉美はすぐに白虎から降りると、白虎は嬉しそうにナビーを舐めまわした。
それでやっとナビーは言葉を発した。
「シバ、琉美、白虎。なんでよ……」
琉美が手を差し伸べてナビーを立ち上がらせる。
「私たち、ナビーについてきちゃった! それにしてもギリギリセーフだったよ」
後ろを振り返るとセジホールはすでに消滅していた。
それよりも気になったのが、すぐ後ろに佇むこの世界の首里城から、夜空にモクモクと煙が立ち上がっていて蒸し暑く感じた。
どうやら、この世界の首里城も燃やされたが、小火で済んだみたいだ。
「こっちも火を点けられたのか。ナビー、あの鬼面の奴はどこ行ったんだ?」
「火を消すことに夢中で見失ったさー。それより……」
ナビーは涙をこらえながら強張った表情のまま、俺の胸を小突いてきた。
「何でついてきた……」
冗談を言う雰囲気ではなかったので、琉美と話しあった時の気持ちをそのまま伝えた。
「ナビーがアマミンたちに言ってただろ? 『大切な人たちが戦っているのに、違う世界で1人だけ楽しむことなんてできませんから』って。俺と琉美も同じ気持ちだっただけだよ」
「やしが、花香ねーねーが1人になってしまうさー……」
「一応、必ず帰るからって手紙は残してきた。それに、剛さんとライジングさんに花香ねーねーのことを気にかけてと言っておいたから大丈夫だと思う」
琉美はニコニコしながら不安そうなナビーの手を握った。
「私たちはナビーと一緒に戦う世界を自分の意志で選んできた。だから、気にしなくてもいいんだよ!」
ナビーは涙をぬぐい琉美の手を握り返して俺を見た。
「2人のうむいは伝わった。嬉しいしありがたいさー。これからもゆたしくね! やしがよ、2人とも向こうの首里城が燃えてしまったから、帰れなくなっていること気が付いているねー?」
『あ……』
俺と琉美はナビーについていくことだけ考えていたので、帰りのことは完全に頭の中になかった。
「だ、大丈夫だよ。数年で建て直すと思うし、元から為朝倒すまで帰る気はなかったから」
「そ、そうよね。現代の建築技術があれば、帰るころには完成しているはずだよ……」
明らかに動揺している俺たちを見て、ナビーは呆れてため息をついた。
その時、首里城の中から真っ白い着物を着たナビーくらいの身長で、大人だとは分かるが幼い容姿の女性が慌てて飛び出してきた。
「何事じゃ!?」
「佐司笠様。ただいま戻りました!」
今までナビーから聞いていた佐司笠のイメージは、40~50代くらいのおばさんを想像していたが、全く正反対の容姿をしていたので驚いた。
「おかえりナビー。早かったのう。で、この方たちは誰なのじゃ?」
「向こうの世界で一緒に戦ってきた、私のしんかです。私の力になりたいからと、ついてきてくれました」
俺と琉美は佐司笠にジロジロと観察されると、手を差し伸べられたので自己紹介をした。
「初めまして、佐司笠様。柴引子守です。シバって呼んでください」
「初めまして、金城琉美です。佐司笠様ってナビーの親代わりをしたお方ですよね? まさか、こんなにお若いとは思いませんでした」
「若くてかわいいだなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃないか! ナビーがお世話になったようでにふぇーでーびたん」
……琉美はかわいいとは言ってないだろ。
「それで、ナビー。この小火は何だったのだ?」
「細かいことは後で話しますが、この世界から向こうの世界に鬼の面をかぶった人が現れて、首里城に火を点けてこの世界に逃げていきました。すぐに追いましたが、ここにも火を点けられてしまって……」
「じゅんにな! ちゅうがナビーの帰る日だと知っていたのか……情報が敵に漏れたのかもしれないさー。すぐに見張りを強化しないとだねー」
どうやら、佐司笠にも鬼面の人が誰なのかは分からないみたいだ。
首里城のセジホールから来たということは、敵が王の喉元まで迫っていたことになるからだろう、佐司笠とナビーは深刻な表情をしていた。
「あちゃあさまで時間がある。後のことは他に任せることにして、ナビーたーはにんじみそーれー」
俺たちに礼をした佐司笠は、正殿とは別の警備兵のいる中城という建物に向かって行った。
俺たちは、ナビーが住んでいたという城壁内の片隅に建てられた、4~5人は住めるような木造の家に案内された。
今は誰も住んでいないと言っていたが、その割には綺麗な状態に保たれている。
「私がいない間も風通ししてくれていたみたいさー。ここが、この世界での私たちの家だからね。なんでも好きに使ったらいいさー」
「それにしても、佐司笠さんはいくつなんだ? ナビーの親代わりにしちゃ若すぎるだろ」
「たしか、50歳くらいじゃなかったかね。あっちの世界で言うロリババアさー」
「ロリババア言うな!」
荷物を置いた琉美は、俺も引っかかっていたことをナビーにきいてきた。
「気になっていたんだけど、さっきナビーが消した火って、セジで作った水で消したんでしょ? それっておかしくない?」
テダコボールがものを燃やさないように、セジでは実物には干渉しないはずである。琉美はそれが言いたいのだろう。
「言ってなかったかね? この世界のセジはすべてに干渉するわけよ。火を点ければ燃えるし、水を使えば消せる。だから、料理に洗濯、お風呂なんかもセジを使えばしに便利だわけさー」
「まじかよ! でも、俺はまだ水系の技覚えてないんだよな」
「そういえば教えてなかったね。琉美も一緒に、明日にでもサクッと教えようね」
「スナック菓子みたいに言ったけど、そんな簡単に覚えられるものなの? 私って回復系とムチ系しかできないから、不安なんだよね」
ナビーはニコニコしながら自信満々に言い放った。
「大丈夫よー! 私たちは中二病ってこと忘れてないね? 出来ないじゃなくてやってなかっただけ。イメージさえできれば簡単さー」
そういえば、俺たち3人とも特殊能力【中二病】もちだってことを忘れていた。
最近は覚えている技を磨くことに専念していたので、新しい技を覚える機会がなく、中二病の恩恵を感じることがなかった。
今日は寝具などはなかったので適当に雑魚寝することになったのだが、疲れているはずなのに眠れない。
元の世界に帰れなくなることの不安や、これから未知の生活が始まる事への期待など、頭の中でごちゃごちゃになって落ち着けないでいる。
それに、佐司笠に叩き起こされた警備兵が見回りを強化していて、騒がしくなっていた。
鬼面の人についてわからないことがあったので、ナビーに意見を求めることにした。
「あの鬼面の奴、向こうで首里城に火矢を放つとき、本物の火を使っただろ? それって、あっちの世界のことを知ってないとできない行動だよな? それに、剛さんみたいにヒンガーセジをうまくコントロールしていたのが気になったんだけど」
「そういえばそうだね。あっちの世界に行ったことがある奴って考えると、舜天か為朝ってことになるけど、全然しらんちゅだったさー」
薄々感じていたことを琉美が包み隠さずに言ってきた。
「琉球側に裏切者がいるんじゃないの? 情報が漏れたこと前にもなかったっけ?」
そんなことがあったような気がしたので思い返してみる。
たしか、ナビーが佐司笠に舜馬順熙を倒したと報告したとき、士気を高めるために仲間に報告をしたら、直ぐに為朝に情報が漏れたことがあった。
そのせいで、為朝を怒らせて戦う羽目になったのだった。
「考えたくないけど、やっぱり裏切者がいそうだな。しかも、情報が入りやすい上層部の連中に」
「……」
ナビーは薄々感づいてはいたのか、残念そうに黙り込んでしまった。
信頼している仲間に裏切られるのはとても辛いだろう。
俺と琉美は返答を求めないで、そのまま目を閉じて朝が来るのを待っていた。




